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中之条ビエンナーレ2023鑑賞記【7日目】〜追想記・コスモグラフィアとは?〜

7回目鑑賞を決めるまで

群馬県中之条町で隔年で開催されているアートイベント・中之条ビエンナーレ。一巡目に4日・追加で一泊キャンプしながら都合6日間費やして鑑賞した。(10月3日終了)

それだけ時間をかける価値があるアートイベンドだと思っている。個人的には十分満足した。ただその後ある事実を再認識する。

ビエンナーレ最終日って俺休みじゃね?

最終日は10月9日(スポーツの日)、月曜で仕事休み。

そーいえば鑑賞3日目、ダニエル・ヘイズ東京さんのパフォーマンス鑑賞後演者のお二人と会話する中で「10月9日も公演しますーまたきてくださいー」なんて言われてて、確かに休みだと一瞬考えたけどその時点でキャンプすることが決定しててまさかもう行かねえだろう、と最終日鑑賞は全く想定していなかった。

ところが、である。最終日はクロージングイベント等あり楽しそうではある。

またこの夏から両肩にずしりと乗っかっていた重い仕事がちょうど片付いた。
一年に数日しかない心が晴れ上がった休日、一番過ごしたい場所で過ごしたいと思い始めた。

だとしたら、今の自分には中之条しかない。

ただ問題がある。祝日で家内も休み、家内とも一緒に過ごしたい(かもしれない)。いや、流石に毎回一人で出かけるのはマズいだろうと家内に「明日一緒に出かける?」と確認したところ
家内「私美容院行くよ」

…かくして速攻で最終日中之条で過ごすことを決定したのである。

7たび中之条へ

最終日、一日中雨予想で出発時も強めの雨が降っていた。気温も低く長袖着用。
汗だく半袖だった鑑賞始めの頃を考えると季節の移り変わりの早さを実感する。

この雨模様、三連休最終日にビエンナーレに向かう人はとてもコアなファンだろう。またアーティストの方も多数在廊しているに違いない。新たな光景に期待しながら雨の上州路を進んだ。

ビエンナーレの道しるべ、ピンク看板も今日で見納め。寂しいなぁ。

午前・やませ〜イサマムラ

やませ(旧神保家住宅)到着。
雨は止まず、底冷えする寒さ。

三梨 伸「小動物の宿」

雨の古民家の風情もまた格別だった。
想像した通り会場内には多数の出品アーティストが在廊、鑑賞客もスタンプラリーに夢中の方は少なくじっくり鑑賞または撮影している方が多数だった。

作家の山形敦子さんと会話、コンセプトや今後のことなどお聞きした。膨大なリサーチに関心。凄い。
また作家の滝沢礼子さんも在廊、他の鑑賞客と話されている説明を盗み聞き。

やませを後にしてイサマムラ(旧伊参小学校)
に到着。雨は止まない。

コロナのせいで一ヶ月延期になったビエンナーレ2021。その時のイサマムラも雨でものすごく寒かった。そのときを思い出しますねー、とボランティアの方と少し話して中へ。

ダニエル・ヘイズ東京「eggs」

ダニエル・ヘイズ東京さん、やっぱりきちゃいました私。前回半分空席だった座席(当然学校教室のイス)、今回は満席。追加公演も加わっている。良かったね!今回も素敵でした!

中之条街中ランチ〜雨の街中散策

その後昼ごはん食べに中之条街中へ。

ほづみとんかつ店へ。味噌ラーメンソースカツ丼セットを注文。最高に体が温まった。

福島 陽子「The Sun」

腹ごなしに雨の中之条町を歩きつつ福島陽子さんの会場へ。痛みノートはかなりの方の経験などが記されていた。この美しい空間でしばし他人の痛みを熟読した。

その後移動、中之条町役場に車を止めて散策。

雨の旧廣盛酒造も雰囲気十分
大野 光一「遠くで星が燃える」
CLEMOMOのトラも寒そう

先程の福島さんの作品は繊細な痛み、廣盛酒造の大野さんの作品は内面の憎しみの顕在化、どちらも沁みた。

雨の街中、旅情たっぷり。もう少し散策してから車で移動。

午後②  たけやま〜スタジオ

関 美来「景色を生む」

道の駅・霊山たけやま到着。今日の関美来さんの超巨大作品、上部がガスで見えない!

