〈ぼくはくま〉
山根あきらさんの企画'ぼくはくま'
のお題に参加させていただきます。
どうぞ宜しくお願いいたします。
#ぼくはくま /ショートストーリー(1,996字)
とあるところにくまが大好きな少女がおりました。
気が付けば彼女の身の回りの文具用品やグッズは
くまのモチーフばかり
ペンケースに、シャープペンシルに消しゴム。ぷくぷくのくまのシールにお気に入りのノート。
白いくまの丸いコインケースにはお小遣いを入れている。
そして一番のお気に入りは彼女と同じ大きさ程の白いくまのぬいぐるみでした。
首元には赤いマフラーがキュッと結ばれており
そのつぶらな瞳はまるでなにかを見透かしたように
黒々とまあるく、きゅっとつぐむ口は優しい表情をしています。
'このくまさんが大好き'
少女は毎日眠る前に、その大きな大きなぬいぐるみをそっと抱きしめることが日課でした。
'おやすみなさい''くまさん大好きだよ'
◇
時が経ち、部活に明け暮れた少女は
部屋の中にある大きなくまを
撫でることを次第に忘れていきました。
そしてある日、少女は突如プーさんグッズを集め始めるようになりました。
あれもこれもプーさん。
これといった理由は特にないよう、ただただ年頃の女性がテレビの中の届かぬ存在に夢中になるように
彼女はプーさんに夢中になりました。
'夢の国、もしかしてディズニーランドへ行けば本物のプーさんに会えるのかも!'
本物に会いたがっていた少女はわがままを言って
挙げ句の果て両親を巻き添えにし、
ディズニーランドへ連れて行ってもらうことをこぎつけることに成功しました。
'やった!やっと本物のプーさんに会える!'
光り輝く少女の目、
踊る心に反して高まる緊張感と胸の鼓動。
そっと高揚感を押さえながら少女が眠りについた夜、
白いくまは部屋の一角からその様子をそっと見つめていました。
◇◇
しかし実際には、ディズニーランドでプーさんに会えることは出来ませんでした。
なぜならプーさんは大の人気者で他の観光客と写真を撮ることすら忙しなく、限られた時間の中ではとても全員と握手することなど難しかったのです。
楽しそうに写真を撮るプーさんを見て
少女は寂しい気持ちをグッと堪えました。
変わりにお土産屋さんでは、たっぷりとグッズを買ってもらうことにしたのです。
鞄につけるキーホルダーにお菓子の缶、ノートにそしてぬいぐるみ。
特にぬいぐるみ選びはとても慎重に
じーっと陳列されているぬいぐるみを見つめて
目の位置だとか口の縫われ具合だとか
全体のフォルムだとか、大事に大事に
扱えそうなものを選びたいと思い棚の前で考えました。
母の声「早くしてー」
すると父がぽいっとひとつのくまを選んだのです。
「このくまが一番いい。目も鼻の位置も整っていて、
凛々しくもなんだか可愛気もある。うむ。」と
「うん。」と少女はそのままとそのくまを受け取り
ようやくレジへと足を運びました。
帰宅した後のお楽しみは
買ってもらったくまに名前をつけること。
お菓子の缶を開けて、そっと口の中の甘さを楽しむこと。
空いた缶はそっと両親に気付かれないように
リビングの隅に忍ばせておくこと。
これが出来ると大満足。
すると部屋の大きなぬいぐるみがひとつ呟いたのです。
「その黄色いくまくん達は新しい仲間?」
ぼくは白くて大きなくまだから怖がられないか心配だな.
最近は眠る前のハグもされなくなったし、
彼女は僕の事は忘れてしまったのだろうか..
しかし彼女は変わらず、部屋の一番大きく目立つ場所に
そして木製の棚の幅が一番広い列に
そしてその一番上の高い場所に白いくまを飾り続けました。
◇◇◇
ある夜、その白いくまがそっと呟きます、
'ぼくはくま'
'くまなんだよ、君のことは、小さい頃からずっと見ていた'
'変な寝相も、何かに悩んで部屋で泣く姿も、
もしゃもしゃ寝言をいう姿も、
全部この部屋から眺めてた。'
'君はいま、黄色いくまに夢中だけれど、
またいつかぼくの頭をそっと愛でてくれるのだと信じてる。'
'そしてまたあの頃のように、ぎゅっと熱く抱きしめてくれるのを待っている'と
'君の一番の味方でいたいんだ.'と
少女はいつしか大人になり
部屋の一角に溢れている黄色いくまを眺めます。
かわいい〜と
そしてひとつ手に取り、ひとつだけ持っていくね.と。彼女は家を出ることにしました。
ひとつだけを手に取った少女を見つめながら
棚の上の一番白い大きなくまの丸々とした目がそっと緩みます。
'君はあたらしい道へと足を踏み出すことを決めたんだね'
'君と過ごしたこの部屋での日々のことを忘れない'
◇◇
そうして、年月が過ぎ
白いくまのぬいぐるみには白い埃が積りました。
白いくまはそれでも幸せでした。
少女との楽しい想い出が頭の中を駆け巡り
誰にも触れられなくなったくまはそっと眼を閉じました。
'君の成長をみることがなにより幸せだった'と。
'君のこれからの未来が輝しいと心から願ってる'と小さな口で囁いたあと目をぎゅっと閉じました。
母「あら〜こんなところに〇〇ちゃんの大きいくまさん」これはもう多分要らないわね、と
''ぼくはくま'' 'そうくまだったんだ'と
おわり.
拙いところや表現があるかもしれません。
読みづらいところがあれば申し出てください。
また感想やコメントも待っています。
宜しくお願いいたします🙇🙇
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