水槽の中。
うちには、
いや、厳密に言うと、
幼少の頃の、うち、には、だ。
今は大人になった私の目の前にある、
30インチのテレビ程の大きさだったであろうか、
水の入っていない
カラの水槽が、
桐のタンスの上に無造作に置かれていた。
背伸びをしても
手が届かない桐のタンス。
蓋であろう1枚のガラスは、
その水槽の中
ナナメに
これもまた
無造作に収まっていた。
その
水の入っていない水槽で
泳いでいるのは
輪ゴムでくくられた
なんびきもの
束のお札達。
横を向いたり、上を向いたりしながら
エサをもらうことなく
彼、彼女らは
水のない水槽の中を
泳いでいた。
君たちは天井を見上げて
何を感じていただろうか。
水槽を飛び出して
世の中の大海原を
泳いでいけたかい?
魚たちを水槽の中に放っていたのは
私の父だった。
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