ウレタンクリアをド素人がロードバイクに吹いてみた話(2:実践編)

実践編のテーマ

 前回の記事で概ねウレタンクリアをエアブラシで吹く理由については説明した。この実践編では実際の作業の中での様子を説明していきたい。

 さてこの実践編での主眼は素人がウレタンクリアを吹いた様子をお伝えすることである。だがそれだけの内容ではスプレー缶塗装を検討している人や自転車の塗装一般を検討している人にとってはあまりに参考にならない情報であろう。

 そこで副次的なテーマとして「自転車を塗装するのにどれだけの塗料が必要になるか」を簡単にではあるがまとめておいた。自転車(と周辺パーツ)の塗装に要する塗料の参考になれば幸いだ。ただし準備編でも書いたように、スプレー缶で塗装する場合にはエアブラシに比べて塗料が多くかかりがちである点に留意してほしい。

今回塗装したもの

 フレーム:TNI 7005mkⅡ(XXLサイズ)

 フロントフォーク:フレームセット付属のもの

 ステム:TNI Helium17(100mm)

塗装の足つけ

 塗料を吹き付けるにあたって、下地(もとからある塗装面)と新しく吹く塗料がはがれないように、耐水ペーパーで小さな傷をつける作業(足つけ)を行う。

 足つけの作業で使うペーパーの番手について、ネットで情報を探すと800番でやるのが良いという情報もあれば2000番でよいという情報もある。このあたりは新しく使う塗料の特性にも依存する(一口にウレタンクリアと言っても特性に幅があるらしい)と思う。

 目が粗い(番手の数字が小さい)ほど下地を強く荒らすので、下地への影響が不安な場合は目の細かい(番手の数字が大きい)ペーパーで足つけするとよいだろう。私は1500番で優しくなでるようにした。

 ミッチャクロンという「塗料の密着をよくする塗料(プライマー)」を使うという手もあるが、少なくとも今回は1500番での足つけで十分であった。

養生・マスキング

 塗装で大事なことの一つに、「塗装したい部分以外を汚さない」ことがある。いわゆる養生・マスキングと呼ばれる作業だ。

 養生は「塗装対象物の汚したくない部分」と「塗装環境の汚したくい部分」の両方に施す。そこで大活躍するのが新聞紙ガムテープだ。養生用のテープやシートなども販売されているが、身近にある素材でも十分に代用が効くのでコストダウンのためにもこれらを活用しよう。

 環境への養生は床・壁を新聞で覆ってテープで固定でよい。コツが必要になるのは塗装対象物への養生である。ロードバイクの場合、BB、ヘッドチューブ、シートチューブなどの「物を差し込むため内径が変わると困る部分」への養生が必要になる。塗料の中でもウレタンクリアは塗膜が厚くなるので塗料が入り込んでしまうと厄介である。

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 今回はこれらの部分への養生として、新聞紙を丸めてパイプに突っ込むという処置をとった(画像はBBシェルに差し込む前)。丸める新聞紙の枚数を調整すれば各部の径にピッタリの養生を施すことができる。新聞棒は他にも塗料のためしぶきなどにも使えるので余分に作っておくことをお勧めする。

 この径にぴったりというのは養生に加えて、塗装物のとり回しのためにも重要なので、ねじ込むのがちょっと大変なくらいにピッタリにしておくとよい。また新聞棒を差し込むとき、「貫通している部分(BBシェル、ヘッドチューブ,ステムのフォークコラム部)には貫通するように通しておく」ことをお勧めする。

 

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 突っ込む新聞紙の丸め方にはちょっとしたコツがある。新聞の背の側から10㎝程をいったん折り返してから丸めることで、芯が固くふにゃふにゃにならない新聞紙棒を作れる。余談だがこの強い新聞棒のつくり方は幼いころに『つくってあそぼ』で学んだ。ワクワクさん様様である。閑話休題。

 「頑丈な新聞棒」を「貫通できる部分には貫通させて通しておく」ことで塗装時に塗装対象物のとり回しが大変楽になる。当然だが塗装した部分は塗料が乾燥するまで触れない。そこで新聞棒は触っても大丈夫な持ち手になると同時に、塗装を他の物に触れさせずに保持しておくのに使うのだ。

