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Stablecoinの進化とEthena&Resolv


はじめに

本記事では、ステーブルコインの進化と新たな展開に焦点を当て、既存の課題を解消し、真に分散型のモデルを実現するための可能性を探ります。また、次世代のデルタニュートラル型ステーブルコインを代表するEthenaResolv Protocolのケーススタディを通じて、その比較分析を深堀りします。


ステーブルコインの歴史的進化

ステーブルコインは、$1の価値を維持するためにさまざまな戦略を使用するデジタル資産です。短い歴史の中で、多種多様な形態が登場しましたが、その基盤となる担保資産に基づいて分類するのが適切です。

ステーブルコインの分類

  1. 実世界資産 (RWA)

    • 法定通貨や米国財務省証券を担保とするモデル(例:USDT、USDC)

  2. 担保債務ポジション (CDP)

    • 暗号資産をスマートコントラクトにロックして発行される(例:DAI)

  3. アルゴリズム型

    • アルゴリズムを使用して供給と需要を調整し、担保を必要とせず安定を目指す(例:UST)

  4. デルタニュートラル型

    • ロングとショートポジションをバランスさせることで市場の変動を抑制(例:USDe、USR)

現在、1億2500万以上のアドレスがステーブルコインを保有しており、毎月約2000万のアドレスが利用されています。


初期ステーブルコインの挑戦と失敗

ステーブルコインの歴史は、2014年に開始されたBitUSDやTether(USDT)などのプロジェクトから始まります。

  • BitUSD

    • 暗号資産を担保として発行されましたが、$1のペグを維持できず失敗しました。その原因は、Delegated Proof of Stakeモデルの欠陥や不完全な担保メカニズムにありました。

  • Tether (USDT)

    • 当初、「法定通貨で1:1完全バック」と主張されていましたが、2019年に実際にはキャッシュとキャッシュ等価物で74%のみのバックと発表。

2019年には、CircleがUSDCを立ち上げ、USDTの独占に挑戦しました。現在、USDTとUSDCは月間4500億ドルを超える取引量を誇り、市場の大部分を占めています。


分散型ステーブルコインの出現

ステーブルコイン市場は、中央集権型モデルに代わる完全に分散型でオンチェーンのステーブルコインを求める動きが高まりました。代表例として、2017年にMakerDAOによって導入されたDAIが挙げられます。

DAIの特徴

  • 中央集権組織によらない発行:ユーザーが担保をスマートコントラクトに預け入れることでDAIを発行

  • 過剰担保:担保比率は発行額の150%以上

  • 透明性:誰でも担保を預け入れ、DAIを発行可能

しかし、アルゴリズム型ステーブルコインへの市場の期待が高まる中、2022年のTerra Luna(UST)の崩壊により、アルゴリズムモデルの信頼性に深刻な疑問が投げかけられました。

Terra Lunaの崩壊とその影響

  • USTの仕組み:LUNAを焼却することでUSTを発行し、$1の価格を維持

  • 崩壊の原因:市場センチメントの悪化に伴い、USTのペグが崩れ、最終的に価格が暴落

USTの崩壊は、市場に大きな空白を生み出し、新たな分散型ステーブルコインがそのギャップを埋めるべく登場する契機となりました。


ステーブルコインが直面する課題

現在、ステーブルコイン市場の総供給量は1600億ドルを超え、1日の取引量は400億ドルに達しています。しかし、以下のような課題が依然として残っています。

  1. 規制リスク:規制の強化

  2. 透明性の確保:担保や準備金に関する定期的な監査

  3. 中央集権化のリスク:TradFi(従来の金融システム)への依存

さらに、2023年のUSDC危機のように、中央集権型モデルは外部の金融リスクに対して脆弱であることが明らかになりました。この出来事は、暗号通貨が完全に分離されたエコシステムではないという現実を浮き彫りにしました。

一方、分散型ステーブルコインにも以下のような課題があります。

  • スケーラビリティ:オンチェーンでの運用による効率性の低下

  • 担保効率:深い流動性と資本効率の確保が必要

  • ペグ安定性:市場のボラティリティに対抗する安定性の維持

  • セキュリティ:リスクを最小限に抑える必要性


次世代のステーブルコイン:EthenaとResolv

デルタニュートラル型ステーブルコインは、分散型金融(DeFi)の未来を切り開く可能性を秘めた革新的なモデルとして注目されています。このモデルは、暗号資産の持つ価格変動リスクを最小化しつつ、資本効率を高め、透明性や分散性を実現することを目的としています。


Ethenaのシングルトークンモデル

Ethenaは、シンプルな設計でリスク管理を行いながら、分散型ステーブルコインの可能性を追求しています。中心となるのは、USDeと呼ばれるステーブルコインであり、これを支える仕組みは以下のような構造を持っています。

USDeの特徴

  • 完全担保型設計:USDeは、ETH(イーサリアム)を担保とし、さらにその価値をデルタニュートラル戦略で保護しています。具体的には、ETHの価格変動をヘッジするために、ショートポジションを利用します。

