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高岡君のあんぶれら

5年竹組50名、担任は浅井先生。
これから掃除して終わりの会がすんだら後は帰るだけなので、みんなだらけてる。
単純にざわついているだけの教室に、ただならぬ先生の声。
「高岡!お前は何を言いよるんぞ ! 謝れ! 」
色黒で唇の厚い南方系の顔をした浅井先生の、怒鳴り声が教室に響き渡る。
「ばあちゃんがせっかく傘を持って来てくれたのに、『帰れ!』とはなんぞ⚡」
声の方を見ると、腰の曲がったお婆さんが教室を出ようとしている。
その後ろ姿は子供心にも、とっても悲しげに見えたよ。

だけどね、先生。
そんな正しいことは、誰でも言えるんだ。
いつも小さく固まって教室の隅っこにいる高岡君が、幸せそうじゃないことくらい、みんな何となくわかってる。
詳しい事情は知らなかったけど、ばあちゃんに帰れと言った高岡君が、心で泣いているのがわからないの?先生。
クラスのみんなの前で、高岡君を叱らないでよ。
先生がばあちゃんから受け取った傘を、高岡君に渡すだけでいいんだよ。
もし何か言うとすれば、「濡れて帰らずに済んで、良かったな」だよ。
それも小声でね。

後で知ったことだけど、高岡君はばあちゃんに育てられていいたらしい。

それとね、浅井先生のことで今でも「いいのかな?」と思ってることがあるんだよ。
クラスの女の子4人で、いつも互いに誕生日会をし合っていたんだけどね。
野口さんって言うロングヘアーの女の子の誕生日会に、浅井先生も来たよね。
私、先生が来たことに、びっくりしたんだよ。
「先生がこんなことしていいのかな?」ってさ。
その子んちは、当時珍しいお父さんが単身赴任の家庭で、お母さんは髪をアップにした着物美人だったよね。
何もわからない子供だったけど、浅井先生とそのお母さんが話している雰囲気が、とっても気持ち悪かったんだ。

あの雨の日の高岡君の悲しみ、私は今でも覚えてる。
先生はあの日、教育者だったのかな。


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