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優しくなれない

救いたかった人がいる。救えなかった。
世界中に救いを求める人がいる。裸足で雨に濡れて寝る人がたくさんいる。いまにくる空襲に怯えている人がいる。インターネットの記事や動画によってその人たちの生きる環境の苦渋や熾烈さは、あたたかい部屋で布団にもぐりながら肌が粟立つほど感じることが出来る。

でも私はたった一人救いたくて救えなかった人のことだけを後悔する。自分の無力に歯噛みする。無力ななかで作り上げたひとつの理想を一生懸命正当化しながら生きて、でもやっぱり時々苦しくなる。
たった一人のために。
人間は優しくて優しくない。

できることなら全ての人間を救えればいいよでもできないじゃないか、だから私は私に近しくて共感できる人間にだけ、強く強く救いたいと感じる。のに、たった一人でさえなんの支えにもなれない。そんな悔いを感じながら、いつの間にか眠りに落ちて朝が来て朝食を食べて人として活動して風呂に入ってまた寝る。普通に生きている。流れゆく感情の中で、いつ思い出しても薄れない深さの後悔を抱えて、人間は普通に生きていける。
惨めだ。

優しさとは何なのかいつも考える。人に優しさが本当に備わっているのか疑う。
私は突き詰めて考えると優しさは存在しないと思っている。エゴとエゴのぶつかり合いの中で生じた色んなもののなかのひとつを、人の理想のために優しさと名付ける。それだけだ。

人間が理想どおりの美しい形だったら良かったのに


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