神出病院の虐待事件に関する調査報告書から見えること~スタッフの倫理観を育てるために~
2020年に神出病院で起きた精神科の患者への虐待事件の報道を、目にした人は多かったのではないかと思う。先日、「倫理観を育てる」というテーマで学生に話す機会があり、その際に改めてこの病院が出した報告書を読んで感じたことを残しておきたいと思う。
なお、ここは重要なことであるが、この病院は現在体制を一新して新たな道を踏み出そうとしている。もちろん私は現場を知らないが、あくまで報告書から分かる虐待事件当時のことについて記載する。
初めて、調査報告書を読んだとき、あまりの残虐さと組織に根深く食い込んだ隠蔽体質に気分が悪くなった。第三者委員会を立ち上げたのは、事件後1年半経過してからである。労働環境も法令違反のようなこともあったらしく(有給取得の未消化率が低いと賞与が低くなる構造など)、組織全体がコンプライアンスを遵守できていなかったようだ。
しかし、この事例は“故意”の犯罪であり刑法上裁かれるべき事例だ。実際にその後の判決で執行猶予がつかず、懲役刑がくだされた人もいた。当然である。
私が看護学生に対して伝えたのは、看護管理者には「倫理観を育てる」役割があること、この病院ではそれができず、このような重大な事件になってしまったことである。
実は、事件としてはとりあげられていないが、報告書を読むと、当時の看護師長が、患者に対して虐待行為および不適切な看護行為を行っており、その6人のスタッフはその影響を受けて虐待行為を行うようになったと供述していた記載されている。つまり、ロールモデルとして看護を提供すべき看護管理者が、虐待を行っていたのだ。この6人以外にも、看護師長や主任の虐待行為を目撃した人がいたようであるから、事実なのだろう。
もし、彼らが入職したときに出会った看護師長、主任がきちんとした精神科看護を提供していれば、おそらくこのような犯罪を起こすことはなかったのではないか。彼らだって、もともとは私の目の前にいる看護学生と同じ教育を受けてきているのだ。看護学生で実習をしていたときに、看護師国家試験を受けたときに、初めて白衣を来て働き始めた日に、こんなことをしようとは思っていなかったはずだ。
この事件が明るみになったのは、別件で逮捕された際に押収したスマホに保存された画像があったからだ。病院内で自浄作用が働いたわけではない。傍観者として加害者になっていた看護職員も多数いた。
最後に看護学生にこの事例について伝えるときに、私はこういっている。
もし、自分が選んだ病院が、明らかに倫理的におかしいことをしている組織だったら、
逃げ出してもいいと思う。新人看護師が、できることは限られているから。
何回も書いてしまっているが、私が好きなドラマのMIU404で、
ルーブボールドワークマシーン ピタゴラ装置になぞらえて、話すシーンがある。
「たどる道はまっすぐじゃない
障害物があったりそれをうまくよけたと思ったら、横から押されて違う道にはいったり
そうこうするうちに罪を犯してしまう なにかのスイッチで道を間違える」
「自分の道は自分で決めるべきだ。
おれもそう思う。
だけど、人によって障害物の数は違う。正しい道に戻れる人もいれば、取り返しがつかなくなる人もいる。
誰と出会うか出会わないか この人の行先をかえるスイッチはなにか
その時がくるまで誰にもわからない。」
自分が誰かのスイッチになる可能性がある、管理者はそれを常に考えていくべきなのだと思う。