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ぱすぱす 1

「首って苦いんだね」
「いい匂いのする代わりかな」
「いいことがあれば良くないことも一緒にあるってこと?」
「そうかも」と少し笑ってから口を塞いだ。

未熟なまま駆け出した私たちは、未熟なまま終わった。

よく乗るバスは病院のバス停で止まるため、お年寄りが多い。
中では、「孫はどちらにいるの?」と急に場をぶん回すおばあちゃんや、バスの賃金を払うために出した小銭をばらまいてしまうおじいさん。その中にいる私は少し浮いている気がする。言ってしまえばあの世へ行ったときもこんな感じなんじゃないかと思ってしまう。いや、そんなことないかお年寄りばかりが死ぬわけじゃない。思考が偏っていて嫌だなぁ、ごめんなさい神様。と一応天井に謝っておく。

「ねぇ、ちょっといいかしら」
後ろから声が聞こえ、おそるおそる振り返るとおばあさんが穏やかな表情をしていた。
「はい、、どうされましたか」
「あなたの髪がとても綺麗に結われていてすっごく声を掛けたくなったの。ごめんなさいね急に。」
「えっ、あ、ありがとうございます。」
生きていると突然人から褒められることがあるのか、こういったことが少しの希望になって、嬉しくなって、浮かれて、大きくなる。もう少し生きていたくなる。
ありがとうおばあさん。話しかけずにはいられないほどの綺麗な髪じゃないし、何なら今ピンクだから抵抗があってもいいはずなのに、あなたの衝動で私はもっと生きてもいいかなという希望になった。どっかの応援ソングよりも刺さるものがある。

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