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ヨセミテ国立公園ハーフドーム:許可証無しで登頂(絶景ルート教えます)

ヨセミテと言えば、グランドキャニオンと並んで、西海岸から行かれる非常に人気のある国立公園。サンフランシスコ、ロサンゼルスの両都市からのアクセスの良さも、その人気の秘密のひとつ。多くの観光客が訪れるヨセミテバーレーは、四方にそそり立つ淡い灰色をした花崗岩の壁、その高みから流れ落ちる数々の滝、雪解け水を湛えた透明な川、それに寄り添うように生い茂る緑の木々。どこを見ても目を疑うほどの美しさ。

グレーシャー・ポイントからの眺め。右端がハーフドーム。名前の由来の通り、ドームを二つに割ったような形そんなヨセミテ・バレーの奥にそびえ立つ立つハーフドームは、エル・キャピタンとともにヨセミテ国立公園の象徴的な存在。ヨセミテバレーを訪れると否が応でも目に入り、登山好きな人であれば、一度は登ってみたいと思うはず。高所が苦手でなく、長時間ハイキングの体力があれば、特殊な登攀技術がなくても登ることが出来ます。途中にあるバーナル滝、ネバダ滝も春先から夏にかけては水量も多く、これまた感動ものの美しさ。一度はトライしてみる価値あり。今回は、滝を眺めながらのハーフドーム登頂記をご案内します。

5月末のメモリアル・デーの週末。未だ薄く暗く、肌寒い午前5時にキャンプサイトを出発。バス通りを20分程度歩き、ハッピー・アイル脇の橋から川沿いのミスト・トレイルに入る。ここから山頂までは、片道約11㌔。標高差にして約1,500㍍の行程。往復の所要時間は12時間を予定している。最初の2キロ程度は舗装されているのでアクセスは容易であるが勾配は急だ。息を切らせながら坂道を暫く行くと開けた橋に出る。ここで初めてバーナル滝が視界に飛び込む。対岸に渡る橋から眺めるバーナル滝は、未だ少し距離があり水煙にぼやけているが、自然とこれから始まる冒険への期待を高める。

このトレイルを歩くのは、今回で3度目になる。一度目は、友人と二人でハーフドーム許可証を入手し、初めての試みとして。その時は、不運にも5月末で、残雪の影響でケーブルの設置が間に合わず、ハーフドームを目の前にして断念した(登山前からケーブルが設置されていないのは分かっていた)。2度目は、その翌年に同じ友人とリベンジし念願の初登頂。次いで今回。実は家内が是非チャレンジしたいと言い出し、3月に許可証を申し込んだものの抽選にハズレ断念。とは言うものの、折角だから滝を楽しみながら、途中まででも行ってみようという事で、この度のハイクとなった。

川を越えると山道に入るが、始めの舗装道路よりは緩やかな勾配に感じられる。このルートはミスト・トレイルと呼ばれ、名前の取り水しぶきが名物。水量が多いときは雨具がないとずぶ濡れになる。特に降雪の多い年の春先は、滝から流れ落ちる水量が物凄く、早朝の気温の低い時間帯は、雨具無しでは凍えること必至なので注意が必要だ。

林道を抜けると、川を眼下に臨む階段状の道となり、その先には、水しぶきを上げて流れ落ちる大迫力のバーナル滝が迫る。間近から見上げる滝には、威厳の様なものさえ感じられる。ナイアガラの滝や、アマゾン・ジャングルの秘境イグアスの滝も訪れたことがある、滝好きにとっては、たまらない光景である。規模こそ大きくはないものの、自らの足で歩き、間近に体感できるこの滝は、かなり上位にランクインする。雨具を着込み、準備万端で輝く飛沫と、その向うの滝の景観を楽しみながら、石を積み重ねて作った階段を上る。足元はかなり滑りやすいので注意は欠かせない。

