見出し画像

【GPS】×【探偵】×【不倫】終了のお知らせ。「共有物なら無断でGPSをつけても違法ではない」はデマ!と論破できるたった1つの根拠

「夫婦の共有財産ならセーフ」←そうなんですか??

 浮気や不貞を探るためにGPS機器を無断で設置し無承諾で位置情報・移動履歴を取得する手法が実に気軽に、安易に使われています。使われる理由の第一が【劇的に効果があるから】なのは間違いないでしょう。最近のGPS機器は高性能なのでほぼ数メートル単位の誤差で位置情報が分かります。「数メートルなら誤差として大きいじゃないか」と思われますが、自動車は基本的に公道を走り駐車場に駐まっているのですから全長数メートルある自動車に設置する場合の「数メートル」ならほぼ誤差の範囲内です。位置の特定に何の支障も生じません。バッテリー容量も余裕で充電頻度も少なくてすみます。小型・軽量・マグネット接着で簡単に取り付けできます。
 しかしだからこそGPS調査は網羅的に位置情報・移動履歴の取得ができるためプライバシー侵害にあたり違法、という各種判示についてはこれまでの記事で解説してきた通りです。

 例え違法であっても藁をも掴む気持ちで夫の(妻の・恋人やパートナーの)不貞行為を暴きたいという思いからGPS調査はかなり使われてきました。これは事実です。ただプロである探偵業者が「楽をしたいから」「人件費を抑えたい」とGPS機器を使うのは到底容認できません。「違法行為をやっても結果が出せるならそれでいい」と金を稼ぐならもはや反社会的な存在でありプロならプロらしく矜恃を見せてほしいところです。
 ところが探偵業者が使っているであろうセールストークで、本来違法で避けるべきGPS調査について使用のハードルを下げているのが「共有物であればGPSを取り付けても問題ない」「夫婦の共有財産ならセーフ」というもので、これが無責任にネット上で流布されているのが現状です。

例えば探偵業者のサイトにはこうありました。


夫婦で共有している財産にGPSを取り付ける場合は、法律的には問題ありません。
共有ということは「半分は自分の持ち物」でもあるため、自分の持ち物に発信機を取り付けても問題がないという解釈となります。
車は夫婦で共有しているケースが多いため、GPSを取り付けても法律的にはセーフです。
同じ理由で同居している夫婦が家に盗聴器などを仕掛けても違法とはなりません。

https://fujiresearch.jp/topics/flirt-investigation-car/

 別のサイトでもこうです。

夫婦間の場合は共有財産に限って許可を取らなくてもGPSを取り付けることができます。

基本的には婚姻後に築いた財産は共有財産とされ、名義は関係ありません。
夫婦どちらの財産なのか判断が難しい場合は共有財産にするとされているので、結婚後に購入した車やカバンなどであれば無断でGPSを取り付けても違法にはなりません。

https://greenfestivals.org/1097/

 ここまで言い切ってるのであれば「素人質問で恐縮ですが」と質問して教えを請いたい内容ですが、こういう考えが披瀝されているのは探偵業者のサイトだけではありません。
 こちらのサイトは弁護士を名乗っているのですが見てみましょう

 いきなり不安になってしまう回答です。が、他の弁護士ブログを見ても意外とこういうスタンスの回答・解説が多いのです。続きを見てみましょう。

 やはりここでも「共有財産ならセーフ」共有財産性から即セーフに至るという謎理論が展開されています。なおこのサイト、弁護士を名乗っているのですが運営者情報をみても誰が運営しているのかよく分かりません。

 なので弁護士を名乗っていても弁護士の回答でない可能性はあります。どちらの運営者が運営なさってるのでしょうか?

