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保育園看護師のお仕事紹介シリーズ ⑩‐2「怪我の対応【実践編】」

こんにちは!現役保育園看護師のチロです。

保育園看護師の仕事の楽しさや専門性を発信していく『保育園看護師のお仕事紹介シリーズ』!

引き続き、保育園における「怪我の対応」について解説していきます。

今回は【実践編】として、保育園看護師として日々実践しているリアルな怪我の対応について、保育園看護師の専門性をどのように発揮すべきかという私見を交えつつまとめてみました。

少々長くなってしまいましたが、この記事で一番伝えたいことは、「傷を処置することだけが保育園看護師の仕事/専門性ではない」ということです。

また、各項目にサマリーを設けてみました。時短で読みたい方は、是非サマリーをチェックしてみてください!

前回の記事と合わせて、ぜひご参考ください!


保育園看護師の基本対応(おさらい)


前回の記事の復習です。保育園における「怪我の対応」の中で、以下の項目については保育園看護師としての専門性を発揮していけると考えています。

・応急処置
事実確認と検証
通院すべき怪我かどうかの一次的な判断
記録の作成
職員講習
自己研鑽/外部研修
保護者への怪我の状態等の説明や支援的関わり(こちらは次回解説!)

また、保育園看護師として怪我の対応をする上で大切にしていることが2つあります。

  • 怪我を処置するだけでなくいち保育従事者として園児と関わる

  • 傷の有無に関わらず日頃から職員や園児から頼りにされる存在になる

上記の各項目について解説していきます!

応急処置


保育園は医療機関ではないため、医薬品や衛生用品が豊富にあるわけではありません。そのため、怪我(外傷)に対して出来る処置はある程度限られています。

各園で多少の違いはありますが、保育園で出来る基本的な怪我の応急処置は以下の3つです。

  • 患部を流水で洗う

  • 患部をクーリングする

  • 患部を保護する(絆創膏等)

以前は「傷を消毒する」ことが応急処置としてよくされていましたが、医療界の常識も日々ブラッシュアップされていて、今では傷を積極的に消毒する必要はほとんどないとされています。

少なくとも、保育園での応急処置としては患部をきれいに洗い流せば十分です。後述しますが、消毒が必要になるほどの傷である場合は、医療機関を受診した方がよいでしょう。

また、「傷にはワセリンやプロペトを塗布する」という対応をしている保育園もあるかと思います。園でワセリン等を使用することに関しては賛否両論ありますが、個人的には不要だと考えています。保育園におけるワセリン塗布の賛否に関しては、せっかくなので別の記事にまとめます!

経験上、保育園でよくある怪我トップ3は、「擦り傷」「打撲」「ひっかき傷」です。

怪我の報告を受けた際は、出血はあるのか、腫れはどのくらいか、傷の汚れ具合はどうかなど、可能であれば処置をする前に患部をよく観察します。こちらも後述しますが、どういった経緯で出来た傷なのか、どんな状況だったのかも同時に確認し、通院が必要かどうかを一次的に判断します。

年齢/発達に合わせた処置と関わり

保育園看護師として、ただ傷の処置をするだけではもったいないです。怪我を処置する際は、お子さんの年齢や発達に合わせて関わることが看護師としても保育者としても大切なことだと思っています。

たとえば、0歳児のお子さんが転んで床に軽くおでこをぶつけた場合、おそらく看護師が患部を観察するときもそのお子さんは泣いているでしょう。クーリングをしたくても拒否感が強く十分に処置できないかもしれません。

緊急度の高い怪我(出血量が多い、たんこぶがブヨブヨしている等)でなければ、まずはお子さんを安心させてあげたいです。直接抱っこしてもいいし、保育士さんの抱っこで落ち着いているならそのままでもよいです。受傷部位を観察するときも、処置するときも、安心感をもってなるべく泣かずに済む方法を意識的に選択します。

「痛かったけど、看護師に見せて処置してもらったら痛みがひいた。(不快から快に変わった)」みたいな経験を、安心感とともに積み重ねてあげたいですね。

また、5歳児のお子さんが転んでひざを擦りむいた場合、傷の処置自体は流水で洗えば済む程度なことが多いです。

大切にしたいことは、どうして転んだのか、どこが痛いのかなどを自分の言葉で伝えてもらうことです。自分の身体の不調や痛みを適切に大人に伝えることは、特に就学以降重要なスキルになっていきます。

