『伏見稲荷と一型色盲』
朱の渦からは逃れられない。
それは、僕が生まれて初めて見た鮮やかな色だったのかもしれない。
灰色の地面と朱色の囲いが僕を覆う。僕がどこに行こうと、まとわりついて離れないその囲いは、だんだんと熱を帯び、僕の体内を満たしていく。
その力をもった鮮やかさを引き剥がそうとすれども、僕自身は抗うだけの気力を持ち合わせてはいない。
じきに、そのときは訪れる。無限の朱の渦から逃れることはできない。
僕はここで息絶えるのだろうか。
不意に、右側に見えた脇道にそれた。その瞬間に、鮮やかであった朱は周りの木々と色を揃え、穏やかさを取り戻していた。
湿った暗い風が、灰色の木の葉を揺らすのを、ただ呆然と眺めていた。
「帰ろっか」
「そうだね」
こうして、僕の生まれて初めての経験は、まとわりつく暑さとともに幕を閉じた。
※フィクションです
では、次の機会に。