 頑丈な棒に仕上がっていれば自転車のフレーム程度の重みでは折れたり曲がったりしないはしないので、二本以上の新聞棒を持てば容易にフレームの持ち運びや向きの変化ができる。穴を貫通させておくことで引っ掛けて保存しておくことが可能になるうえ、引っ掛ける部分がない場合でも新聞棒で支えることで塗装部分が他のものに接触させずに済む。下に私が塗装・乾燥させていた時の設置方法を一つの例として示しておく。

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塗装対象の清掃・脱脂

 汚れ・油分・水分は塗装の大敵である。汚れが塗装の下敷きになると塗装を落とさないと永久に取れない。油分と水分は塗料に対して(ややこしいが)「水と油」の関係よろしく混ざり合わずにはじきあってしまう。

 足つけででた削りかすを落とすためにたっぷりの水で洗車し、乾燥させたうえで脱脂してやる必要がある。脱脂には「シリコンオフ」という専用の商品もあるが、ロードバイク乗りであればおそらく多くの人が持っているであろうパーツクリーナーでも代用可能である。私は不安なので両方使った。ケミカルを対象物に吹き付けて、きれいな布で拭き上げてやる。

 脱脂に使うケミカル類もそれ自体が油なので、脱脂してからしばらく時間を置くこと。特にシリコンオフはパーツクリーナーよりも揮発しにくいので、20~30分ほど待つ。この時間の目安には何の根拠もない(なんせド素人である)。脱脂作業を下後述する塗装環境の準備をしている間に十分乾くだろう。

 脱脂したものを素手で触らないことにも気を付けよう。ヒトの手は思いのほか油がたっぷり乗っている。そこまで神経質になる必要はないのかもしれないが、手の安全を守るためにも、脱脂した塗装対象物や塗料を扱う作業時は手袋をつけるのが望ましいだろう。

塗装環境の準備

 脱脂が作業をしたら今度は塗装環境の準備に入る。塗装する空間をしっかりと隙間なく新聞紙で覆う。私は風呂場の風呂釜の上で塗装したので、風呂釜と風呂釜に接している壁面、床面に新聞紙を敷き詰めた。

 養生した環境に塗装対象物を持ち込んで、全体を塗装するために必要になる塗装対象物の置き方のパターンを確認する。フレームなどの大きいものを塗装するとき、広い空間を塗装する場合は塗装対象をぐるぐると人が回ることで全体を塗装できるが、狭い空間で行う場合は対象物を回転させて対応する必要がある。

 塗装中に対象物がが不安定にならないか、対象物を回転させる際に対象物が壁や自分の体に当たらないか、新聞棒の強度は十分かをこの段階でしっかり確認しておくと塗装中の予期せぬトラブルを防ぐことができる。

 素人が中途半端な環境で塗装をする以上、塗装するときには塗料と対象物だけに集中できるに越したことはない。しかも高価で補修が大変な塗料を使って高価なものを塗装するのだから、環境面の不安は先に徹底的に洗い出して対策を考えることを強く推奨する。

塗料の準備 

 塗装対象物と塗装環境の準備が済んだらいよいよ塗料を準備して塗装に入る。塗料の準備の段階から換気(換気設備の始動・窓の開放)をはじめ、防毒マスクと安全ゴーグルを着用すること。ウレタン塗料の毒性の怖さは、エアブラシやスプレーで噴出した塗料のミストになった時が一番なのだが、口や目、鼻に入らないに越したことはない。

 私は用具の片付けの時に安全メガネを外していて、目にほんの少しシンナーが入った。一滴にも満たないような量だったが焼けるように目が痛くなって非常に怖い思いをしたので、塗料を扱うときには最大限の安全装備をしておくこと。 

 今回使う塗料は主剤:硬化剤を2:1で混ぜて(適宜シンナーも加えて)使う2液ウレタン塗料というものである。この比率は商品ごとに推奨される量が違うので、自分の使う塗料に適した方法を確認してほしい。多くの商品が主剤:硬化剤の比率が10:1か2:1、転嫁するシンナーの量が10~20%程度のようだ。

