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とんぼ【詩】

遅れてきた風が一つ身を焦がす
死に別れた倅(せがれ)かもしれない刹那さ
群れから離れた一羽のとんぼ
真夏の蝉にはならなかった
いやなれなかったのか
乾いたアスファルトに静かに張り付く
君はどこからきたの
僕の魂だけはまだ居るよと
淋しく伝えに来たの
泣きながら君の魂みたいなものに声を掛ける
恥じらいがあったから 思い残しがあったから
まるで詫びるように差し出す指先に止まった
忘れないでね僕のことを
忘れもしないし離れることはない
また来年も来いよ
一寸も恥じらわず真夏の蝉になって
爽やかな秋風と共にとんぼは飛ぶ
守ってやれなくてごめんね 詫びを返す
わるいのはわたしだから
小さなとんぼよどこへゆく
後姿にそっと声を掛ける
声は届いたのか
君は大きく羽を広げて華麗に去って行った
また逢えるだろうか

【了】

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