私にとって編集することとは
およそ1か月前、nice things.65号が刊行された。復刊号から1年かけて4冊刊行したこととなる。
時間が経過しても自分の中では復刊号も65号までの号も冷めない熱量で執筆した。
こうして続けることができるのは、周囲の方々の支えや、nice things.が好きという想いがあるのだろう。
以前まではnice things.の取材先にあるような暮らしや考え方とは全く無縁の人生を過ごしてきた。
幼い頃から、有名な大学に行くこと、正社員として名の知れた企業に勤めることが世間における正解だと思っていたため、
飲食店で料理を手掛ける人やお店を営む人たちの自立した自由な価値観の存在を知らなかったのだ。
しかし、社会人になり、正社員として働く傍ら、休日にお店や地域の人と仲良くなるようになった。
そこには、枠にとらわれない自分たちらしい生き方で、生活や周囲の環境を大切にしている姿があった。
ひとりひとりが様々な肩書きで日々を豊かに生きている様子から、世間の決めている正解がその人にとっての全てではないことを感じた。もちろん自分にとっても。
自身の価値観がいかに幼かったか。その人たちとの時間が自分にとっての世界を開ける鍵となり、その鍵によって、世界は広がり豊かになっていくようだった。
この世界は優しい温度や、人のおもいやりで溢れている。
私の心はふわりと救われた気がした。
そして、たまたま書店で出会ったnice things.も自分にとっては大きな存在となった。
人の手によってものがつくられる背景、お店を営み地域と共にある様子、日常や暮らしへの眼差しなど様々な発見を通して、まるでその人と直接で会っているかのような時間を感じていた。
自分の生きている世界はこんなにも誰かの「想い」や「暮らし」で彩られている。
そして雑誌という形でそれを読者に届けることができる。
「伝える」という魅力をnice things.で知ることができた時、頭に浮かんだのは、自分を救ってくれた作家さんやお店、地域の人たちのことだった。
自分が直接その人たちと過ごした時間と、nice things.で出会う温度感が同じだったことから、自分もnice things.を通して場所や人々のことを伝えてみたいと思った。
その人たちの生き様や想いを言葉にしていくことは、自分にとってその人たちへの恩返しのように感じたのだ。
だからこそ、クラウドファンディングで復刊することを和歌山で暮らす作家さんから教えていただいた時は、迷うことなく関わりたい旨を編集長に伝えた。
そこからはじまり、今もこうしてnice things.に関わっている。
もちろん物書きや写真家としての経験がない私の文章や写真はまだまだ未熟だ。
しかし、編集長含めた編集部の皆さんに支えられて、毎号大切な1冊に関わらせていただいている。
今後もこの繋がりで芽生えるものを大事に育てたい。
暮らしに寄り添う人たちによってこれまで救われてきたこと、
その感謝の気持ちこそが編集への原動力となっている。
そして誰かの暮らしが、どこかの誰かにとっての鍵となることを信じている。
今日も明日もどこかで、nice things.を手にとる人の心に豊かなゆらぎがありますように。
編集 大西文香