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空想

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2020年10月の記事一覧

『金木犀』

『金木犀』

短編小説です。

フィクションです。

すっかり鼻を抜ける匂いが単純になり、目に入る光量が少なくなる。目の前を通る風の色も透き通ってきた頃のことだった。
平坦になったその景色の間に、傲慢にも割り込んでくる香りが鼻をついた。
甘ったるいその香りは、どうしてか人を惹きつける。その香りの根源に居座ったまま、その場から動けなくなっていた。
日が沈みかけているのを横目に、目の前のベンチに腰掛けた。
昼間なら

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