看護師もいち保育者として、そのお子さんの個性に合わせて代弁したり推察したりしながら、言葉でのやり取りを練習させてあげましょう。

また、どうして転んだのかを自分で理解することは、身体の使い方や危機回避能力等を培っていくことにもつながります。保育園看護師として意識的にお子さんと関わることで、ただ転んだだけの1場面を様々な学びの場面に変えることができるのです。

こころのケア

「外傷がない」怪我もたくさんあります。転んだけどどこもすりむいていないとか、友達に叩かれたけど何もなっていないとか、保育園では日常茶飯事です。

傷はなくても、「痛かった」「いやだった(友達とうまくいかなかった)」「失敗した(転んだ)」など、子どもなりに色々な感情が沸き上がって泣いたり怒ったりします。お子さんによっては、そこからなかなか切り替えることができないケースも多々あります。

そんなときにこそ、保育園看護師の出番です。お子さんの気持ちが切り替わらないときは、関わる人や場所を変えることが効果的な場合も多いため、少しだけ職員室や医務室で休んで、気持ちを切り替えられるよう支援してあげたいです。

また、傷がなくても絆創膏1枚貼ってもらうだけで納得するお子さんもたくさんいます。絆創膏1枚で元気いっぱい遊べるなら、その絆創膏には心を保護する役割があるのです。

目に見える傷だけではなく、心の傷にも対応できる保育園看護師は、職員や園児からも信頼される看護師になっていけると思っています。

【応急処置】のサマリー
・保育園内で出来る処置は流水洗浄、クーリング、絆創膏保護が基本
・適切に処置、あるいは通院判断をするために傷をよく観察する
・怪我の処置をするときは園児の年齢や発達に合わせる
「こころの絆創膏」も意識して関わる

事実確認と検証


怪我が発生した際は、その状況を正確に把握する必要があります。正確な情報を集めるために、以下の流れで事実確認をしています。

  1. 職員や子どもから受傷時の状況を聞き取る

  2. 怪我の状態を観察し、聞き取りした受傷時の状況や受傷原因(モノや場所等)と傷に整合性があるかどうか確認する

  3. 状況等が不明瞭、あるいは傷と受傷時の状況等に整合性が取れない場合、受傷現場にて検証したり監視カメラ映像を確認したりする

また、事実確認が重要である理由は、以下の3つです。

  • 通院するかどうか判断するため(重症度を判断するため)

  • 保護者に正しく引き継ぐため

  • 正確な情報を記録に残すため

保育園で発生する怪我は、職員が見ていない場面で発生することもしばしばあります。この状況は現場の人手不足が要因の場合もあるし、保育者の意識やリスクマネジメントに課題がある場合ももちろんあります。

特に注意したいのは「頭部打撲/頭部外傷」

受傷時の状況が不明の場合、特に頭をぶつけている場合は要注意です。頭部をぶつけている場合、腫れや赤みがなくても、急に意識障害が出てくる可能性があります。

頭部打撲/頭部外傷の場合は、どの程度の強さでぶつけたのか、どの高さから転落したのか、どのくらいのスピードで衝突したのか等の受傷時の状況を必ず確認すべきです。

受傷時の状況が正確に確認できない場合、大事をとって通院するというリスクヘッジをとるケースもあると思います。

傷と受傷時の状況に整合性が取れない場合

また、報告された状況と傷に整合性が取れないケースも経験上よくあります。

例えば、園庭でちょっと躓いて転んだと報告があり確認すると、擦り傷はほとんどないが膝周囲に痣を発見。受傷現場の様子や受傷時の状況から逆算すると、その時に出来た痣とは考えにくい。担任によく話を聞くと、実は週末自宅で転んだときに膝を椅子に強打したと引継ぎされていた…。

上記のようなケースに遭遇することは少なくありません。

傷と報告された受傷時の状況に整合性が取れない場合は、受傷現場を確認したり、監視カメラの映像を確認したりして事実確認と検証を丁寧に行うべきです。

傷の状態によっては、通院を検討する必要もあります。もしかしたら、虐待を疑う必要があるかもしれません。

保育園看護師としては、傷と情報に違和感がないか常に意識して事実確認をしていく必要があると思います。

【事実確認と検証】のサマリー
・怪我の報告を受けたときは必ず受傷時の状況を確認する
・報告と傷に整合性が取れない場合は現場検証等をする
受傷時の状況が不明瞭な場合は通院することを検討する

