He feels regret。
私の彼はティクトカー
ネパール人の彼に2回目ぐらいに会ったときにティックトックはしてないの?と聞かれた。
僕は答えた。日本のおじさんはしてないよと。
彼の話によるとネパールでは老いも若くもなくみんなティックトックに夢中らしい。
僕は日本ではユーチューブの方が人気があるんじゃないかなと伝えた。
伝えたすぐ後に日本でも若者はみんなティックトックやってると思うよともあわてて付け加えた。
ユーチューブに夢中なのは中年以上というどこかの情報が頭をよぎったのだ。
自然と中年の視点で語ろうとしてしまっていた。あぶないあぶない。
てか、やっぱり彼も20代前半の若者で有名どころのSNSは大体やっていて本当に日本の若者と変わらないんだなと思った。
それからしばらく経って何度目かに会った時にお互いの名前を教え合った。
彼の名前は本当に愛らしい語感で何度も声に出したくなった。
地元に戻ってからそういえばと彼の名前でティックトックを検索してみた。
すると彼の名前が3つ目ぐらいに出てきて驚いた。
彼のアカウントを開いてフォロワーが1万人以上いてまた驚いた。
ネパールでの相場はわからないが一般人で1万人以上いればすごいんじゃと思った。
彼のアップしている動画の数々を次々と見た。見て人気の理由がわかった気がした。
彼の楽しそうなライトな笑顔が本当にティックトックの世界に合っていたから。
彼がネパールにいたころの動画から日本に来てからの動画もあってそのどれもに彼は楽しそうに映っていた。
もちろん一人で音楽に合わせて踊る動画もあったが、たくさんの友達に囲まれた動画もたくさんあり彼の周りに自然と人の集まる空気が流れているのが伝わってくる気がした。
それからずっと暇な時間にはティックトックの彼を見ている僕がいた。
少しちょけながらネパールの音楽に合わせて踊る彼はずっと見ていられる。中でも一番のお気に入りはネパールの湖を移動していくボートに腰かけている彼の動画だ。それが普通にかっこよくずっと見てしまう。
彼は世界のどこにいたって笑顔でいれる人だ。改めてそう思った。
そして、僕は彼の笑顔のファンなのだと気づいた。それに惹かれていると。
The first times
彼といると彼のはじめてにたくさん立ち会うことができる。
ラーメンも初めてだと言うしT字カミソリも初めてだと言うし。
化粧水だって塗ったことがないと言う。
はじめてのとんこつラーメンは小倉駅に隣接する店舗で一緒に食べた。
彼は本当に正直なので口ではおいしいと言いつつも顔はあんまりだったのでそういうことなんだと解釈した。確かに脂っこいし日本人でも好き嫌いはあるしねという話をした。
日本では髭は剃った方がいいよ身だしなみに厳しいからという話から髭をT字カミソリで剃ってあげた。普段は電動シェーバーを使っているというのでそれなら家に帰ってからでいいやんと言っていたのだが、どうしてもやってみたいというのでやってあげた。刃を直接肌に当てるのに慣れていないしちょっと剃った後は痛そうだった。
そのあとは化粧水。肌には何もつけたことがないというので驚いた。
見た感じ多少乾燥はしてるのかなとは思ったけれど、別に何もつけずにきれいな顔をしているのだからそのままでいいような気もした。
でも、せっかくつけたことがないというのだからはじめてのことしようよとつけてあげた。彼の反応は微妙だった。
彼がしたいということならしてあげたいけれど、こちらからの初めての押し売りはなんか違う気がした。
別に僕が無理に日本のやり方を教えなくても彼は元気にネパールのやり方で生きている。そんなつもりはなかったが何かを教えてあげる優越感みたいなものがあったのかもしれない。
He feels regret
彼とまた深夜のLINE電話。
おっさんはまぁまぁ眠たいし疲れているんだけどと思いながらも彼から電話がかかってくるとうれしい。
いろんな話をする中で彼がボソッとI feel regret come to Japanと言った。
英語と日本語の混じった僕らの会話。
彼は英語をゆっくり僕に伝えて意味わかりますかと。
僕はわかるよと伝えながらそんなこと言わないでとも小さな声で言った。
長時間拘束される日本での労働が彼にはとてもきついようだった。
日本語を勉強しながらのバイトというのも大変だし、また日本人全般が彼の眼には冷たく映っているようでそれもつらい原因なのだろうと思った。
コミュニケーションを取ってくれない人たちと明確に認識されている。
僕は必死にそんな悪い人ばかりじゃないよと彼をなだめた。
一方で日本で働くことってなんでこんなにつらく孤独になりがちなのだろうと自分事としても思った。
そして、日本人とは違ってシフトの要望もなかなか聞いてもらえないと彼は不満を漏らした。そう言っている彼の顔はとても悲しそうに見えた。
彼の話を聞きながら思った。
ネパールやインドのようなカーストは日本にもあるのだろうと。
ネパールではかなり昔に廃止されたらしいがそれでもそう簡単に下地は変わらない。
日本にもカーストはある。日本人は外国人を下に見ている。
田舎者の僕の中にはそういう部分がある。それは認めたい。
そして、そこから話は始めるべきだと思った。