生き方、考え方を変える
多くの人が坂本龍一を求めているのは何故なんだろう?
日頃美術展には感心がない多くの人々が、今開催されている展覧会に足を運ぶ理由は何なのだろう?
私自身も、YMO世代とは言いえそれ程まで坂本氏の仕事に思い入れはなく、散開してからも、戦場のメリークリスマスだけは心に染み入るが他曲は熱狂するまでの良さは感じていなかったし、彼の様々な政治的活動での視点には賛同することはあったぐらいでしょうか、、、。
ただ、今回の展覧会の予約チケットがずっと完売になっているので、それならば目にしておく必要があるかな、といった具合で、当日券を求めて朝早くから並ぶことにしました。




私が観たいと思ったもう一つの理由は、自分にはない高度な文化的知見が、特に精神的に弱っている時には、とても欲しているので、今回、敢て「日曜美術館の特集」など予習せずに、何の予備知識もないまま作品を見るだけで自分がどれだけ理解できるか、一種の試験でしょうか、そのような挑戦もしたいと思ったのです。自分で感じて考えなければ、自分を助けてくれるヒントを得られるとはないと思ったからです。



結論を言うと、鑑賞後の私は、何一つ理解が出来ず、自分の意見を持つことには到底至りませんでした。ほう、そのような具合に作っているのかといった感心事は多々ありましたが、彼が語りかけてくる声は、私の耳には聴こえず、心には届いて来なかったのです。
これは、私の今の状況ゆえに感受性が鈍ってしまっているのか、何より私の頭の出来が悪すぎるからか、どちらとも思うのですが、この1ケ月は心のざわつきがずっと続いているので、純粋に物を見ることができないのです。悲しくなります。

真鍋大渡さんとのコラボレーション作品も、音はなんか多くの音にかき消されてしまって、視覚的な映像も太陽光でよく見えなかったので、何も感じなかったです。やはり心が崩壊しているのだなあ、、、。


そこで、帰宅してから、「日曜美術館」を観ておさらいしました、そう復習です。賢くない私は、やはり誰かの意見を聞いてから、または何かしらの制作ノートを聞くことをしなくては、このようなコンセプチャルアートは全く理解できないと思い知らされました。そして、少しでもテキストを知ると、それらの作品の良さがやっとわかった気がします。彼の作る一つ一つの作品の意味はその創作様式も相まってよく考えられており、よく出来ているなあと感心しました。
その上で、今の私にとって、とっても大きな救いとなる、彼の暖かいメッセージが心に響いてきましたね。
私は還暦を迎えて、今までの生きてきたことである意味一つの完成を覚え、いっぱしの大人としてひと区切りがついていたと、どこかで高慢な気持ちになっていたのです。そう自分は実績を残せた人間だと勘違いしていたのです。それだけでなく、その上で、まだまだ自分は若者だと勘違いをして、これからもっと自分の思い通りに事を成していける、それも大人の余裕でもって高みから何かを動かしていけると思ってしまいました。しかし、そのような気持ちと自分の衰えた身体とのギャップにより、思い通りにいかない驚きを覚え、その原因が分からずに苦しみ路頭に迷いこんでしまいました。坂本龍一はその歳を迎えて、もちろん彼は大きな偉業を成した上なのでその境遇は私とは雲泥の差はありますが、それでも彼は自分の新しい姿を見つけようとしていて、その時に、老年としての自分を受け止め、今までとは違った考え方で挑戦をしていることに気がついたのです。そうなのです、老年を自分の中でしっかりと受け止めることは、とても大事なことだったんです。その上で、これまでの考え方を大きく変換していく必要を教わりました。その勘違いがゆえに私に、このような試練が与えられたと思います。
坂本の視覚的な作品制作への挑戦は、老年として何をすべきか、そのことを踏まえていて、人は、老年としての生き方はどういったものかと心に受け止めなければならないのですね。若者の特権である日常の雑事のことに心を奪われることをしてはいけません、命の締めくくりに考えるべき思考を深めなければならないのです。
実作を鑑賞中には何も感じなかった作品群が、今、自宅で一つ一つ思い出すだに、霧が晴れるように意味がわかり、自分にとってとても身近なものと感じることが出来てきました。
坂本氏は、人が晩年にこそ芸術を求めることが必要だと教えてくれます。それは決して表面的なものではなく、混とんとした自然であるからこそ、その自然を心に刻むことで人として生きていけるのでしょう。
そういった意味で、「IS YOUR TIME」(東日本大震災で罹災したピアノがモチーフの作品)のテーマが、今、とても響いてきました。人が作る音ではなく、「自然によって調律された音」が私をも助けてくれるのです。
そこで、冒頭の問いですが、この展覧会は、以前京都でみた村上隆展に通じる「テーマパーク」的美術展と同じなのではないかと思います。意味は分かってもわからなくても、各空間にアトラクションがあって、それを友人と一緒に来て楽しむことができる展覧会なのです。そういった意味で、人々がこの展覧会に引き寄せられる要素があると思います。残念ながら独りで鑑賞しても、それはお楽しみが半減してしまったのですね、私は、、、。
このようなテーマパーク型美術展は、とても良い企画だと思う。多くの人が、美術を通して自分を整えられたらと思うのです。