通院すべき怪我かどうかの一次的な判断


怪我の応急処置と事実確認を済ませたら、通院すべきか否かについて検討します。

保育園からの通院に関しては、園や自治体によっても多少考え方に違いがありますが、「判断に迷う場合は通院」が原則だと思っています。

特に状況が不明瞭な頭部打撲骨折を疑う様子がある、顔に表皮剥離を伴うひっかき傷があるときなどは、早めに通院して検査や処置をしてもらえると安心です。

通院の判断については、1つ重要なポイントがあります。それは、最終的に通院するかどうかを判断するのは管理者(園長/主任)であるという点です。

保育園看護師として出来ることは、あくまで一次的な判断です。怪我(傷)の状態的に医師に急ぎ処置をしてもらうべきかどうか、緊急度はどうか、受診するとしたら何科か、予測される治療と経過はどんなことが考えられるかなど、園の管理者に情報提供することで判断を委ねます

保育園内唯一の医療従事者として、通院すべきかどうかは悩むことも多々ありますが、悩む場合は通院が原則です。各園のマニュアルに沿って、通院の準備をしましょう。

【通院すべき怪我かどうかの一次的な判断】のサマリー
・通院すべきか悩むケースは通院することが原則
・看護師はあくまで一次的な判断で最終的な通院の判断は管理者が行う

記録の作成


保育園における怪我の対応に関する記録は以下の2つです。

  • 保健日誌

  • 事故報告書

通院した場合は事故報告書を作成する必要がありますが、通院した怪我も含めて園内で起きた怪我はすべて保健日誌に記録します。

記録の重要性は言わずもがなですが、受傷時の記録や経過の記録は特に重要です。事故報告書に関しては監査(一般指導検査)においても必ずチェックが入ります

正しい記録をするためは、正確な情報が必要です。経過も含めて経時的に記録しておくことが望ましいと思います。

【記録の作成】のサマリー
・園内で発生した怪我は保健日誌に記録する
・通院した場合は事故報告書を作成する
・正しく記録するために正しい情報を収集する

職員講習


園児の怪我の応急処置をするのは保育園看護師だけの仕事ではありません。担任や管理者などが処置する場合も多々あります。

園内の怪我の対応として特に重要なことは、保育士さんや管理者も看護師と同じように応急処置をする必要があるということです。

業務を平準化するためには、マニュアル化することが必要でしょう。怪我の対応も同様で、怪我別の対応表を作成しておくと便利です。

適切な応急処置をするためには練習と勉強が必要です。職員講習という形で看護師が怪我の対応をレクチャーしたり、マニュアルを解説したりする機会を設定できるとよいと思います。

日々忙しい中で職員講習をする時間を確保できない園も多いと思います。緊急時対応(心肺蘇生や窒息解除)の講習と比べると、怪我の対応に関する講習はやや優先度が低めかもしれませんが、年に1回はブラッシュアップを兼ねて実施したいテーマですし、特に新入職員には必ず伝えたいテーマです。

【職員講習】のサマリー
・看護師以外の職員も同様に怪我の対応が出来るようにしたい
・怪我別対応表等のマニュアルがあると便利
・年に1回は職員講習として伝えたい

自己研鑽/外部研修


日々怪我の対応をするだけでは、重大な怪我への対応が身につかなかったり、意識が及ばなかったりするかもしれません。

園内唯一の医療従事者として、また職員講習をする講師として、保育園看護師は自分自身の知識や技術をブラッシュアップさせていく必要があります。

応急処置(ファーストエイド)に関する外部研修は数多くありますが、保育園向けに内容が絞られている研修は少ない印象があります。

書籍等で自己学習することも重要ですが、ライセンス更新を兼ねて1~2年に一回は外部研修に参加し、応急処置等(心肺蘇生や窒息解除も含めて)の練習に励みたいです。

私がこれまで参加したことのある研修を参考までにご紹介します。機会があれば是非受講してみて下さい!

【自己研鑽/外部研修】
・医療従事者として知識と技術のブラッシュアップが必要
・外部研修を受講することで研鑽を深めていくことも重要

まとめ


保育園看護師が日々こなしている怪我の対応について、私見を交えつつ解説してみました。

実際の傷の処置については、書籍や研修等で学ぶことができます。手始めに、看護学生時代の教科書を引っ張り出して「創傷治癒」に関するところを読んでみることもおススメです。

個人的には、看護師がいち保育者として意識的に子どもたちと関わる姿勢がとても大切だと思っています。そして、常に余裕をもってこころの絆創膏を貼ってあげられる看護師でありたいとも思っています。

次回は、保護者対応に関することや、事故防止対策と課題についてを解説していきます!最後まで読んでくださりありがとうございました!



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