『無償の愛』
※フィクションです。
うだるような暑さの生み出した汗が、身体にまとわりついて離れない。拭えども拭えどもその汗が引くことはなく、諦めて、汗の思うがままに流れることを受け入れるのであった。
その刹那、重く湿った風が、対象を揺さぶった。
「お元気ですか?...というのも無粋でしたかね。」
明らかに元気のなさそうなのを横目に、通りかかった少女は腰を下ろした。続く言葉はなく、ただ一緒に風に揺られる時間だけが続いた。
どれくらいの時が経ったのだろうか。ふと少女が隣を見ると出会ったときよりもさらに元気を失った姿が目に映った。
「あの...お水...いりますか?暑いですしね。どうぞ。」
またその後は静寂に包まれ、時間が経つにつれ、幾ばくか元気を取り戻したように見えた。
さらに少女は付け加える。
「直射日光って辛いですよね。」
少女は自分の背で影ができるように座る場所を調整し、また再び風が吹くときを待った。
陽が傾き、少し湿った匂いのする風が吹いたときだった。
「では、そろそろ私はこれで。」
少女はその場を立ち去った。
夕焼けの中、まだ暑さが残る時間の中で、それまでよりもほんの少しだけ元気になり、1日の役目を終えようとしている季節外れのタンポポが、その花を閉じようとしていた。
はぐれ者に必要なのは、それがたとえ植物であろうと、”無償の愛”なのかもしれない。
※フィクションです
それでは、次の機会に。
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