水しぶきを大いに浴びて登りきると、バーナル滝が轟音を上げて落ち込むところを真上から見下ろせるポイントに辿り着く。見下ろす滝は高さと水量で恐怖を感じるほど。

ここで軽食を取り一休み。まだまだ、先が長いので余りノンビリはしていられない。再度、歩き始めて暫く行くと、改めて橋を渡る。橋の下は、永久のごとく長い時間、川の流れに晒され、滑り台のようにスベスベとなった一枚岩。万が一落ちれば、正に滑り台状態で、そのまま止めどなく流されること間違いない。時々、滝の脇や橋の手すりに乗ってセルフィーを撮ろうとして、バランスを崩し落下する事故もあるので、ここでの悪ふざけは禁物。

川を渡り数キロ歩くと、今度はネバダ滝を右手に見ながらのルートとなる。足元が悪いバーナル滝付近のルートと比べると、この辺りは比較的安全に目の前の滝や、周りの景観を楽しみながら歩くことが出来る。色濃い新緑、流れ落ちる滝の白、澄んだ空の青の三色が素晴らしいコントラストを作り出す。

一歩また一歩と上るたびにネバダ滝が大きくなり迫力が増すが、水しぶきは僅かで、バーナルほど気にならない。滝を眺めながら歩くこと30分程度。急勾配を登りきり、分岐点に出る。右はネバダ滝、左はハーフドーム。ネバダ滝へは帰りに立ち寄る事とし、迷わず左へ向かう。

狭い山道を歩く事、おそらく一キロ程度。開けた場所に出る。リトル・ヨセミテバレーと呼ばれ、キャンプサイトもある平地。ここから先の数キロは林の中のちょっと退屈なルートが続く。周りの木々は、ここ数年の干ばつで弱ったところに、幹を食い荒らす害虫バーク・ビートル(Bark Beetle)大量発生の影響で立ち枯れしているものも多い。だらだら単調な長いルートであるが、普段からランニングを日課としている家内は、疲れも見せず楽しそうに歩いている。

途中、小休止を入れながら、黙々と歩くこと2時間程度。木々に囲まれたルートを抜けると一気に視界が広がる。花崗岩があたり一面に広がり、遠くの雪が残る峰々も見渡せる尾根に出る。しばし疲れを忘れさせる景観を楽しむ。ここから先にサブドーム、ハーフドームの難所が待ち受けている。

通常はサブドーム前で、レンジャーにパーミット(許可証)の提示を求められる。パーミット無しの登山の場合は、ここから先には行かれない。

実は今回、林の中を歩いている最中に、サンフランシスコから来た学生グループの一員に遭遇した。10人分くらいの許可証を持っているが、友達の何人かは前日に飲みすぎて二日酔いで来れないので余分がある。良かったら使ってくれ、という事で、ひょんな偶然で、まさかの許可証ゲット。二日酔いで気持ちの悪い人には申し訳ないが、こちらはテキーラに感謝である。と言うことで、運よく2度目の登頂の道が開けた。何でもやってみると、運が巡ってくるものである。

サブドームはケーブルはないが、階段状の急なスイッチバックの登りで息が上る。更に木の殆どない花崗岩の岩の上を歩くので下が丸見え。高い所が余り得意ではない家内は、既に怖がっている。これから望む難所のハーフドーム。大丈夫だろうか?

サブドームを超えると、そこには、目の前に大きくそびえ立つハーフドーム。正面から見るとほぼ垂直の壁に見える。その壁を蟻のような小さな黒い点が頂上めがけて移動している。ケーブル(くさり場)に取り掛かる前に、ここまで使ってきたトレッキング・ポールをしまう。バックパック横のポケットに収納している水筒は途中で落下しないように、カラビナで固定し、ストラップをきつく閉める。更に、持参したクイックドロー(Quickdraw:ワンポイント・アドヴァイスにて)を取り出す。これが非常に役に立つことになる。

