見出し画像

新型コロナウイルスと兵庫県知事選:SNS時代の選挙の変容


2024年11月17日に投開票が行われた兵庫県知事選挙は、事前の予測を覆し、斎藤元彦元知事が当選する結果となりました。この選挙において注目されたのは、SNS上での情報拡散が結果に大きな影響を及ぼした点です。
実は、今回のSNSでの情報拡散の仕組みと新型コロナウイルスの感染拡大とは同じメカニズムが働いていると思われます。


SNSとウイルス:似通った拡散メカニズム

SNS上での情報拡散は、ウイルス感染と同様に指数関数的な増加を見せます。

指数関数的増加

新型コロナウィルスの感染者も最初は数人だったものが、次の週には数百人、その次の週には数万人と爆発的に増える現象を覚えているかもしれません。
これは一人の感染者から「ネズミ算式」に感染者が増えていくためです。これと同じ現象がSNS上でも、しばしば発生します。
例えば、斎藤元知事を支持する情報も当初は一部のユーザー間で共有されていただけでしたが、短期間で広範囲に拡散しました。
この現象は「カスケード効果」と呼ばれ、SNSやインターネット特有のものです。カスケード効果では、情報が次々と他者に共有され、あっという間に膨大な数に達します。

スーパー・スプレッダー

新型コロナウイルスの感染では、一部の感染者が例外的に多数に感染を広げる「スーパー・スプレッダー」の存在が注目されました。たとえば話題になった歌舞伎町のホストなどです。
同じくSNSでは影響力のある人物や組織が情報の拡散を加速させます。今回の選挙では、NHK党(旧称N国党)の立花孝志氏がこの役割を果たしました。
立花氏の参加により、多くの切り抜き動画やライブ配信がSNSに溢れ、視聴回数やフォロワーの獲得を目指すインフルエンサーたちが一層情報を広げました。

キャズム

通常の情報はSNSでは多数の投稿に埋没してしまい拡散は起きません。
しかし一度、ある閾値を超えると情報が指数関数的に拡散し始めます。この閾値のことをマーケティングでは昔から「キャズム」と呼んでいました。
このキャズムを超えるために重要な役割を果たすのが「スーパー・スプレッダー」です。


なぜSNSで情報が広がるのか?

SNS上で情報がカスケード効果を引き起こす理由は、以下の要因によります:

  1. 視覚的・感情的な訴求力
    SNSの投稿や動画は感情を動かしやすい内容が多く、再共有される確率が高まります。

  2. 収益化のインセンティブ
    YouTuberやインフルエンサーが視聴回数を伸ばすため、トレンドとなる情報を拡散します。今回の選挙でも政策やイデオロギーに関係なく、再生回数や広告収益が重要な動機となりました。

  3. アルゴリズムの影響
    SNSのアルゴリズムが拡散性の高いコンテンツを優先して表示するため、情報の伝播がさらに促進されます。


SNSへの対抗策

ではSNSによる情報拡散に効果的な対抗策はあるでしょうか?それもウィルスを参考に出来ます。

変異株の投入

新型コロナの感染拡大でも変異株が次々に登場して、既存のウィルス株を駆逐していきました。
SNS時代の選挙でも同じような方法で対抗可能だと思われます。
SNSに対してより過激な、または全く方向性の異なる情報を流布することで、情報操作が可能になるかも知れません。

インフルエンサーの確保

仮に選挙でSNSを活用する場合んは、スーパー・スプレッダーとなるインフルエンサーが必要です。今回の兵庫知事選では、N国党の立花氏が自発的に、このスーパー・スプレッダー役を果たしましたが、事前にインフルエンサーを確保し、情報拡散力を確保・維持することが必要かもしれません。

Aiの活用

さらに近い将来、Aiを活用したSNS操作システムが登場するでしょう。数百どころか数百万のアカウントをAiボットが操り、共通のハッシュタグやフォローなどでSNSのアルゴリズムをハックする手法です。
また、そう遠くない将来に、Aiが自動で動画を作成しSNSに投稿するシステムも登場するでしょう。
そうなると数百どころか数百万の真贋不明の動画が、SNS上に溢れることになるでしょう。

SNS時代の選挙と課題

SNSを活用した選挙戦術は、言論の自由が憲法で保護されている限り、排除するのが困難です。これにはいくつかの課題が伴います。

  • 情報の信頼性
    情報があまりに拡散されると、真実とフェイクニュースの区別がつきにくくなります。

  • AIを活用した世論操作の可能性
    将来的にはAIによる選挙戦術が登場し、数百から数百万ものSNS投稿や動画を自動生成する時代が来るかもしれません。これにより、より巧妙な世論操作が可能になります。


既存メディアの役割

今回の兵庫県知事選では既存メディアの凋落が目立ちました。
今まで「第四の権力」として世論を善かれ悪かれ誘導していたテレビや大手新聞の低落が決定的になったようです。
このSNS時代には、既存メディアも否応なしに対応を迫られます。

ファクトチェック

既存メディアがSNSに対して圧倒的に優れているのが、その取材力を生かした「ファクトチェック」能力でしょう。
今までは中立性や公平性を重んじるあまり、踏み込んだ報道が控えられていたと思われますが、今後はSNS上に溢れる真偽不明の情報に対して、ファクトチェックを細かく行うことで、失われた信頼性を確保できるかもしれません。

クオリティーを追求する

CMに依存した、今までの万人受けする無難な姿勢を転換し、一部の視聴者や読者に向けて「クオリティーの高い情報」を提供することも一考に値します。
また場合によっては、スポンサー頼りを止め、サブスクへの移行も必要かもしれません。
実際に新聞ではNYタイムズやワシントンポストがネットで成功を収めています。

敢えて党派性を出す

アメリカの大統領選挙などでは、既に各メディアが、支持する政党や候補者を明確にしているケースが多く見られます。
日本でも敢えて党派性を出すことも考える時期かも知れません。


今後の展望

SNS時代の選挙において、既存の権力者が対抗するには、新型コロナウイルス対策と同様に「変異株」のような新しい戦略が必要です。SNSでの影響力を超える別の手法を用いるか、AIを活用してさらに精度の高い情報拡散を行う方法が考えられます。

ただし、こうした戦術の導入には慎重さが求められます。情報の透明性と信頼性を確保しつつ、公正な選挙を守る仕組み作りが必要です。SNSと選挙の関係は、これからも議論の対象となるでしょう。

いいなと思ったら応援しよう!