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年収の壁。問題は年収にあらず


はじめに

こんにちは。本物の税理士の安藤です。昨今、年収の壁という言葉をより耳にします。そして、日本経済新聞によると、国民民主党は年内からの見直しを提唱しているそうです。一税理士として、これから入る本格的な繁忙期の中、万が一急な見直しがきまった場合、どのように対応していくか、戦々恐々としています。

年収の壁とは

「年収の壁」とは税金や保険料の負担が増えないように労働時間を抑えてしまう制度上の問題を指します。

年収の壁のうち、103万円の壁の改定を国民民主党が求めています。103万円の壁は所得税に関するものです。

103万円の壁

そもそもの所得税の仕組み

所得税は課税所得金額(左下の赤枠 H)に一定の税率を乗じて計算します。仮に課税所得金額が0であれば、0×税率なので、納税額0になります。

【課税所得金額(H)】は【合計所得金額(E)】から【基礎控除(F)48万円】と【所得控除(G)(生命保険料控除など)】を差し引いた金額をいいます。

つまり【合計所得金額(E)】が48万円以下であれば、基本的には税額0円になります。

ところで、【合計所得金額(E)】とは、事業活動で得た儲け、不動産賃貸で得た儲け、給与を得た儲けなど合計したものをいいます。
事業活動で得た儲けは
【事業所得】=【事業売上】-【事業に要した経費】
不動産賃貸で得た儲けは
【不動産所得】=【不動産収入】ー【不動産収入を得るために要した経費】
を指します。

そして給与収入がある方は、実費の経費に代わり、概算で一定の金額を経費とみなすことになります。この概算で計算した一定の金額を【給与所得控除(D)】といいます。
つまり給与で得た儲けは
【給与収入55万(C)】ー【給与所得控除55万(D)】で計算され、
これを【給与所得(E)】といいます。

【給与所得控除(D)】はどんなに給料収入が少なくとも、年間最低55万分認められます。仮に年間の給与が55万であれば、年間の給与所得は0
【給与収入(C)55万】ー【給与所得控除(D)最低55万】となります。

本人の手取りに影響する103万の壁

給与収入が103万円の場合
【給与収入(C)103万】ー【給与所得控除(D)55万】=【給与所得(E)48万】
【給与所得(E)48万】ー【基礎控除額(F)48万】=【課税所得金額(H)0】
納付額は【課税所得金額(H)0】に税率を乗じても納付額は0になります。
本人の収入が104万の場合、
本人の所得税は、1万円に5%の税率を乗じた500円に対し、所得税がかかります。

扶養している人(親・配偶者等)に影響する103万の壁

実際は、ご本人の手取り額の問題よりも、親・配偶者等その本人を扶養している人の税額に大きな影響を与えます。それは【所得控除(G)】に影響を与えるからです。【所得控除(G)】の中に配偶者控除や扶養控除というものがあります。扶養している親・配偶者は、扶養されている者(本人)の【合計所得金額(E)48万】以下であれば、配偶者や一般的な扶養控除ば38万、特定扶養親族に対する扶養控除であれば63万円を【所得控除(G)】として計上できます。

(A)具体例(給与収入が300万円)で特定扶養親族がいる場合
【給与収入(C)300万】ー【給与所得控除(D)98万】=【給与所得(E)202万】
【給与所得(E)202万】ー【所得控除(G)扶養控除63万】ー【基礎控除額(F)48万】=【課税所得金額(H)91万】
税額は【課税所得金額(H)91万】×5%=45,500円

(B)具体例(給与収入が300万円)で扶養がない場合
【給与収入(C)300万】ー【給与所得控除(D)98万】=【給与所得(E)202万】
【給与所得(E)202万】ー【基礎控除額(F)48万】=【課税所得金額(H)154万】
税額は【課税所得金額(H)154万】×5%=77,000円

(C)差額
上記の具体例ですと、(A)ー(B)=31,500円となります。

扶養している両親などの収入が大きければ大きいほど、扶養控除・配偶者控除の有り無しで大きな税額差が生じます。

130万円の壁

年収が130万円を超えると、社会保険上扶養から外れ、国民年金及び国民健康保険料(税)に加入することになります。給与から社会保険料を天引きされることはありませんが、自己負担が発生します。
なおこの場合の年収は、社会保険と税制でとらえ方が異なり、通勤費など所得税上非課税になるものも含まれます。

年収の壁をどう代える?

基礎控除の金額を改定した場合
【基礎控除額(F)48万】を改定した場合、給与所得金額には影響を与えません。したがって、基礎控除を引き上げた場合、本人の税額負担額は軽減されますが、扶養をしている方(父母や配偶者)は扶養控除、配偶者控除の適用を受けることができず、税額負担額は軽減されません。

基礎控除とはそもそも最低生活費を保障するためのものであると考えられています。
仮に生活保護を受ける場合、一人世帯の月額支給額は7万円程度で、年間換算すると84マ万円分程度の保障が受けられているのにもかかわらず、税金面では48万円までが最低生活費の保障だといわれると、とても不思議に思えます。

給与所得控除の金額を改定した場合
【給与所得控除(D)55万】を改定した場合、本人の税額影響のみならず、扶養している側も、扶養控除・配偶者控除の適用を受けることもできます。一方で例えばデリバリーサービスをしている個人事業主等は給与として収入を得ているわけでありませんから、恩恵をうけることができません。

個人的な意見

そもそも税務上の【基礎控除額(F)48万】は、最低生活費を保障するために設けられたものです。

憲法25条の生存権すなわち「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する水準が担税力の有無を判断する基準と・・・であろう。このため、所得税の負担のあり方を考えるに当たっては、最低限度の生活を維持するために必要な部分(以下「最低生活費」という。)を除いた残余に対して課されるべき。

所得控除の今日的意義(要約)

一方同様に最低生活を保障する生活保護で支給される金額は、一人世帯ですと7万円程度は支給され、年額84万円になるようです。
働いている人の基礎控除は48万円で最低生活を保障しているといわれると、あまりにも理不尽な制度のように思えます。
基礎控除の改定はしつつ、給与所得控除の調整も必要かと思います。
一方でいわゆる106万円の壁や、勤務時間による社保加入義務など別の問題もあります。現在インフレで時給があがっており、103万円の壁を撤廃すれば、大学生等が働きやすくなるのか?といわれると103万円の壁以外にも問題があり、根本的な改革が行われるべきだと思います。(106万円の壁は撤廃の方向で動いているそうですが、)。





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