【学マス】 葛城リーリヤをベタ褒めするだけの回
葛城リーリヤの入学時評価は、決して高いものではなかった。それこそ、入学試験ドベトリオ、補習組である3人…類稀なる身体能力を持つ花海佑芽、武器となり得る家柄や愛嬌を持つ倉本千奈、メンタルの強さだけは凄まじい篠澤広と比べてしまうと、目に見えた強みというものがなく、全プロデュースアイドルの中では、アイドルとしての素質は劣っている部類とも言えるかもしれない。
データ系キャラの学マスPくんの評価でも、アイドルに向いているようには見えないとはっきりと記されてしまっている。学マスPくんが素質は無さそうだと評したのはリーリヤと広のみ。この観点でのみ見てしまえば、リーリヤは他でもないあの篠澤広と同格だった(語気の強さには違いがあるとはいえ)。
元より、学マスPくんはかなり現実主義者だ。入学時落ちこぼれであったのは、補習組の3人。その3人も最終的にはプロデュースすることにはなるのだが、ストーリー最序盤では、補欠合格であった佑芽からの逆スカウトは丁重にお断りをし、千奈は学園長からのお達しがあったので仕方なくプロデュース、篠澤広に至っては「彼女のプロデューサーは苦労するだろう」とはなからスカウトするつもりもなかった。反面、能力は有しているものの致命的な課題のある月村手毬や藤田ことね、経験はあるがブランディングで芽が出ていない有村麻央や姫崎莉波らに対しては、持ち前のデータを駆使し改善可能と積極的にスカウトをしている。プロデューサー科の生徒の成績は担当アイドルの活躍によって決まるため、余程の事がなければPくんのスカウト基準は歌唱力やダンスといったアイドルにとって欠かせない部分に重きを置いている。
Pくんからリーリヤへの接触はあくまでも「話を聞いてみる」というだけ。補習組同様、スカウトをするつもりは無かった。
そんなPくんを、リーリヤはアイドルへの想い1つで振り向かせた。前述したように、Pくんは現実主義者だ。素質が無ければ迷わず切り捨てるし、プロデュースするアイドルもデータを元にしっかり吟味して選び出す。そんな彼が、「アイドルになりたい」という理想論のみで動かされた。スカウトをしたいと思わせた。それだけリーリヤの瞳には力がこもっていたのだろう。
強い意志、というのは充分な武器となりえる。とはいえ、ただ意志が強ければいいというものではない。「アイドルになるんだ!」とベッドの上で転がりながら目を輝かせ叫んでも意味はないのだ。行動に移す力が無ければ、意志はただの願望と成り下がってしまう。
その点、リーリヤは人一倍努力が出来る子であった。努力とは、やろうと思えば誰でも出来るものだが誰にでも出来ることではない。言葉遊びのようになってしまったが、夢を成し遂げるための可能性や器というものは誰もが持っており、そこに努力を注ぐ事の出来る人間は強い目標を持つ者だけなのだ。器に少しずつしか注がれないから、他人と比べると器が大きすぎて貯まる未来が見えないから、並々に注がれても成功するかは分からないから…そうして人は努力を辞め、夢を諦める。
努力ができる、頑張ることができるというのは誰にでも身につける事の出来るかつ習得難易度が非常に高い才覚なのだ。リーリヤはその才覚が抜きん出ていた。
リーリヤの序盤ストーリー…下積み中の下積みは 頑張る→少しだけ成長する のサイクルだ。ことねのようにバイトを休むだけで急成長したり、佑芽のように持ち前の素質でみるみる力をつけたわけではない(無論彼女達も努力はしているが)。泥臭く、誰でも出来る事を、誰よりもしてきた。
言い方は悪くなるかもしれないが、リーリヤはプロデュースアイドルの中では1番『普通の子』だ。そんな彼女が、努力だけで一流のアイドルを目指すのだ。これほど応援したいと思えるアイドルは他にはいない。そのひたむきな姿勢は、最終的に歌やダンスといった技術以上に人々の心を震わせることとなる。
客観的に自身の能力を鑑み、Pくんが教えたことは全て吸収し、ひたむきにレッスンに打ち込む。ゆっくりと、それでいて目に見えて日々成長していくため、オーバーワーク気味なところにだけ注意をすれば、これだけプロデュースしがいのあるアイドルはいないだろう。リーリヤのストーリーは、THE王道といえる。
……いや、正確に言えば王道ではないのかもしれない。王道としてありがちな一度挫けてしまい夢を諦めかけるという展開が、意志が強すぎるリーリヤには存在しないからである。
ストーリー内でモブ生徒の意図しない?悪意にさらされてしまうリーリヤ。彼女の努力を知っているPくんの介入でその場を切り抜ける事が出来たが、心中は穏やかではないだろう。
努力をすれば確実に夢が叶うのなら誰だってするだろう。だが現実はそう甘くない。強い意志で努力を続けてきたが、第三者からの指摘で現実を見てしまい、自己嫌悪に陥る……気弱な少女であれば、充分にありえる展開だ。気を遣うPに対し、リーリヤはあの言葉を放つ。
リーリヤは自己分析を正確に、そして冷静に行う事ができる。だから、至らぬ点も多々気づいてしまう。度々自身の能力の低さを口にする彼女だが、それは卑下でも謙遜でもなく事実だ。彼女の目の前にはいつだって果てしなく高い壁がある。乗り越えることは困難を極めるだろう。しかし、それを理由に腐る事はない。壁があるなんてずっと前から分かっているから、そこで立ち止まることはせずがむしゃらに壁を登っていく。意志の強さは、彼女が成長する何よりの武器であった。その意志は、親友である清夏の心すら突き動かすこととなる。
学マスPくんの人柄や手腕は凄まじい。一見完璧超人な咲季の折れかかった心に寄り添い、傍若無人な狂犬手毬を飼いならし、ことねの身体面精神面のコンディションを整え実力を最大限引き出す。麻央のカッコいいを否定せず、莉波はアイドルとしての方向性を修正し自信を持たせ、清夏は親友にすら話さなかったトラウマを吐き出させる。千奈には彼女ですら認識していなかった武器を気づかせ、広に対しては自身の夢を捨ててまで彼女の趣味に付き合い、佑芽には彼女の両親に協力を仰ぎ徹底したプランニングで根気強く成長に導く。
対してリーリヤは学マス全キャラの中で唯一、プロデューサーが学マスPくんじゃなくても大成するのでは…?と思えてしまうアイドルだ。私が徹底してリーリヤを上げたいだけという説もあるが、事実清夏のストーリーでは、リーリヤは1人でも努力を重ね、清夏に「どんどん先に行っちゃう」と言わせていた。夢に向かってひたむきに努力をし、根性もあり、自己分析もできて、絶対に諦めない。能力の低さは努力でカバーをし、明確な課題は自信がなく人前が苦手な点のみと、それなりに知識のあるプロデューサー程度でも、リーリヤを成功に導く事が出来てしまいそうだ(勿論学マスPくんほど順風満帆に事は進まないだろうが、何ヶ月、何年かけてでもトップアイドルになっていそう)。
何より恐ろしいのは、葛城リーリヤはまだまだ成長中ということ。true liveで完璧なパフォーマンスを見せた他プロデュースアイドルと比べると、伸び代は計り知れないのだ。
そう捉えると…最もアイドルとしての素質があるのは、葛城リーリヤなのかもしれない。