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夏仕様

「見てくれよ~。うちの姫たち、ほんっと可愛いだろう~」

「ほんとだー。かわいいなー」
聆は、柊羽が見せてきたスマホの画面を見ることなく、棒読みで答えた。
飲み会で繰り広げられる、子ども自慢に、聆は飽き飽きしていた。
独身の聆には、子どもの可愛さもよくわからないし、ましてやよその子どものことなど、どうでもよかった。

「お前、ちゃんと見てないだろう!見てみろよ!ほんと、可愛いんだからさぁ」
今夜の柊羽は、やたらとしつこい。
聆の目の前にスマホを突き付けてきた。

「んっ!」
いつも見せられるテーマパークでお姫様に扮した写真かと思いきや、キノコを並べて撮ったような写真。
よくよく見ると、キノコのようなおかっぱ頭にした女の子が並んでいる写真だ。

「お姫様のカッコじゃないのか?」
と聆が聞くと、柊羽は、急に真面目な顔つきになり、
「七五三も終わったし、春から幼稚園だからバッサリ切らせた」と言う。

「ふぅ~ん」
聆は、冷静を装ってみたが、体の奥が疼くような熱くなるような感覚に襲われた。
「でもさ、女の子て髪切りたがらないて言うじゃん。あんな、お姫様みたいにしていたのに、よく、こんなに短くさせたなぁ」
聆は、なんだか興奮してくる自分を抑えながら、溢れ出てくる質問を、冷静に投げかけた。

「そうなんだよぉ。もう、床屋で大泣きされて大変でさぁ。刈り上げが伸びてくると手触りも悪くなるから、こまめに連れていきたいんだけど、二人とも泣いて嫌がるから、仕方ないから、バリカン買って、毎週末、俺が刈り上げ直してる」
柊羽は、そう言うとニヤリと笑った。

柊羽の話を聞けば聞くほど、聆は理性を失うほどの興奮に達した。
それを隠すように、ゆっくりとした口調で続けた。
「女の子にこの刈り上げは可哀そうだろう。奥さん、何にも言わないの?」
「もう、カミさん、大激怒よ。公園に行ってくる、て言ってそのまま娘たちを床屋に連れて行って。帰ってきたらこのキノコ頭だし、娘たちは大泣きだし。でも、ブランドバッグでなんとか買収した。」
柊羽は、再びニヤリと笑った。
「お前がいう、お姫様の写真てこれだろ?」

「そう。」
「これが、可愛いのなんか当然だろ!誰が見たって、世界一可愛いんだよ。その可愛さを破壊するようなダサい刈り上げおかっぱ頭にした李蘭と李奈のブサ可愛さがたまんないんだヨ!髪、長い方が可愛かったのに〜…て言われるくらいの似合わなさがさ!この可愛さが、わかるのはオレだけだよ!お前には、わからないだろうなぁ」と柊羽は言うが、聆は、ブサ可愛さに萌える感覚には同感できた。
それと同時に、3歳の女の子の刈り上げに・・・いや、正確には、泣きながら惨めな刈り上げにされている姿を想像しながら興奮する自分が、道を誤っているようにな気になりながらも、感情を抑えることができなかった。

帰りの電車の中、聆はモヤモヤとした気持ちを消化できずにいた。

柊羽の娘たちが、バリカンで刈り上げられるところ、泣いているところを見たい・・・・。

しかし、そんなこと、いくら学生時代からの親友とは言え、柊羽に言うことはできない。

聆は、スマホを取り出すと検索サイトに「女の子 散髪」と入力して検索ボタンを押した。
女の子が散髪されているところ、願わくば、ダサく刈り上げられて泣いている画像や動画が出てきてほしい・・・。
しかし、聆の願いも虚しく、出てくるのは家庭での散髪の仕方などで、せいぜい、毛先を揃える程度のものだった。

ないとなると、なおさら欲しくなるのが人間の性。
聆は、必死に検索を繰り返した。だが、思うような画像にはたどり着けない。

そこへ、柊羽からのメッセージだ。

「お前、珍しく興奮してたよな。オレたち、同類だ。ようこそ、こちらの世界へ😏」
完全に見抜かれていた。聆は、顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。
そして、続けて送られてきた動画に、体中が熱くなりどうにもできず、スマホを閉じて、家へと走った。

家につくと、早速、柊羽から送られてきた動画を再生しなおす。

ケープを巻かれたロングヘアの女の子が映っている。
李蘭なのか李奈なのかわからないが、柊羽の娘だ。
「ぱぱ、きょうもプリンセスになれるの?」と声を弾ませている。
「そうだよ。今日は、いつもとは違う、特別なパパだけのプリンセスになるんだよ」
「りら、ぱぱのプリンセスになるー!」と言うと、後ろにいるもう一人も「りなもなるー!」とはしゃいでいる。
うわぁー、ここまで期待させていおいて、あのキノコ頭かよ!
聆は、柊羽の手口に残忍ささえ感じたが、同時に湧き上がる興奮も抑えられなかった。

「前髪を、おでこの真ん中あたりで真っすぐに揃えて、そのままの長さでくるっと一周、キノコぽいおかっぱにしてください。そこから下は、一番短いバリカンで刈り上げてください。
外で髪切るの初めてなんで、泣くかもしれないんですけど、静かにさせるんで、バッサリやっちゃってください」
柊羽のオーダーもエグいが、床屋も床屋で、「じゃあ、刈り上げは0.5ミリで青くしましょうか」とノリノリだ。

