進次郎が総裁出馬宣言で言わなかったこと
自民党総裁選に超本命の小泉進次郎衆議院議員が立候補を宣言した。
出馬記者会見では、選択的夫婦別姓や解雇規制の導入などを唱え、改革の実行を宣言した。
記者会見の場では、フリージャーナリストから「進次郎氏の知的レベル」を問うというきわどい質問が飛び出すなど、ネットを中心に大いに盛り上がっていた。そしてメディアやネットの反応は概ね好評のようだ。
一番重要な問題をスルー
しかし実は、この記者会見では、日本の一番重要な問題が敢えてスルーされている。
それは、年金と高齢者の医療費や介護など社会保障負担に関する問題だ。
年金と社会保障は、一般会計予算の実質的に半分弱を占める、下手をすると日本の運命を左右しかねない大問題だ。その大問題への言及が皆無なのだ。
総裁選の対抗馬である河野太郎が老人医療費の負担増など社会保障改革に言及しているのと対照的だ。安倍派の若手の支持を受けているといわれる、コバ・ホークこと小林鷹之さえも”第三の道”という意味不明な表現ながら一応言及している。
さらに驚くべきことに、出馬宣言後の記者の質問でも、進次郎候補の社会保障改革へのスタンスを問う質問は出なかった。
少子化対策もスルー
社会保障改革とセットになっている”少子化対策”もスルーした。少子化対策には、子ども家庭庁が創設され、6兆円近い予算の投入が決まっている。社会保障関連予算の約34兆円と合わせると40兆円近くになる。しかも、その財源として現役世代の健康保険から(ほとんど詐欺に近い)超法規的な資金流用が行われることが決まっている。巨額の予算が使われる、我が国の未来の運命を握ると思われるこの超重要課題に対しても、記者会見で一切言及がなかった。
アベノミクスに関してもスルー
さらに今まさに日銀が利上げに動いている「アベノミクスの後始末」についても言及が一切なかった。そして記者からの質問も全くなかった。
2023年初めから始まった日銀による「黒田バズーカからの撤退作戦」では、8月初旬に株価が一時暴落するなど難しい舵取りが続いている。
また金利正常化の取り扱いを少しでも誤ると、国債の暴落を招き、ひいては「財政破綻」を惹起しかねない最重要課題だ。
この問題に全く言及がなかったことには驚きを隠せない。
もし進次郎が総理になったら
進次郎の出馬宣言で言及されたことは以下の通りだが、その内容は不明確だ。そして更に驚くべきことに、重要な点を質問する記者も皆無だった。
政治資金改革
出馬宣言で真っ先に言及したのが、政治と金の問題だ。パーティー券裏金還流問題に対しては、政策活動費の廃止と旧文通費の使途公開と残金返納を明言した。
しかし裏金問題の本丸である「政治資金パーティの廃止」についていは一切言及しなかった。また記者の誰も質問しなかった。
またパー券裏金議員の公認など処分に関しても、選挙での禊が済むまでは要職に登用しないと明言したが、裏金議員の選挙での公認問題に関しては「厳正に対処」など抽象的な表現に留まり、明言を避けた。
仮に総裁に就任し、総選挙を行う場合には、パー券裏金議員の”公認”問題が、小泉政権のある種の踏み絵になる可能性がある。
この踏み絵とも言える問題には、前例がある。それは父親の小泉政権の後を継いだ第一次安倍政権だ。安倍首相は、総理に就任すると直ぐに、郵政民営化問題で”抵抗勢力”とされ自民党を追い出された議員たちの復党を直ぐに認めてしまった。この郵政抵抗勢力議員の復党問題が、第一次安倍政権の躓きの始まりだった。パー券裏金議員の後任問題が、小泉進次郎総裁の鬼門になるかもしれない。
解雇規制の導入
解雇規制に関しては、新自由主義的政策を好むネットやSNSのインフルエンサーなどを中心に支持を表明する声が多い。
しかし「金銭解雇を導入するのか?」との記者からの質問に対しては、明言を避けた。また中小企業でも導入するかどうかに関しても言葉を濁した。
記者からの質問に回答した内容は、主に大企業が従業員を解雇する際に、従来からの解雇規制の最高裁判例を覆して、リスキリングや再就職斡旋することで解雇可能とするとのことだ。
つまり進次郎が言っている「解雇規制の緩和」とは、”大企業限定”で、”リスキリング支援”と”再就職支援”を形だけ行えば、退職金の割り増しなどなしに従業員を解雇できるという意味にとれる。
一方で、金銭解雇に関しては、割増退職金などの資金負担増などを理由に中小企業を対象とするか言葉を濁している。
果たして、これが長年で議論されてきた「金銭解雇を可能とした解雇規制」にあたるのか疑問が残る。解雇規制とは名ばかりのものではないだろうか?