 話を戻しますが、間違った情報が流布されることで「気軽にGPS機器を使ってもいい」という風潮が作られている現状は非常に問題です。こういう投稿をして風潮を作ってきた当の探偵業者やGPSレンタル業者が、同様の言説がネット上のあちこちに投稿されているのを見てますます「夫婦×共有なら同意無きGPS機器は全く問題ない」と信じ込んでしまっているいわゆるエコーチェンバーに陥っているんじゃないかな?という気がします。
 そこで本稿では共有物とGPS機器の設置について解説します。

単独所有と共有

 所有権は法令の制限内で自由にその所有物の使用、収益および処分をする権利をいいます。 物を全面的に排他的に支配する権利であり物に対する絶対的な支配権です。物を使うことも壊すことも捨てる・売ることも所有権者の自由です。自分の物にGPS機器を設置するのも所有権者だから自由にできるのです。
 そう、「単独所有」(つまり一つの物の所有権を持っているのが自分一人)なら完全に自由です。誰の同意も要りません。

 これに対して「共有」というのは一つの物の所有権を同時に複数人で持っている状態です。一つの物の所有権を複数人で持っていながら各人が単独所有と同様に振る舞えば当然共有者間で支障や利害摩擦が生じる場面が出てきます。従って共有は単独所有と同じではありません。共有者の権利は完全なものではなく互いに一部が制限された状態になっています。つまり単独所有なら所有者が自由にGPS機器を設置できるとしても、共有では当然に他の共有者に無断で共有物に対してGPS機器を設置できることにはならないのです。先ほど紹介した探偵業者のサイトで「共有ということは『半分は自分の持ち物』でもあるため、自分の持ち物に発信機を取り付けても問題がない」「車は夫婦で共有しているケースが多いため、GPSを取り付けても法律的にはセーフ」とありましたが、共有財産ならセーフとか共有だからセーフということはありません。共有は「半分は自分の持ち物」だとしても裏を返せば「半分は他人の持ち物」なので単純にセーフではないのです。

共有権者が単独でできる行為・できない行為

 共有者の権利は互いに一部が制限された状態になっており、単独所有なら一人でできたことも共有ではできない行為、言い換えれば共有にて行うには一定の要件が必要な行為があります。行為態様ごとに使用行為、保存行為、管理行為、変更行為と分類されています。

❶使用行為

1.各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
2. 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
3. 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。

民法249条

❷保存行為・❸管理行為

1.共有物の管理に関する事項(次条第1項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第1項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。) は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
(中略)
5.各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる

民法252条

 保存行為は(使用行為と同様に)各共有者が単独で行うことができます(民法252条5項)。 保存行為とは、共有物の現状を維持するための次のような行為をいいます。例を挙げると
 ① 共有物の修繕行為
 ② 不法占有者に対する妨害排除請求又は返還請求(妨害排除請求につき、大判大正10.7.18、返還請求につき、大判大正10.6.13)
 ③ 共有物について単独で不法な登記名義を有する第三者に対する登記の抹消請求(最判昭和31.5.10)
 ④ 他の共有者の持分について不法な登記名義を有する第三者に対する登記の抹消請求(最判平成15.7.11)
 などが保存行為にあたります。保存行為は現状の共有物の価値を維持する行為で他の共有者にとっても利益になること、現状を維持する限りにおいては他の共有者と利害対立する場面も少ないこと、他の共有者の同意や承諾をとっていては機を逸して不利益が生じうるため各人が単独でできるとされています。

 他方で管理行為とは、共有物の変更に至らない程度の利用・改良行為(物または権利の性質を変えない範囲で、その価値を増加させる行為)をいいます(民法252条1項)。例を挙げると
 ① 共有建物の改装(改造に至らない程度の工事)
 ② 共有宅地の整地
 ③ 共有物の使用貸借契約の解除(最判昭和29.3.12)
 ④ 共有物の賃貸借契約の解除(最判昭和39.2.25)
 ⑤家屋に造作をつける(例えばエアコン設置)
 などであり、民法103条(権限の定めのない代理人の権限)とパラレルな規定になってます。

権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
1 保存行為
2 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