ハーフドームは正面から見ると垂直の壁のように見えるが、実際には手放しで立てる程度の傾斜。ケーブルが設置され、2~3メートルおきに枕木のようなものがあるので、足元は割りと安定している。とは言っても下を見ると、ハーフドームの高さでだけではなく、バレーまでのおよそ1500メートルが丸見え。正直かなり怖い。時々死亡事故もあるので、油断は禁物。特に雨で濡れた花崗岩はとても滑りやすく、非常に危険である。

今回は幸いにも晴天。それでも、恐怖で途中で立ち往生している人もいる。こちらはと言うと、準備してきたクイックドローの一方をバックパックの腰ベルトに設置。もう一方をケーブルに繋ぎ、万が一足を滑らせても安心。家内もこれで精神的に随分と楽になったようで、途中恐怖で凍りつくことなく、一歩一歩足を進め、途中でカメラに微笑む余裕も見せながら、無事登頂に成功。

家内曰く、「クイックドローのお陰で自分でもビックリするほど怖くなかった」とのこと。正直、途中で怖がる家内を励しながら登る様子を想像していただけに、こちらも嬉しいビックリである。

山頂では、登頂の喜びを分かち合いながら、プロポーズをするカップルに遭遇。もちろん回答は「Yes!」。その場に居合わせた多くの見知らぬ人から祝福を受ける、心温まるシーンに立会った。

頂上は意外に平らで、サッカーが出来るくらいの広さがある印象である。眺めは、眼下にヨセミテバレー、更には遠くの峰々も一望できる感動の絶景。持参したランチも事のほか美味しい。

頂上でしばし至福の時間を過ごした後、下山の途へ。上りよりも下りの方が恐怖心が増すだろうと、ある程度の覚悟していたが、クイックドローがここでも威力を発揮し、怖がり屋の家内にして、笑顔を見せながら無事ケーブル部分を終了。

下りは楽と思いきや、ダラダラとした長い坂は膝に堪える。林を抜け、リトル・ヨセミテバレーを通り過ぎ、トボトボと歩くこと約2時間。帰りに立ち寄りを楽しみにしていたネバダ滝に到着。ここからは、水が爆音とともに落ちるところを見下ろすことが出来る。滝の直ぐ上流にはビーチのような場所もあるが、流されれば、滝にまっ逆さまで命はない。当然、水泳は禁止となっている。ここで一休み。軽食を取り、疲れた足を流水で冷やしリフレッシュし出発だ。

ここからの帰りの道は三ルートある。一番の近道は登ってきたミスト・トレイル。次いで、遠回りだが勾配の緩いジョン・ミューアー・トレイル。第三のオプションは双方の組み合わせのミスト・トレイルを途中まで下り、クラークポイント周りのルート。(お勧めルートに関しては後ほどワンポイントアドバイスにて)。

今回は、疲れた足に急勾配の滑りやすい、階段状のミスト・トレイルは、きついだろうとの判断から、回り道のジョン・ミュアーを選択。先ほどハーフドームから下ってきた道とは反対方向に向かう。このルートの良さは、ネバダ滝を真横から眺められること。それだけでも十分綺麗な青い空と灰色の花崗岩、それらを背景に流れ落ちる滝は、素通りするには勿体ない美しさだ。しばし足を止めて眺めを堪能するとともに、素晴らしい自然に感謝をする。

これを超えると、限りなく長い下り道をひたすら歩くのみ。途中で運良く(?)ブラックベアーに遭遇。恐るおそる少しだけ近づいて写真をパチリ。

到着後のピザとビールに思いを馳せながら歩くこと3時間弱。暗くなる前にトレイルヘッドに無事到着。冷えたビールが待つレストランまで駆け足で、と言いたいところだが、レストランまでは距離があるので、シャトルバスをただ待つのみ・・・いつになった、バスが来るのだろうか・・・


