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祖母は空の上でも鉄腕DASHを観ているだろうか。
祖母・はるさんは昔から、家にいる時はとにかくテレビを見ていることが多かった。
90歳を過ぎて認知症が進んで性格が変わっても、その点は相変わらずだった。
ある日、リビングでテレビを見ていた祖母がのっしのっしと台所まで歩いてきた。
食いしん坊なのでお腹が空いたのかと思い
「どしたん?小腹空いた?」と聞いたのだが、首を振る。
「キムタクのドラマが始まったよ」
と、一言。
びっくりした。
氷川きよし以外の芸能人に、ビタイチ興味のない人だと思っていた。
ばあちゃん、キムタクっていうワードを知ってるんだ……
その日以来、ばあちゃんが他にどんな芸能人を認知しているのか、詮索してみることにした。
ばあちゃんは昔から芸能界にも歌謡界にもさほど興味はない人なので、バラエティー番組も、ドラマも、どういう基準で番組を選んでいるのかは分からない。
チャンネルを回して、面白そうだったら見る。
面白くなくてもテレビはつけっぱなしで、うたた寝をする。
いびきをかいて寝ているくせに、テレビを消すとすぐにムクリと起きる特殊能力を持っていた。
「なんで消すねん」と文句を言い、またすぐにテレビをつける。
そして面白くなかったら、またすぐに居眠りをする。
眠りに落ちるスピードが、のび太くんとええ勝負だった。
そんな祖母が特に好きな番組は、鉄腕DASHだった。
これはほとんど居眠りをしないで観ていた。
畑仕事を長年やってきたので、若者が昔ながらの原始的な手法で畑をしている姿が面白かったのだと思う。
「この畑やってるお兄さんたちは、誰だか知ってるん?」
と尋ねると
「そら、知っとるよ。えーと……。知っとんよ……知っとんでよ……」
長考の末、
「……トッキョ!」
ばあちゃん的には「TOKIO」と言っているつもりらしかった。
完全に「特許」のイントネーションだったけれど。
ある日、初心者が畑に挑戦する系のまったく違う番組を観て
「今日のトッキョは、なんか鈍くさいなあ……」と言っていた。
TOKIOが日によって初心者に逆戻りするなど、あってはならぬことだが、
若い人が畑をしている番組があれば、どれでも鉄腕DASHだと思っていたのかもしれない。
キムタクほど的確には分からないが、TOKIOは知っているという判定にした。
笑福亭鶴瓶師匠がMCの番組もよく見ていた。
家族に乾杯とか、仰天ニュースとか。
仰天ニュースの番組冒頭で、鶴瓶師匠と中居くんが二人で会話をするシーンがあったので
「ばあちゃん、鶴瓶の横におる人は知ってる?」と尋ねてみる。
「そりゃアンタ、中居やろ」
即答!!すごい!!
「え、中居くん知ってるんや!すごいやん!じゃあ、中居は何ていうグループの人でしょうか!」
褒めておだてて次の問題にいってみる。
「そりゃ、アレよ。えー……。すまっぷ……?」
SMAP!!
ちょっと自信なさげだけど合ってる!!
「すごーい!!SMAPも知ってるんや!!」
「そりゃ知っとるよ!」
自信なさげだったわりに胸を張っているので、最終問題へ。
「ほんじゃあ、SMAPは他に誰がおるか知ってる?」
「知らん」
知らんかあ。
でも、メンバーの名前はきっと聞いたことがあるはずだ。
ヒントを出してみよう。
「ばあちゃん、キムタク知ってるんやろ?」
「キムタク知っとるよ。キムタクは、すまっぷか?」
「そうよ。中居に、キムタクに、、?他に誰がおりそう?」
「中居に、キムタクに………慎吾!」
慎吾!!
まさかの呼び捨てで大正解。大笑いした。
ばあちゃんは、兄弟や親せきなどの大人数の名前を思い出すときは必ず
「タロウに、ジロウに、ハナコに、、」
というリズムで口ずさむので、その習性を利用してひねり出された香取慎吾。
草彅剛でも稲垣吾郎でもなく、香取慎吾を思い出した理由は分からないが、私が幼い頃に慎吾ママのおはロックを踊り狂っていた世代で、テレビにSMAPが映れば「あ、慎吾ママや!!」と反応しまくっていたせいかもしれない。
「ほかの人は、顔は知っとるけど名前は分からんわ」
とのこと。
いや、もう孫は大満足です。
90歳過ぎてそんだけ知ってたら上等。
毎週決まった曜日に鶴瓶師匠と一緒に出てくる中居や、何かとドラマでよく見るキムタクに比べたら、慎吾ママは遠い遠い記憶の彼方にいたはずなのに。
慎吾の名を言えたなら、いつか私の名前を忘れられた時も、
「中居に、キムタクに、、」
と同じリズムで思い出してもらえそう。
そんな祖母が先日、夢に出てきた。
雲の上にある団地みたいなところに住んでいて、洗濯物を干していた。
(夢だとは分かっているけど、あの世にもこんな住宅があるのか……)
と、あの世市営住宅の前で佇む私に
「ありゃ、あんた久しぶりやな。ばあちゃんはまだ洗濯もんがあるけん、中でテレビでも見よりな」
と、ばあちゃんは声をかけた。
その続きはよく覚えていないが、一緒にテレビを見ながら話した気がする。
目が覚めて、ばあちゃんの命日が近いことを思い出した。
「忘るるなかれ」と、夢に登場してくれたのだろうか。
あの世にもテレビあるんやね。
よかったね。