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夏目ジウ 掌編・短編小説集

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これまでnoteに掲載した小説をまとめてみました。
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2024年8月の記事一覧

盛夏に何を想う【掌編小説】

盛夏に何を想う【掌編小説】

 DVDには「昭和-戦禍の記憶-」というタイトルが付されていた。去年99歳で亡くなった祖父から受け継いだものだ。
 一人灯りを消して祖父の記憶に初めて触れてみる。画面にはテレビニュースで観たような人殺し合いが映し出されていた。僕は思わず目を背けた。でもやっぱり観なくてはいけないような気がした。フト「責任」という赤字で書かれた二文字が頭に浮かんだ。

 先達から受け継ぐ責任。誰かが語り継がなくてはな

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夏の思い出【掌編小説】

夏の思い出【掌編小説】

 夏が来れば思い出す。忘れよう忘れようとすればするほど走馬灯のように現れ出てくるのだから不思議だと思う。
 あれは始発の新幹線で帰省した時のこと。
 東京駅から名古屋へ向かう車中で見覚えのある女性がポツンと真ん中に座っていた。えーっと、と自らの乗車席を見つけた僕は思わず叫んだ。
 「あった!?」
 目の前の相手にはたぶん違うように聞こえたのだと思う。
 「いや、会ってません」
 続けざまに「知りま

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唄う美少女【掌編小説】

唄う美少女【掌編小説】

 「別れたあの夏を」
 「うわー、懐かしい」
 僕と彼女は最近こう言い合うのがなぜか流行っている。昔、母親が九十九里浜に連れて行ってくれた時によく流れていた昭和の歌謡曲だ。
 「この曲いいんだけど、カラオケで歌うと案外出だしとか難しいんだよね」
 彼女はこう悪戯っぽく言うと、自らの悲しい幼少期のことを語ってくる。僕は彼氏だからいいんだけど、ずっとそんな重い話をされても疲れてしまう。でもなかなか「別

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