ワンポイント・アドヴァイス

①  季節:
ハーフドーム登山は、10時間以上の険しい山道なので、それなりの体力を必要とするが、岩登りなど特殊な登攀技術は必要なし。季節は5月の末から10月あたりまで。雪がなくなり安全に登頂できる環境が整うのを待って、ケーブルが設置される。最後の100メートル程度は急斜面の岩肌をケーブルを伝っての登りとなる。日本で言う所謂、鎖場。例年夏場には混雑するため、人数限定のパーミットが発行されるので、事前に申し込みが必要。運よく抽選に当たっても、残雪でケーブル設置がされていない場合や、ケーブルが設置されていても、当日の天候で登山禁止になる場もあるのでご注意を。ミスト・トレイルは春先まで氷に覆われている箇所も多くあるため要注意。とても便利な専門のサイトがあるので、こちらをどうぞ。 http://www.yosemite.jp/


②  パーミット(許可証):
本文でも触れた様に、サブドームより先に行くには、パーミットが必要となる。パーミットは、一日300人限定。取得方法は二つ。事前に申し込む方法と、現地入りしてから前日に抽選にのぞむ方法。当然、事前申し込みがお勧め。例年、3月1日~31日の間に、同年5月~10月の抽選申し込みを受け付け。詳しくはサイトをご覧ください。
https://www.nps.gov/yose/planyourvisit/hdpermits.htm

③ ルート:
ヨセミテバレーからのルートは大きく分けて3種類。上りは今回紹介したミスト・トレイルが景色も格別で一番人気。帰りのルートは、本文でも触れたように、(1)同じミスト・トレイルを戻るルート、(2)遠回りであるが足に優しいジョン・ミュアー・トレイル・ルート、(3)途中までミスト・トレイルを下って、クラーク・ポイントを経由するルート。お勧めは3番目のクラーク・ポイント経由のルート。

ミスト・トレイルの往復が最短距離であるが、同じ景色の往復は面白みに欠けるとともに、濡れた階段状のルートを疲れた足で下るのは危険なため、余りお勧めできない。ジョン・ミュアーはネバダ滝のサイドからの眺めは捨て難いが、それ以降はあまりハイライトは無く、距離はかなり長めとなる。お勧めのクラーク・ポイント経由は、双方の良いとこ取り。何よりの魅力は景観。途中、バーナル滝を上から見下ろせる場所があり、運がよければ大きな虹のおまけ付き。贅沢極まりない眺め。

また、幾度と無くネバダ滝も遠くに見ることが出来き、それほど長さを感じさせない。往復とも同じルートを通るより何倍も楽しめ、得した気分になこと間違い無し。それぞれのルートは分かり易く表示されており、途中に地図もあるので間違うことは少ないが、複数のトレイルがあるので、簡易地図を持参するとともに、自分がどのルートを歩いているか良く覚えておくのが望ましい。

④ 装備:
10時間超の長いハイクなので、トレッキングポールは必需品。水の補給場所は、上りの舗装道が終わる最初の橋を渡った所に一箇所のみなので、2リットル程度は準備する事をお勧め。本文でも述べたように、クライマックスのケーブル部分ではクイックドローがあると気分的に非常に楽。重く嵩張るものでもないので、高所を得意としない人には絶対お勧め。

またケーブルには細かなトゲがあるので、手袋をお忘れなく(ケーブルが始まる上り口に親切にも使い終わった手袋を残して行ってくれる人もいます)。

朝一番で出発しても戻りは夕方遅くなるので、万が一を考えてヘッドランプの携行は必須。因みに、私は一人で山の中を走ることが多いので、熊の出そうな所では常時、熊用のペッパースプレーを持ち歩いてます。(アウトドア・ストアーまたは公園内のジェネラル・ストアーで購入可)

⑤ グレーシャー・ポイント: 
ハーフドーム山頂同様に素晴らしい眺めをエンジョイできるのが、グレーシャーポイント。ヨセミテバレーを一望できる絶景ポイント。バレーからは車で一時間程度かかりますが、期待を大きく上回る絶景が待ち受けているので、必ず立ち寄ることをお勧め。ハーフドーム、ネバダ滝、バーナル滝と合わせてヨセミテ滝も一望。氷河が作り出した自然の芸術を見ないで帰っては一生後悔しますよ。トンネル・ビューに立ち寄るのもお忘れなく。

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