JR松山駅前開発計画のその後とわたしのささやかな要望

さて、JR松山駅前開発計画(車両基地跡地広域交流拠点施設基本計画の文化拠点の件、その後、有志団体(NPO法人シアターネットワークえひめ、NPO法人クオリティアンドコミュニケーションオブアーツ、マネキネマの三団体によるもの、県内外の演劇・舞台芸術関係の35団体によるもの)が松山市に要望書を提出するなど、市民サイドのいくつかの動きがあることはご承知のとおりです。これら要望書の内容については、歩く文化情報発信塔の奏さんのnoteにまとまっていますのでそちらをご覧ください。

これらの市民サイドのアクションを起動させたのは、本計画(車両基地跡地広域交流拠点施設基本計画)の策定業務委託の公募プロポーザルが行われたからですが、先ごろこの選考結果が出まして、日本経済研究所とシアターワークショップの共同事業体が受託することに決定しました。全国の様々な公共ホール等の計画を手掛けるシアターワークショップが本計画に関わるということは、いくらかよかったなという感想を持ちます。様々な市民参画型の文化施設の運営計画に関わってきたシアターワークショップさんには、先にご紹介した2つの要望書に是非目を通していただきたいものです。特に2つの要望書で共通している点、ひとつは、さまざまな立場の市民を運営計画に参画させること、もうひとつは、第二期松山市文化芸術振興計画を踏まえること、この2点に留意してほしいと切に願います。

市民サイドの動きとしては、要望書の提出に関わったひとたちの間で、本計画についての勉強会が始まったそうです。ひとつ、わたしが気がかりなことがあります。それは、最新の7月1日発行のシアターねこしんぶんにおいてNPO法人クオリティアンドコミュニケーションオブアーツ理事長の徳永高志さんも指摘していたことですが、ホール、施設の席数など物理的規模の議論に焦点が絞られはしないか、ということです。これは本計画の仕様書にも具体的席数が明記されているため、残念ながら実際は避けがたい点かもしれませんが。

例えば、演劇関係者が中心となった要望書では、100席程度の劇場の設置を求めています。これは8月いっぱいで閉館となるシアターねこの代替劇場を求めているという点で理解できます。しかし、物理的なスペースが新しい文化拠点に設置されるだけではシアターねこの代替になるはずもありませんし、なによりも創造的な場になるはずもありません。

ある程度の用途の定まった物理的な設備、場所を要望することは大切なことですが、運営等のソフト面の議論を後退させることにならないか心配です。というのは、愛媛県、松山市においては、文化施設における専門的人材の登用や創造的かつ市民参画による自主事業についての議論というか視点は皆無に等しいからです。文化施設は貸館と興業を行うハコであるという認識が定着しています。昨今の積極的な公立文化施設の活用の議論からは完全に蚊帳の外にあるこの環境下においては、客席数や用途を特定した設備の議論が先行していくことは容易に予想されます。ですからそうしないためにも、第二期松山市文化芸術振興計画を踏まえていくことはとても大切なわけです。

また、演劇・舞台芸術関係者が声を挙げることもとても意義のあることなのですが、より広範な間口を設定して様々な市民と共に働きかけることができるかが肝要です。この計画は「広域交流拠点」の計画です。そしてJR松山駅前のバスターミナル広場計画と同期するものです。こうしたことを踏まえると、まちづくりなどにおいてクリエイティブで自由なアイディアを持ち様々な実践をしているひとたちが松山にはたくさんいますので、その界隈のひとたちとの連携によって、より広いムーブメントにしていくことができるかもしれません。あるいは、ティーンエージャーを支援しているような団体のひとたち、こども食堂などをしているひとたち、障害者アートに関わるひとたちなど、芸術文化界隈の外側やキワにいるひとたちを巻き込んでいけるともっとよいのですけど。

劇場、美術館、博物館、図書館なんでもよいのですが、文化拠点がなくたって一向に問題がなく、幸せに生きていけるひとたちがいます。一方で、絶対になくては困るというひとたちもいます。あるいは、自分にとって必要だけれども、経済的、身体的、文化的、言語的等々、さまざまな問題が要因となって文化拠点から遠ざけられてしまっているひとたちもいます。そういうひとりひとりみんなを、たったひとりで想像するということはとても難しいことです。でも、難しいけれども、精一杯想像しながら、なおかつ、そうしたいろいろな立場にあるひと自身が、この計画や運営の構想に関われるようにしていくことは、市民サイドのいまの動きの中ではできるかもしれません。
(追記:ですから様々な市民の参画ということは、演劇、音楽、美術などの各々分野の関係者を担保することだけではないということだと考えます)

そしてこれから具体的に進む行政サイドの計画進行においては、松山市はシアターワークショップの知見と人脈を活用しながら文化政策とアートマネジメントに携わり最新の動向に精通したひと、領域横断的に社会的課題に取り組んでいるひと等を中心にして、運営の構想を作っていくプロセスを進めていってほしいです(ちなみに東京のある自治体の2027年開館予定のホール計画では、わたしをはじめ5人の専門家が2022年から自治体の参与として運営計画の構想と開館前の機運醸成事業に関わっています。四国では香川県丸亀市の新ホールも計画段階から時間をかけて周到に構想を作っていることもよく知られています)。

松山市は「広場」を作るんですよね?「交流拠点」を作るんですよね?プロモーターや声の大きい人ばかりに耳を傾けないでほしいです。



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