  • 担保運用の収益化:担保資産として収益性の高い**Liquid Staking Tokens(LST)**を活用します。これにより、担保そのものから収益を生み出すことが可能となり、プロトコル全体の資本効率を向上させます。また、先物市場のスプレッド(Funding Rates)からも収益を得ています。

メリット

  1. シンプルなUX設計:Ethenaのシングルトークンモデルは、複雑なリスク分離を必要とせず、ユーザーに対して分かりやすい設計を提供します。これにより、初心者から経験豊富なユーザーまで幅広い層にアピールできます。

  2. 安定性と資本効率の向上:デルタニュートラル戦略により、担保資産の価格変動リスクを最小限に抑えつつ、担保の収益化を進めることで高い資本効率を実現しています。

リスク

  1. 中央集権型取引所(CEX)への依存:USDeは、ショートポジションの実行に中央集権型取引所(CEX)を利用しています。これにより、取引所の透明性や健全性に依存するリスクが発生します。特に、取引所の破綻や資金の凍結といった事象が発生した場合、プロトコル全体に影響を及ぼす可能性があります。

  2. 資金調達率(Funding Rates)の変動:先物市場のショートポジションにおける資金調達率が急激に変動する場合、USDeの担保効率や収益性が低下するリスクがあります。また、USDTペアへの依存が高いことから、USDTのデペグ(価値が$1から乖離する現象)リスクにもさらされています。

保険とリスク管理

Ethenaは、これらのリスクを軽減するために、以下の保険や管理手法を導入しています。

  • 動的ポジション管理:市場状況に応じてポジションを調整し、リスクを最小化します。

  • 専用の保険ファンド:市場の急激な変動に対するセーフティネットとして、保険ファンドを設置しています。

  • 担保の分散管理:複数の取引所やカストディアンを利用することで、単一の障害点(Single Point of Failure)を回避しています。


Resolvのデュアルトークンモデル

Resolvは、デュアルトークンモデルを採用し、ユーザーごとのリスク許容度に応じた柔軟な設計を提供しています。このモデルは、リスク分散と収益性を両立させる点で特異なポジションを占めています。

USR(シニアトランシェ)

  • USRは、リスクの低いステーブルコインとして設計されており、低リスク志向のユーザーに適しています。担保としてETHを用い、デルタニュートラル戦略を活用することで安定性を確保しています。

RLP(リスク吸収トークン)

  • RLPは、市場リスクを吸収する役割を果たします。このトークンは、高いリスク許容度を持つユーザー向けに設計されており、リスクプレミアムとしてプロトコル収益の一部を享受します。

メリット

  1. リスク分散による安定性:Resolvのデュアルトークンモデルにより、市場のボラティリティやカウンターパーティリスクがRLPに分散され、USR保有者に安定性が提供されます。

  2. 柔軟な設計:低リスクのUSRから高リスクのRLPまで、異なるリスクプロファイルのユーザーに対応する柔軟性があります。これにより、より広範なユーザー層を取り込むことが可能です。

リスク

  1. 永続契約市場での資金調達率変動:ショートポジションを通じたデルタニュートラル戦略は、資金調達率の変動に対するリスクを抱えています。特に、資金調達率がマイナスになる場合、担保の効率性が低下します。

  2. 流動性リスク:大量の資金引き出しや担保価格の急激な変動が発生した場合、RLPの価値が著しく低下し、システム全体に影響を与える可能性があります。

Resolvのリスク管理戦略

  • カウンターパーティリスクの軽減:担保資産の一部をオンチェーンで保持し、取引所への依存を減らしています。また、複数の取引所を利用することで、単一障害点を回避しています。

  • 保険的役割を果たすRLP:RLPは、プロトコルの損失を吸収する仕組みとなっており、USR保有者を保護する役割を果たします。

  • 流動性管理:担保率が一定の閾値(110%)を下回った場合、RLPの引き出しを一時停止する仕組みを採用しています。


まとめ

デルタニュートラル型ステーブルコインは、現在の暗号資産市場において非常に重要な役割を果たすと期待されています。その未来を形作る要素は以下の通りです。

1. 新たな担保資産の統合

ETHやBTC以外の資産を担保として統合することで、分散化と資本効率のさらなる向上が期待されています。特に、収益を生む資産(例:Liquid Staking TokensやLiquid Restaking Tokens)の利用が拡大すると予想されます。

2. 規制対応の強化とCEX依存の削減

現在、多くのデルタニュートラル型ステーブルコインは、CEXへの依存度が高い状況です。将来的には、オンチェーンでのヘッジングを可能にする新技術(例:オンチェーンオーダーブックやインテントプロトコル)の活用により、透明性が大幅に向上するでしょう。

3. カスタマイズ可能なリスクエクスポージャー

ユーザーごとにリスク許容度が異なるため、柔軟でカスタマイズ可能なエクスポージャーが求められています。Resolvのようなデュアルトークンモデルは、こうした需要に応える設計として注目されています。

4. 分散型金融の進化

デルタニュートラル型ステーブルコインは、分散型金融(DeFi)全体を新たな次元へと進化させる潜在力を持っています。特に、既存の中央集権型モデルから脱却するための重要なステップとなるでしょう。


参考文献


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