 2液ウレタン塗料は二つの液剤を混ぜた瞬間から塗料の硬化が始まり、固まるとなかなか溶けない・削れない塗膜を形成する。この性質は塗装対象に対してはうれしいものでも、塗装に使う道具にとっては厄介だ。

 主剤と硬化剤をそれぞれ別々の計量容器で必要な分量を用意して、紙コップに注いで混ぜることで計量容器の中で硬化するのを回避するのがベターだろう。計量容器で硬化されると容積が変わってしまって使い物にならなくなる。

 塗料の取り出しは塗料缶の形状からして傾けて注ぐよりもスポイトでちまちまと吸い出すのが良いだろう。こぼすとべとべとで悲惨なことになるのでじれったくても慎重に扱おう。塗料はの混合比はそこまで厳密でなくてもきちんと硬化してくれるようである(厳密であるに越したことはない)。重要なのは分量よりもむしろしっかり混ぜることなので丁寧に攪拌する。

 一度の混合で作る塗料の分量はそれぞれのパーツごとに吹き付ける分量だけの方が、吹きすぎや少なすぎを防止できてよいだろう。今回の塗装で使ったエアブラシの塗料カップの最大容量が17㏄だったので約15㏄ずつ吹いた感じでは、それぞれ以下の分量があれば十分に分厚い塗膜を形成できた。
 
   フレーム:90㏄
 フロントフォーク:30㏄
 ステム:15㏄

 求める塗膜の厚みによって吹き付ける塗料の絶対量を増やすのは良いと思うが、一度に大量に塗料を作って、乾燥を待たずに一度に吹き付けてしまうとタレが発生する点には留意する必要がある。 

吹き付け

 吹き付け作業の時には絶対に欠かさず確実に防毒マスク・安全メガネ・手袋を着用すること。

 スプレー缶であれエアブラシであれ、対象物に吹き付ける前に新聞棒や養生に使っている新聞に吹き付けて塗料が正常に出ることを確認する。正常に出ることが確認できてもすぐには対象物には吹かない。まだ焦る時間じゃない。

 正常に出るのが確認出来たら、次はどのくらい吹き付ければ垂れるのかを確認してみる。余分に作った新聞棒に10~15㎝の距離から吹き付けてゆっくりエアブラシを動かす。新聞棒とエアブラシの距離や動かすスピードを変化させてみて、タレがどういう状況で発生するのかをしっかり確認する。何ならこの練習のためだけに5~10㏄程度塗料を使っても良いだろう。私はこれにじっくり時間をかけたおかげで派手なタレを起こさずに済んだ。

 練習が完了したらいよいよ本番である。塗装の基本として以下の4点を守るっていれば派手な失敗はしない。
  1)塗料が乗りにくい狭い箇所・複雑な形状の箇所から吹き付けていく
   →自転車であればチューブ同士の接合部分
  2)エアブラシ・スプレーは絶えず動かす(一か所に吹き続けない)
  3)塗料の吹き出しの始めと終わりが対象物にかからないようにする
  4)「もう少し吹ける」と思っても少し乾燥させてから重ね塗りする

 私がやったのは最初の練習と上記4つの徹底だけだ。それだけなのだが徹底するのは難しい。特に4つ目は強烈な自制心を要する。だがこれが一番重要であるように思う。一度吹き付けた部分に再度吹きたいときは5~10分ほど待つ。それをとことん繰り返すのみだ。

片付け

 塗料を吹き付け終わったらまず塗装したものを安定した場所に移すか、塗装した場所に置いたままできるだけ速やかに塗装した場所から撤収する。塗装の出来は後でじっくりチェックすればよいので、早急に片づけに取り掛かる。エアブラシをお釈迦にしないためにも、いらぬちょっかいを出してせっかくの塗装を台無しにしないためにもこれは重要だ。

 エアブラシは分解できる最小単位まで分解してシンナーにつけておく。具体的な分解清掃の仕方はブラシごとに異なり、かつ説明書に丁寧に書かれているだろうからここでは省略する。重要なのは分解する・シンナーにつけるという二つだ。

