![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171439787/rectangle_large_type_2_78397bb9cdc6f5edd032265fc50e6dfa.jpeg?width=1200)
MorphoかEulerか?レンディングハイパーストラクチャーの比較
はじめに
近年、MorphoとEulerは多くの注目を集めています。どちらのプロトコルもトップレベルのDeFiチームによって設計され、完全に分散化されたレンディングプロトコル、いわゆる「ハイパーストラクチャー」として構築されています。
これらのプロトコルは、高いセキュリティ基準と真の分散性を追求する設計思想で、従来のレンディングモデルを再定義しています。それぞれ異なるアプローチでDeFiエコシステムに貢献しており、どちらも現在の市場で重要な役割を果たしています。本記事では、両プロトコルの特徴と設計哲学を比較し、それらがどのように補完し合うかを探ります。
Monolithic(統合型)市場とIsolated(分離型)市場の定義
Monolithic Lending Market(統合型レンディング市場)
統合型市場とは、複数の資産を1つの大きな市場として統合し、「プロトコル=市場そのもの」として機能するものを指します。代表例として、AaveのaUSDCやCompound、Euler V1が挙げられます。この市場では、以下の2つの特徴があります:
複数の担保資産を組み合わせて借入が可能
担保資産は借入のために使用され、収益を生む
たとえば、異なる借り手が同じDAIプールから借入する場合、それぞれ異なる担保(ETHやBTCなど)を使用しながらも、1つの統合市場として管理されます。これにより、資産間でリスクを共有する「相互信頼型クラスター」が形成されます。
Euler V2は、柔軟なレンディング市場を構築できる「工場」として設計されていますが、そのアーキテクチャは主に統合型市場を最適化する形で設計されています。
Isolated Lending(分離型レンディング市場)
一方、Morphoは完全に分離された市場を設計しています。この設計では、各市場が単一のローンと担保資産のペアとして定義され、1対1の関係を厳密に維持します。
たとえば、ETH-USDC市場やBTC-USDC市場といった形で市場が個別に管理され、流動性は分散された形で配置されます。この設計により、リスク共有が発生せず、各市場が独立して運営されます。
以下の比較では、Eulerを統合型市場、Morphoを分離型市場として捉えて議論を進めます。
比較ポイント1: 借り手のUX
Eulerの借り手体験
Eulerの統合型設計では、複数の担保資産を1つのポジションにまとめて管理できるため、借り手にとって非常に利便性が高いと言えます。たとえば、大規模なデルタニュートラル戦略を実行する際、統合市場であれば清算リスクがほとんどない状態で大量のステーブルコインを借りることが可能です。
Morphoの借り手体験
一方で、Morphoでは分離された市場構造のため、借り手は担保ごとに個別のポジションを維持する必要があります。たとえば、ETHを担保にUSDCを借りる場合と、BTCを担保にUSDCを借りる場合で、それぞれ別々のポジションを管理する必要があります。このため、ポートフォリオ全体の管理や清算リスクの監視が複雑になります。
比較ポイント2: 借入金利の違い
Morphoの分離型市場では、担保資産ごとに独自の金利が設定されるため、理論的には公平な金利が実現されます。たとえば、ETHを担保にUSDCを借りる場合の金利は5%、LRTを担保にする場合は15%といった具合です。
一方、Eulerの統合型市場では、複数の担保資産が混在するため、借入金利が平均化される傾向があります。これは、低リスク資産を担保にする借り手には不利であり、高リスク資産(例: ミームコイン)を担保にする借り手にとっては有利となります。
比較ポイント3: 信頼性の仮定
統合型市場では、「ガバナー」と呼ばれるエンティティが市場構成を管理します。このため、借り手はガバナーが清算リスクを高めるような変更を行わないことを信頼する必要があります。Eulerはこの問題に対処するため、LTV(ローン価値比率)ランピングメカニズムを採用し、突然の変更から借り手を保護します。
一方、Morphoの市場は不変であり、「所有権」の概念が存在しません。このため、借り手は自分のポジションに関する完全なコントロールを維持します。
比較ポイント4: 資本効率と再担保化
Eulerでは、担保資産を他のレンディング市場で再利用できる「再担保化」によって、資本効率を大幅に向上させることが可能です。一方、Morphoでは担保資産がロックされ、借入に使用されることがないため、資本効率は低下します。
具体例として、AliceがETHを担保にDAIを借りたい場合と、BobがDAIを担保にETHを借りたい場合を考えます。Eulerの統合型市場では、両者が直接お互いの担保を利用する形で効率的に取引が行われます。しかし、Morphoの分離型市場では、それぞれが別の供給者を見つける必要があります。
比較ポイント5: 流動性の集約と分散
Euler(統合型市場)の流動性
Eulerでは流動性が1つのクラスター内に集約されるため、新しい資産の導入が容易です。さらに、トークン化された担保(例: cUSDCやaUSDC)は他のDeFiプロトコルでの使用が可能であり、ネットワーク効果が生まれます。
Morpho(分離型市場)の流動性
一方、Morphoでは流動性が複数の市場に分散されます。このため、流動性を集約するためには各市場が競争力を持つ必要があります。ただし、Morphoの設計では、新しい市場を立ち上げる際に初期の流動性を心配する必要がない点がメリットとなります。
両プロトコルの哲学的違い
Monolithic Lendingの哲学: 資本効率の最大化
Eulerは資本効率の最大化を目指しており、統合型市場で流動性を集中させることでスケールを実現します。ただし、効率を優先する代わりに、一定のガバナンスへの信頼が必要となります。
Isolated Lendingの哲学: 完全な分散化
Morphoは「ゼロ信頼」のアプローチを採用し、分散型市場を通じて誰もがリスクに応じた市場を構築できる環境を提供します。このアプローチは資本効率を犠牲にしますが、完全な分散化を実現します。
まとめ
MorphoとEulerはその設計哲学において対照的ですが、どちらもDeFiの進化に貢献する重要なパーツです。どちらかを選ぶ必要はなく、両者が共存し、それぞれの強みを活かしてエコシステムを拡大していくことが予想できます。