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「余命と使命。僕が死ぬまでに彼女にできること」~全てが壊れた日~NO1

2023年12月26日

婚約の前日。人生の中で一番幸せだった日が、同時に人生の中で一番辛い日になるなんて、誰が想像できるだろう。

午前中、健康診断の結果を聞くために病院に行った。息子も一緒だった。19歳の彼は、「父さんも定期的に見てもらわないとダメだよ」なんて冗談を言いながら僕を促してくれた。頼もしい息子だと思った。それが、まさかこんな形で二人で結果を聞くなんて思ってもいなかった……。

医者の顔色は見た瞬間にわかった。「良い知らせじゃないな」と本能で察した。息子が「ちょっと明け方に吐き気がするくらいだよ」と軽く言うと、医者は静かに深い溜息をつき、そこからすべてが崩れ始めた。

息子の診断は肺がん。ステージは進行していて、余命は半年。
僕もだ。脳腫瘍が見つかり、余命は3年だと言われた。

その場で全ての音が遠のいた。息子が「半年って……本気ですか?」と聞いている声が、夢の中のように響いた。自分がどんな表情をしていたのか、何を考えていたのか、全く覚えていない。ただ、心臓がバクバクする音を初めて感じた気がした。

診察室では涙はでなかった。

帰り道、車の中で、2人で泣いた。
「父さんごめん」と息子が泣いた。
僕は、「大丈夫、きっと大丈夫」サングラスから涙がこぼれ落ちた。
彼女の家に送って欲しいと、言ったので彼女の家に送っていった。
もう、一年以上付き合ってる同じ大学の子、父親ながらなんて伝えたのだろうと思った。そして、自分はなんて言えばいいんだろう、、、
心が痛かったからハンドルに何度も何度も自分の頭を打ちつけた。頭は痛くもなかった。

夜、フィアンセに電話をした

彼女に電話をかけた。婚約の日の前日を控え、幸せそうにしていた彼女の顔を思い浮かべながら震える手でダイヤルを押した。電話口の向こう、彼女の声が明るかった。「どうしたの?何かあった?」

そこで涙が止まらなくなった。「ごめん」と最初に言ったのは覚えている。でもその後、どうやって言葉にしたのか、何をどう伝えたのかはもう分からない。ただ、彼女も一緒に泣いていた。「何があったの?」と何度も聞いてくれた彼女に、「俺と結婚はできない」と伝えた瞬間、彼女が崩れるように泣き始めた。

「なんで?」という彼女の声が、胸を引き裂くように響いた。でも、本当の理由をすぐには言えなかった。30秒くらい言えなかった。涙と声がかすれてでなかった。でも、言った。彼女は「どうして?嫌な予感したんだ。胸騒ぎがしたんだ」といって泣いた。

僕は弱虫だ。最低だ。
息子は彼女に直接伝えたのに、俺は電話で伝えた。
最低だ。でも、現実を受け入れたくなかったんだ。

息子は部屋に閉じこもり、僕は一人でリビングに座り込んだ。時計の針が進む音だけが響いていた。頭が真っ白になりながらも、「自分の余命の中で何ができるんだろう」と考え始めていた。

「余命と使命」

僕は余命3年。息子は半年。この限られた時間で、僕に何ができるのか、そして何をしないといけないのか。

彼女の幸せを願いながら、自分の使命を見つける。この日記は誰かに読まれることを前提にしているわけじゃない。ただ、自分自身が自分を見つめ直すために書いている。

息子の部屋をそっと覗いてみた。あいつがまだ起きているなら、父親として隣に座ってやりたい。たとえどんなに絶望の中にあっても、父親としての使命を果たすのは、まだ諦めたくないんだ。

そして、こんな最低な僕が彼女に何ができるか、、、

そんな日が約1年前にありました。

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