年収の壁の撤廃
専業主婦の年収の壁撤廃とパート労働者の厚生年金加入に言及していた。つまり扶養の範囲内で働く専業主婦にも厚生年金の加入を義務付けると取れる。
しかしそうなると問題になる、現行、保険料を払わずにタダで年金が受け取れる”第三号被保険者”をどうするのかの言及が一切なかった。
そして驚くべきことに、この点を質問する記者も一人もいなかった。
この問題に関しては、公明党の婦人部など専業主婦の権利擁護に敏感な有権者を中心に、総選挙の際には大きな争点になるかもしれない。
これも下手をすると進次郎効果を半減させかねない”地雷”になり得る。
憲法改正
国民投票を実施したうえで、憲法を改正し、自衛隊を憲法に明記するとしている。党内の保守派に配慮した内容だろうが、実際に国民投票となった時に、どれぐらいの国民が自衛隊の憲法への明記を支持するかは不透明だ。
安全保障に関しては、多くの国民が台湾有事を巡る集団安全保障や尖閣諸島を巡る問題などへの対中強硬論を支持しているとされている。
しかし一方で、自衛隊、特に台湾有事の際に最も当事者となる可能性の高い海上自衛隊への志願者が、ここ数年で激減してもいる。直近では、募集に対する充足率は50%程度だ。
自分に直接関係ないところでは、対中強硬策に賛成している国民も、いざ自分の足元まで戦争の可能性が迫っていると認識した時に、本当に憲法改正を支持するかは、やってみないと分からないだろう。実は危険な賭けかもしれない。
選択的夫婦別姓
出馬の記者会見で、ある意味最も熱心に言及したのが、この「選択的夫婦別姓」に関する問題だ。
確かに保守派を中心に抵抗の強い政策だが、国民世論に関しては7割以上が実は賛成している。世論という観点からみれば、実は一番政治的対立が少ない問題だろう。
進次郎は、この”選択的夫婦別姓”に賛成することで、”進歩派””改革者”のイメージ定着を狙っているのかもしれない。
まとめ
満を持して自民党総裁選へ出馬を宣言した小泉進次郎だが、改めて会見内容を見直してみると、最重要課題が見事にスルーされていることが分かる。
爽やかに、そして言語明瞭に総裁選への立候補を表明した割には、実は言及されないでスルーされた項目が非常に多い。
そして驚くべきことにNHKや朝日新聞、日経など大手メディアの記者の誰一人として、これらの重要問題に関する質問をしなかった。
今後の総裁選で、この「スルーされた問題」が、メディアやSNSで、どれくらい掘り出されるかに注目したい。
PS.また誤字脱字
この満を持して自民党総裁選の出馬会見の全文が特設HPに掲載されている。実はこの”宣言文”において、”二刀流”と記すべき部分が”二投流”と誤って記されていたそうだ(既に修正済み)。
一世一代の記者会見の宣言文に簡単な誤字脱字があるとは、「やはり小泉進次郎」は、期待を裏切らない。
誤字のある宣言文が掲載されていたHP(既に修正済み)
誤字を発見したYoutube「一月万冊」