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〈お気に入りのペン〉

ショートストーリー/お気に入りのペン(675字)


お気に入りのペンが消えた
いつもの場所に間違いなくあった
私のジェットストリーム.

色はサーモンオレンジで、
鮭みたいな色をしているの

紙に書くと、まるでプリンが口の中に滑り込むときのように、そっとノートにインクを垂らすの

この書きごこちが大好きで
長年浮気もせず.ジェットストリームだけを使い続けてきたの

するとある日出掛けた先でペンをなくしてしまったの
どこに置いたかも分からなくなって気づいた時は焦ったわ

家に帰宅して鞄の中を開けてみる
ミニポケットにも、手帳の側にも、どこにも見当たらない.
「私.どこに置いてきちゃったんだろう」って心の中で呟いた後に
どうしようもなく悲しくなってきちゃったの

翌日ね目を覚ますと
ペンがリビングの端にあるテーブルの上に転がってたの
寂しそうにひとり佇んでた
私は全く気が付かなくって
きっと焦って出掛ける際にバッグに入れ忘れてたのね

'気づかなくってごめんね'そっとペンを拾い上げて
書いてみた。

するといつものように、同じ書き心地、同じ滑りやすさだった。
ただねひとつだけ..ノックをする時硬かったの..
この凍てつくような寒さの中で
私が放置してしまったせいでインクが凍ってしまったのかな

「ここにいたのに.気付かなくってゴメンね」
と私はそっと優しくペンを握りしめた

またインクの字が紙へと滑り込んでいくわ
今度インクがなくなった時は、
君のサイズにぴったりの..
君が好きな色を一緒に探しに行こう!

いつも書きやすさと見やすさ重視で
無難な黒を選んでたからね、
いまは赤や青じゃなくて、カフェモカみたいな
優しいブラウンだってあったよ。

一緒に探しに行ってみない?

おわり.

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