また最終日の親都神社・小山真徳さんの作品のメッセージは…

小山 真徳「電灯句」

でした。

雨の旧五反田学校
伊参スタジオ

その後旧五反田学校に寄り伊参スタジオへ。

改めてこの間泊まったキャンプ場を見渡す。
あそこで一人夜を過ごしたんだなぁ、としみじみ思った。
出品作家の中村Mather美香さんが外国人のご主人と在廊。普通に英語話せる人はかっこいい。

最後の地・赤岩へ

そして赤岩地区へ向かうべく暮坂峠越えの道へ向かった。

雨の秋の田園風景、最高に幻想的。
まるで絵画のよう。

石坂 孝雄
「フンコロガシ ー空想・くそ虫の旅ー 」

途中丸伊製材の石坂孝雄さんの作品鑑賞。
これも何故か雨天が似合う。
製材場が臨時のカフェになっていてホットコーヒーいただいた。
隣に作家の石坂さんが座っていた。なんでも今回が最後の出展とか。
お疲れ様でした。

一服終了後赤岩に向かった。

本当に雨の日の山道は美しい。若干霧模様になり、雨が弱くなってきた。

赤岩に到着。

小雨になり遠くの山には霧が。
幻想的な雨の村落。


まるで水墨画のような遠くの山々。
雨の山間地の景色がこれほどまでに美しいとは思わなかった。
やっぱ車止めて歩いてこその絶景なんだな。

菅原 久誠「万物生光輝」

菅原さんの会場訪問。ご本人が在廊していた。地学研究者でもある菅原さん、六合の生物や鉱石などリサーチの上作品作成、その過程を詳しく伺った。

本日書かれた書
「鴻雁来」

本日の書も雨水と六合の松煙から採取した墨、六合の鉱物から集めた朱、六合の鉱石を削りつくった印、六合の板、全て数百年或いは数億年スパンで生成されたものを使い揮毫されている。

雨混じりの静かな赤岩でお話を伺いながら世の万物が貴重に思えるような、膨大な時の積み重ねの上に今の一瞬が成り立っているような、そんな事を意識した。

この時山重徹夫総合ディレクター提示のテーマ
《コスモグラフィア-見えない土地を辿る-》
の意味を理解した気がした。

コスモグラフィア=ドイツの地理学者・ミュンスターが出版した想像も含めた世界地誌。

確かに私の両目は見えていて、中之条も四万も赤岩も見た通りに語ることもできるだろう。
ところがリサーチの上現地制作したアーティストの作品を鑑賞することで彼らの視点でしか見えない世界が見えるようになる。

私はビエンナーレを辿ることで今まで見えなかった中之条あるいは世界を時間や視点や距離などの区切りなく縦横無尽に見ていたのかもしれない。

お互いに「今日が雨でよかったですね」と妙な挨拶で菅原さんと別れ、最後に一番いい場所に訪れることができたことの幸運に感謝しつつクロージングイベント会場・つむじに向かった。

感動のクロージングイベント

30分かけて中之条町役場に到着。ちょうど開始時間、なんとか駐車場を見つけ小走りでつむじに向かった。

雨は降り止んでいた。正に奇跡的に。

間も無くクロージングイベント開始。
いくらさんの即席アートや野口さんのオルガンをバックに今回のビエンナーレでパフォーマンスされてた皆様が中之条に伝わる獅子舞などの伝統芸能を解釈した舞を披露。

素晴らしいパフォーマンス。
その後に披露された"折田の獅子舞"

地元若者の気迫のこもった舞い。

人々の集いの場である"祭り"。それをコロナウイルス及びコロナを過剰に恐れる人心が壊した。日本全国戻らなくなったコミュニティもあるだろう。

中之条伝統の祭りを入念なリサーチの上で町に縁のない若者が地元の若者と力を合わせて呼び戻した。彼らなりの理想の形で。

それを見せられては古来この地域を護ってきた神も雨を止ませるだろう。
神々しさを感じて感動してしまった。

中之条へのリスペクトを感じかつ伝統の継承という視点からも素晴らしい構成だった。
最後まで鑑賞できて良かった。

この後参加アーティストが集合。
各々が想いを語った。

帰りの都合もあり最後まで見れなかったけどみなさん本当にお疲れ様でした。有り難うございました。

全てが終わって想うこと

ミア・オ「四万温泉の風景」

よくSNS等でビエンナーレファンから“ビエンナーレロス"というワードを見る。
自分も多少の喪失感や寂しさなど感じつつ一体ロスって何だろうと考えた。

浅野 暢晴「異形の食卓」

アートを見たければ群馬でも、東京でも、至る所に美術館がありアートシーンがありそこに行けばいつでも観れる。
ただ中之条ビエンナーレはこの時しか見れない。

飯沢 康輔「長い川」

このイベントの人と地域との触れ合い、アーティストとの近さ、中之条の自然、歴史等が融合された作品またはお祭り感、それがまた2年待たないと体験できない寂しさなんだろうな、きっと。

半谷 学
「さしがさばなとチェンバロの白い蛹(サナギ)」

ただこの1ヶ月間楽しかった!多少仕事が疎かになったかもだけどこれほど充実した自分の時間を過ごしたことは本当久しぶり。
様々な方と会話し交わる中で人間として啓発された部分もたくさんあった。

大貫 仁美「かつては少年であり、少女だった」

2年後も健康健全な状態で中之条ビエンナーレに参加することができることを祈念して鑑賞記を終了します。

山本 純子
「Naive Material Gradation」

自分の生の中之条ビエンナーレの印象を記憶だけでなく文字に残したいなと考えて始めたnote、恥ずかしいほどのiPhone8写真や不慣れな乱文でしたがもし最後まで或いは通しで読んでいただいた方がいらっしゃったら御礼申し上げます。

有り難うございました!

K.K

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