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霧の街ロンドン
イギリス人は雨の日でも傘をささない。
Nはそんなことを知ってか知らずか運転席から降りて店までの約10秒、霧の街ロンドンを彷彿とさせる小雨降りしきる中、傘も持たずにことさらゆっくり歩みを進めた。その泰然自若とした振る舞いに周囲の人々の中には旧約聖書にて海を割ったことで知られるモーゼの面影を重ねた者も少なくないかもしれない。
味噌ラーメンを注文したNは店員にトッピングの野菜を増やすかという旨の問いを投げかけられた。回答時間までおよそ3秒。特段、制限時間が存在している訳ではないが店員が真摯にNを見つめるその瞳の奥には如何ともしがたい威圧的な何かが内包されており、この何かが3秒という刹那を醸成した要因であることに否定の余地は皆無だった。
当然といえばそれまでだが、程なくしてNの元に野菜増しラーメンが召喚された。勢いよく麺を啜ろうとしたNの前に立ちはだかるは幾重にも重なるモヤシの衛兵達。
冷静に戦況を理解したNは一呼吸おいて麺という名のキングを守るビショップやルークを一つずつ口腔に運び、最終的にチェックメイトしたことについてはある意味必然と言えるのかもしれない。