美術館、行く? 1

間もなく立冬になろうかという11月のある日、某工事現場の巨大掘削機が転倒し、長く重い支柱が隣の美術館をも破損させているとのニュースが飛び込んできました。現場は大阪市都島区とあったので、すぐさま、私の大好きな「藤田美術館(ふじたびじゅつかん)」のことではないかと調べたら、まさにビンゴで、もちろん人命が一番尊いものですが、私にとっては、その美術館収蔵の国宝に指定されている作品群が大丈夫であったのかも、大きな関心事でありました。美術館屋根の直接真上ではなさそうなものの、大きな振動により、国宝「曜変天目茶碗(ようへんてんもくぢゃわん)」のような茶碗は転がってしまって破損したのではないかと思ったのです。お陰様で、人的被害は軽傷と聞き、美術館収蔵作品にも損傷なく、翌日からは開館していると聞いて、ホッと胸を撫で下ろした次第です。


(このような危険性を考えると、機械を扱うお仕事も気が抜けない緊張感が伴いますね。地球には重力がありますから、その荷重をうまくいくよう考えないとバランスが崩れてしまします。上方向に長くなればなるほど、

下にかかる力をきちんと計算するには、十分な知識と経験が要りますね。このような分野に長けた才能を持っている人も重要なお仕事(役割)であり、今後、建築業界も益々社会から求められていく仕事になりますね。)


この美術館、、、、明治時代から建つ古い建物であった頃はレトロな雰囲気が素敵でしたが、耐震対策も兼ねて2022年度にとてもお洒落な景観にリニューアルされました。その際に、地震や火事、台風、盗難などの対策は十全に為されていたと考えられますが、まさか隣の工事で被災するとは、この財団も想像すらしなかったでしょうね。まさに「一寸先は闇」というように、何が起こるかは想像もつかないものですね。

藤田美術館は、明治時代の実業家である藤田伝三郎ら一族のコレクションを現在に伝える館で、現在、国宝指定が9件、重要文化財指定が53件という名品たちをたくさん所蔵しています。なかでも、先述した「曜変天目茶碗」は、私も少しは陶芸をかじっている身として、果たしてこのようなものを人間が作れてしまうのか、と不思議さと羨望の一品です。


現在、曜変天目茶碗が完全な形で残っているのは、『静嘉堂文庫(東京)』、『龍光院(京都)』、『藤田美術館(大阪)』の3館が各々1点ずつ所蔵するのみで、このように全てが日本にあり、中国製品でありながらいずれも日本の国宝に指定されています。(同じような茶碗で、他に油滴天目という茶碗の名品も東洋陶磁器美術館等にあります。調べてみてください。)

 器を覗くくと、宇宙が広がっているようでしょう。なんでこんな模様が浮かび上がるのでしょうか?

「どんな小さなことの中にも全世界を収めることができるものだ。」ブルーノ・タウト(独/建築家)

曜変天目茶碗とは、代(960-1279)の今の中国福建省付近で作られた茶を飲むための器で、その碗内外に見られる、この世のものとは思えないような模様が、焼成中の偶然の変化によってもたらされたものであり、作り方はよく解っていないのです。本場中国では、戦乱の度にそういった美術品は壊されてきましたので、その多くは粉々に割れていたり、地中に埋まってしまって輝きを失ってしまっていますが、海を越えて極東の地に届いてきた品々は、茶道と禅宗との関係性や、時の権力者たちの保護の下、ほぼ完品のままの姿で現在に伝わってきており、その輝きは、焼きあがったままの姿で目の前に立存しているのです。制作方法も口伝であったため文書では何一つ残っておらず、近代から多くの陶芸家や研究者が再現を試みるも、再現には困難を極めてきました。挑戦者たちは、残っている陶片の断面から、土の成分や薄い皮膜層である釉薬の成分を分析し、素材解明に取り組んできましたが、それからは焼成段階の秘訣はなかなか判明しません。何故かというと、おそらく焼成途中で酸化から還元をかけているのでしょうが、どのタイミングで行えばこのような釉の流れや発色が表されるのかは、物体からは読み取れない方です。つまり、再現には実践を重ねるしかなく、試行錯誤失敗の連続でした。しかしその甲斐あってようやく、最近ではかなり完品に近いものが再現されつつありますが、それでも、この3点には足元にも及ばないと言っても過言ではないでしょう。

藤田美術館では、その碗以外にもとても貴重な品々が展示されているので、ぜひ立ち寄ってほしい美術館です。(大阪メトロ谷町線天満駅から徒歩15分程、JR・京阪・メトロ京橋駅より徒歩10分程、JR大阪城北詰駅から徒歩3分程)

また、エントランスロビーの一角は喫茶スペースになっており、現代陶芸家が作陶した茶碗で点てられたお茶を頂くことができます。しかも美味しいお団子付きであり、かつて美術館近くで会議がある折には、眠気払いによく寄っていました。ネクタイ締めたおじさんが一人、鑑賞もせずにふらりと座り込んで、ササッと喫して立ち去る姿は異様だったかもしれません・・・。コロナ明けの今はインバウンドの方々で賑わっており、並ばないといけなくなってしまいましたが、鑑賞と合わせて、ぜひ楽しんでほしいと思います。

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