 計量カップとスポイトもシンナーを使ってゆすぎ、ティッシュかキッチンタオルでしっかりと噴き上げておく。これを怠ると使い物にならなくなる。

仕上がりとまとめ

 最後に今回の実践でのビフォーアフターを示して仕上がりを提示するとともに、エアブラシ・スプレー缶の差異とウレタンクリア塗装に関する若干の考察を付け加えてまとめとする。

 まず今回塗装したパーツ群のビフォーアフターを見ていただこう。

<ステム(1枚目ビフォー、2枚目アフター 以下同様)>

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<フロントフォーク>

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<フレーム>

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 写真の技術が残念などというレベルではないためにうまく伝えることができなくて歯がゆい。フレームはビフォーの状態でどうしちゃったんだというぐらい艶がない感じ(というよりザラザラ)に映っているが、これでも生で見るときちんと光沢があった。

 さておき、光沢のラインがぼやけずにはっきりと出ており、フレームに至っては後ろのサッシが映り込んでいるのがこの程度の写真でもわかるのではないだろうか。特にアールのきつい曲線部分で非常になまめかしい光沢が出ているのがわかる。素人の腕でもこの程度までの美しい光沢に仕上がりるのだから大したものである。

 艶が出るのはエアブラシのおかげというよりも塗料の性質によるところが大きいだろう。ただタレを出さずに作業ができたのはやはりエアブラシのコントロール性の高さと、塗料の残量管理のしやすさによるところが大きいように思う。これは導入編の「経緯」で述べたように、スプレーとエアブラシを両方を使ってみたときに直感した通りであった。

 少し失敗したかなと思うのは買った塗料の量ぐらいだ。今回どのくらい塗料が必要になるかがわからなかったので、主剤と硬化剤を合わせて600ccのセットを買った。だがおそらく今回塗ったフレーム・フォーク・ステムに加えて、ハンドルやシートポストを合わせてもエアブラシで吹けば、300ccもあれば十分すぎるほどだっただろう(塗料販売下では300ccが最低単元だった)。

 フレームとフォークだけを塗ることを考えれば、うまく吹き付けられればスプレー缶1本(160cc)で事足りただろう。ただ「うまく吹き付けられれば」の部分のハードルが上がってしまうという点も無視できない要素だ。

 スプレー缶が良いかエアブラシが良いかについて、身もふたもないが、一番大きいのは「今後もエアブラシやコンプレッサーを使いそうか?」だろう。導入編でも指摘したが、エアブラシ導入に係る費用はフレームを一度きり塗るためのものとしてはかなり大きい。

 最後に今回の実践そのものとは直接の関係なくなってしまうが、ウレタンクリア塗装を行う事そのものへの注意をいくつか挙げておきたい。唯一にして最大の問題は艶や光沢を出すため「だけ」の手段としては行うべきではないという点だ。

 経済的・時間的コストに加えて身体・住環境へのリスクも考えると、得られる効用に対して割に合わないだろう。場合によっては塗装対象や住環境の価値、自身の健康を大きく損なうことになりかねない。艶を出したいだけならば上等なコーティング剤に頼る方がよほど確実で経済的だ。

 大規模なレタッチやオリジナルの塗装を施すなど大幅に塗装を変更する場合、あるいはウレタンクリア塗装そのものやDIYに興味があるという場合でもなければおそらく後悔することの方がおおい(ちなみに私はみじんも公開していない)。

 以上がウレタンクリアをド素人がエアブラシで塗装してみた結果と考察である。自分がやったことをできるだけ詳細かつ網羅的に書いたつもりではあるが、写真などが少ないことや、道具・塗料の扱いについて詳細を省いたことなどから伝えきれていないことも少なからずあるだろう。

 道具・塗料については別途記事を(書けたら)書こうと思うが、質問や加筆・訂正すべき情報があればコメントやTwitterで教えていただけると幸いである。

 決して短くない、そして読みやすくもない文章をここまで読んでくれた読者諸氏に心から感謝する。


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