花と骸骨
1853年11月3日
—本当に来てくれ のかしら?
外を確認しても良くて?
—どうぞ。
—これは美し 赤煉瓦ですね。
—君の赤髪に煉瓦の赤が映えてい よ。
かなり古い文章のようだ。
ところどころ文字がかすれている。
僕の体は、少しずつ砂のように崩れてきて
いるようだ。
僕が閉じ込められている部屋は
とても殺風景で、彩りはひとつくらいだ。
この間まで生えていた花も枯れ、僕を慰める
彩りは、自分自身の露出した血肉のみだ。
だんだんと、僕は自分の血を見るのに
うんざりしてきている。
外には、出られない———気がする。
部屋の隅に縮こまって、まるで自分が宇宙の端に追いやられた気分だ。
これ以上、見るに耐えない自分の体が
うっかり目に入ってしまうのは嫌だ。
僕の感情は、いくばくかの絶望を孕んでいる。
手紙をちぎって体に貼ろう。
部屋の片っ端から、古い手紙を取り出して ちぎる。
それを、体にペタペタと貼る。
古紙を花のようにちぎって貼ったりもする。
———寝てた。
身体はもう動かない。
それどころか、身体と思っていたものが、
僕の目線の正面にある。
僕は事切れたようだ。
そこにあるのは、紙で覆い尽くされた骸骨と
紙でできた花だけだ。
気になる文があった。
—僕の遺骨に安らかなるメモを!
少し安心して、口が緩んだ。
ここにもし誰かが来たら、この骸骨を
見るだろう。
そのとき、この紙切れ一つ一つの記憶が
僕と、古い文章に関わる人の存在を
肯定してくれる。
僕が生きていた証拠となる。
意識が薄くなっていく。
海溝のような深い海へ沈んでいく。
だんだんと光は見えなくなっていくが、
僕の体の芯には、とても小さな豆電球が
光っている感じがする。