おでこの真ん中から、ぐるっと線を引いたあたりの後頭部にバリカンを当てられると、長い髪が、あっけなく切り離されケープの上を滑り落ちて行く。
そのまま、耳上までの長い髪をバリカンで切り落されると、襟足から一気に刈り上げて行く。前から見ると、前髪からもみ上げあたりまでは、長い髪のままなので、見た目に変わりはないが、根元から刈り落されるバリカンの感触に、李蘭は「ぱぱ、くしゅぐったくていやだ」とモゾモゾしだした。
柊羽が「李蘭、かわいいよぉ」とあやすが、機嫌は悪くなるばかり。
前髪にハサミが入ると、とうとう泣き出し「プリンセスじゃない!」と泣きじゃくっている。
隣にいる李奈は、次に自分が同じ目に遭うことがわかっていないようで、「りら、へんだよ」と笑っている。

すっかりキノコ頭にされた李蘭が椅子から降ろされると、最初の動画が終わった。
聆は、李蘭が可哀そうになる一方で、かつて経験したことがないほどに興奮している自分にも気づいていた。

次の動画を開けると、もう一人の娘、李奈の散髪が始まった。
李蘭の惨状を見ていただけに、最初から大暴れし、柊羽が必死に抱きかかえながら散髪されている。
あれだけ暴れつづければ、ハサミでは危ないからか、ほぼバリカンだけで刈り続け、心なしか李蘭よりも短い仕上がりになった。

可愛らしさなど、どこかへ吹き飛ぶほどの無惨な刈り上げきのこ頭にされた李蘭と李奈。
聆は、何をしていても、二人の断髪風景が頭から離れなかった。
週末になるたびに柊羽の言葉を思い出し、「今日も柊羽のバリカンで刈り上げメンテされてるのだろうかぁ」と考えずにはいられなかった。

しばらくして、汗ばむ日が多くなった頃、柊羽から連絡が来た。

「姫たちを夏仕様にするから、よければどうぞ」

短いその一文に、聆は、得も言われぬ興奮を覚えた。

約束の日。
柊羽の家のチャイムを鳴らすと、妻の之子が出てきた。
「いらっしゃいませ」と、ご機嫌に迎えてくれる。
娘たちが、キノコ頭にされた時は大激怒したという之子だが、今日は、ニコニコご機嫌そうだ。

之子について、リビングに行くと、泣きじゃくりながら夏仕様にされている娘の一人と柊羽がいた。

柊羽は、バリカンのスイッチを切ると、娘の頭についた短い髪を手で払い「終わったよぉ。さっぱりしたねぇ」と娘に話しかけている。
之子も、「スッキリして夏ぽくていいね」と娘の頭を撫でている。

確かにさっぱりしている。スッキリもしている。
でも、女の子を丸刈りて、どうなのさ!
聆は、「さっぱりスッキリし過ぎだろ!」とツッコミたくなる気持ちと、青白くツルツルの丸刈りにされた頭に触れてみたい欲望との間で葛藤していた。

柊羽は、もう一人の娘、まだ、キノコ頭の娘を抱きかかえると、聆にバリカンを渡した。
「おでこから一気にやっちゃいな。気持ちいいぜぇ」と意味あり気な笑みを向けてくる。
聆は、渡されたバリカンをもったまま固まっていた。
そんな・・・よその娘を丸刈りにするなんてできるわけないだろう・・・。

柊羽にバリカンを返そうとすると、之子が「虎刈りになっても、剃っちゃえばいいんで大丈夫ですよ」と言う。
娘をキノコ頭にされて、激怒していた人とは思えぬ発言だ。

聆は、覚悟を決めると、李蘭だか李奈だかわからないキノコ頭に「ごめんね」と言って、おでこからバリカンを入れた。
一際大きくなる娘の泣き声と、バリカンが髪を刈り取るバリバリいう音が重なり、娘にしてみれば地獄だが、聆は意識が飛びそうなほどの快感に浸った。
おでこからつむじまで刈り取ると、バリカンをおでこに戻して、更に刈っていく。
もともと、耳上まで刈り上げられた、小さな子どものキノコ頭。数刈りもすると、ほとんどの髪が刈り落された。
柊羽に仕上げを任せ、あっという間に丸刈りの出来上がりだ。

聆は、手に残るバリカンの感触を惜しんでいた。
ふと「女の子が、あの頭で幼稚園、大丈夫ですか?」と言うと、之子が「2~3日で、すぐに伸びてくるし、子どもたちの髪のお手入れがいらないて、本当に楽なんで、当分、坊主にさせようと思ってるんで」と笑った。
キノコ頭にされて激怒していた妻も、娘二人のロングヘアのお手入れがいらない楽さを味わってしまうと、もっととなって一気に丸刈りにされてしまった娘たち。
お姫様から数か月で、髪を全て失うなんて思ってもいなかっただろうなぁ・・。

聆は、柊羽に言われるがまま、娘たちを抱っこして、刈りたての頭を撫でた。
ザリザリぺたぺたした頭を触りながら、「オレて・・・・」と言葉を飲み込む聆だった。


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