民法103条

 単純に他の共有者にとってメリットだけがあるとは言いがたい場面では共有者間に利害衝突がありえるため、要件が厳しく持分価格の過半数で行えるとされています(なおこのほかに変更行為があり、この場合は利害衝突が重大なため共有者全員の同意が必要になりますがここで話題にしている「共有財産たる自動車にGPS機器を設置する行為」の解説としては枠外(変更行為までは該当しないだろうし、仮に該当するとしたら共有者全員の同意が必要なので無断設置は当然NG)なので割愛します。

 管理行為は持分価格の過半数の同意で行うことができるのですが、重要なのが「過半数」という点です。2人で共有し等分(50:50)の場合、どちらか一方だけなら「半数」に留まり「過半数」にはなりません。つまり管理行為はできません。
 なお共有の共有持分は2人なら2分の1、3人なら3分の1に自動的に決まるわけではなく自由に決められる(例えば1:99も可能)のですが、定めがないとか不明の場合は等分と推定されます。

各共有者の持分は、相等しいものと推定する

民法250条

「自動車にGPS機器を設置する行為」はいずれに該当するのか?

 それでは「自動車にGPS機器を設置する行為」は【使用】・【保存】・【管理】そして共有者全員の同意を要する【変更】のいずれに該当するのか?です。
 自動車は高速で遠距離まで移動できる機能を有する移動手段です。つまり常時そこに定着しているわけでなく移動を前提とした道具です。そして通常自動車には外部から当該車両の現在位置情報・移動履歴を取得できる機能はありません。地蔵のように動かないなら現在位置情報・移動履歴は無意味ですが、移動手段である自動車にこれらの情報を外部から取得できる機能がついたらかなり便利ですよね?例えば人気車種を狙った自動車盗難が後を絶ちませんがGPS機器を設置しておけば仮に盗難に遭っても警察に即座に位置情報を通報することで犯人検挙や被害品返還が叶うかもしれません。そしてGPS機器を設置すればこれが可能になります(現に大手警備会社がこのようなサービスを提供しています)。

 つまり自動車に位置情報・移動履歴の取得を外部から可能とする機能が付与されることで新たなメリット(いつでもどこでもリアルタイムで自動車がどこにいるのかが分かる)を獲得するわけですから、移動手段としての自動車の性質を変えない範囲でその価値を増加させる行為であって改良行為として【管理】に該当すると解釈するのが妥当ではないでしょうか。

 そして改良行為である【管理】には共有持分価格の過半数の同意が必要です。自動車が夫婦の共有財産であったとしても持分価格が50:50であれば夫婦どちらの一方であっても相手の同意がなければ半数に留まり「過半数の同意」は得られませんから、相手に説明なく無断でGPS機器を設置することは民法252条1項に反し相手の所有権(他の共有権者の共有持分権)を侵害することになり違法です
 これが本稿の結論です。

 なお【使用】あるいは【保存】該当性については
 ❶マグネット接着式でGPS機器を一時的に設置する行為は使用行為ではないんですか?→使用行為か否かの判断は共有対象たる自動車が基準になるはずです。つまり「GPS機器を設置する」ことが自動車の使用行為にはあたりようがないでしょう。
 ❷マグネット接着式でGPS機器を一時的に設置する行為は保存行為ではないんですか?→自動車盗が多発しており、最近もすぐ近隣で自動車盗難が発生した、盗まれた自動車と同じ車種を持っているなどの事情があれば発生した盗難の被害回復目的ともいえなくもないですが、それですら保存行為と言えるのか(≠盗難を抑止し被害発生を予防する目的ではない)は微妙でしょう。ましてや不貞行為の調査目的にGPS機器を設置することのどこが当該自動車の現状を維持する行為なのでしょうか。

 夫婦二人の共有は「半分は自分の持ち物」であると同時に「半分は他人の持ち物」なのです。自分だけの勝手や思い通りにはできません。誰にでも分かる当たり前ですね。



いいなと思ったら応援しよう!