新聞配達
薄暗いのに明るい
午前4時半
子どもの長靴じゃ、拉致があかないほど積もった雪
それでも凍って簡単にあかない引き戸を無理やりこじ開ける 雪が なだれ込む
さぁ 行くぞ
静かな世界 耳が優しい手で 覆われたような 音の こもった世界
雪を掻き分けながら 吐く息が白すぎて
ちょっと泣きたくなりながら
おはようございます 新聞です!
誰も聞いてないのに 元気に
そう言ってから
新聞を ポストに入れる
これは 祖母の教えだ
薪ストーブ 炭コタツの匂い 昨夜の残り香
まだ 薄暗い
午前5時前
除雪されていない道を ひたすら歩く
坂の上の家
犬が吠える
怖いから 急いでポストに走る
怖いから ポストに入れられないこともある ベンチに置いて行こうとすると
牛小屋から 顔を出し
大丈夫だよ と言うおじさん
午前5時15分除雪車はまだ
でも 小道はある
ある日 大丈夫だよ のおじさんの家に白黒の幕があって 車もたくさんとまっていた
小道は なくなり
雪がのっそり つもった
駆け抜けた
おじさんが小道の 雪かきしてたんだと
初めて知った
だから
駆け抜けた
死んだんだ
おじさん
雪かきしてくれてたんだ
ありがとう おじさん
死んじゃったけど
ありがとうございました
心から思った