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Photo by
gemini0529
とんぼ【詩】
遅れてきた風が一つ身を焦がす
死に別れた倅(せがれ)かもしれない刹那さ
群れから離れた一羽のとんぼ
真夏の蝉にはならなかった
いやなれなかったのか
乾いたアスファルトに静かに張り付く
君はどこからきたの
僕の魂だけはまだ居るよと
淋しく伝えに来たの
泣きながら君の魂みたいなものに声を掛ける
恥じらいがあったから 思い残しがあったから
まるで詫びるように差し出す指先に止まった
忘れないでね僕のことを
忘れもしないし離れることはない
また来年も来いよ
一寸も恥じらわず真夏の蝉になって
爽やかな秋風と共にとんぼは飛ぶ
守ってやれなくてごめんね 詫びを返す
わるいのはわたしだから
小さなとんぼよどこへゆく
後姿にそっと声を掛ける
声は届いたのか
君は大きく羽を広げて華麗に去って行った
また逢えるだろうか
【了】