宇宙一分かりやすい 保全処分 1 税理士試験 国税徴収法

保全処分は、国税の徴収を確実にするため、納期限が到来する前に行われる手続きです。以下では、「保全担保」を含む主な保全処分の種類について簡単に説明します。

国税の保全処分の種類

1. 保全担保

  • 概要: 納税者が、将来納付すべき国税の担保として財産を提供する手続き。

  • 特徴:

    • 対象となる国税の範囲が限定されている。

    • 提供された担保財産が確保されることで、徴収が確実に。

  • 目的: 納税者に税金を納める意思があるが、納付までの間に財産が散逸する可能性がある場合に対応。

2. 繰上請求

  • 概要: 納期限が到来する前に、納税を請求する手続き。

  • 特徴:

    • 緊急の必要がある場合に限られる。

    • 滞納を防ぐために前倒しで税金の支払いを求める。

3. 保全差押え

  • 概要: 納税者の財産を差し押さえて確保する手続き。

  • 特徴:

    • 財産が処分されたり隠されたりする恐れがある場合に実施。

    • 差押えによって財産を確保することで、納税義務の履行を促進。

4. 繰上保全差押え

  • 概要: 納期限が到来する前に、差押えを実施する手続き。

  • 特徴:

    • 納税義務の確実な履行を目的として、財産を事前に確保。

    • 特に緊急性が高い場合に行われる。

では、なぜこの国税にこの規定が必要なのか?

間接税(例: 酒税)は、納税者が消費者から徴収した税金を国に納付する仕組みで運用されます。このため、以下の理由で特殊な担保規定が必要とされています。


1. 意義

  • 間接税の性質
    間接税は、事業者が消費者から税金を預かり、国に納付するものです。つまり、事業者は税金を一時的に保管する役割を果たしています。

  • 滞納リスクの高さ
    規則的・反復的に発生するため、滞納者が過去に滞納している場合、将来も同様の滞納を繰り返す可能性が高いです。

  • 目的
    将来発生する同じ種類の税金を確実に徴収するため、事前に財産を担保として確保する制度です。


2. 成立要件(国税徴収法 第158条)

  • 適用対象
    酒税や揮発油税などの消費税を除く間接税に限定。

  • 要件
    納税者が間接税を滞納している場合、その後の税金の徴収が困難と判断されるときに適用されます。

  • 税務署長の権限
    税務署長は、担保の提供を命じることができ、担保の種類や金額、期限を指定します。


必要性の理由

  1. 徴収機能の確保
    間接税の未納は、国の財政基盤に影響を与えるため、徴収の確実性を高める必要があります。

  2. 事業者の義務明確化
    徴収の委託者としての事業者の責任を重くし、規律を保つためです。

  3. 予防的な措置
    過去の滞納実績から、将来の滞納を未然に防ぐことが目的です。


保全担保の提供命令における金額の限度(国税徴収法第158条第2項)

保全担保の提供命令を出す場合、税務署長が命じる担保の金額は以下のいずれか多い金額を基準に設定されます。


1. その月の前月分の当該国税の額の3倍

  • 計算例:
    例えば、前月分の酒税が10万円の場合 → 10万円 × 3 = 30万円が基準。


2. 前年の同月分およびその後2か月分の合計

  • 具体的な内容:
    前年の同じ月分の国税額と、そこから続く2か月分の国税額を合計した金額が基準となります。

  • 計算例:
    前年の同月分が15万円、次月分が10万円、その次の月分が12万円の場合 → 15万円 + 10万円 + 12万円 = 37万円


適用の基準

  • 以上の①と②を比較し、金額が多い方を担保金額の限度として命じます。


なぜこの規定があるのか?

  • 将来の国税徴収リスクに備え、担保金額を適切に見積もるため。

  • 国税額の変動に応じて適切な担保金額を算定し、徴収を確実にするため。


わかりやすくまとめると

担保金額は、次のどちらか高い方が基準になります:

  1. 先月の国税額 × 3

  2. 前年同じ月 + 次の2か月分の国税額合計

これで、徴収のリスクをカバーしつつ、適切な担保金額が設定されます!

(2) 保全担保の提供命令の手続(施行令第55条第1項)

税務署長が保全担保の提供を命じる際には、書面による命令が必要です。この書面には次の事項が記載されなければなりません。

記載事項

  1. 担保されるべき国税の税目及び金額
    → どの税目(例: 酒税、揮発油税)に対する担保で、どれだけの金額を対象とするか。

  2. 提供すべき担保の種類
    → 例えば、現金、不動産、保証書などの具体的な担保の種類。

  3. 担保を提供すべき期限
    → 納税者が担保を提供しなければならない期日。


(3) 保全担保の提供命令による期限の指定(施行令第55条第2項)

原則

  • 担保を提供する期限は、命令書を発行した日から起算して7日を経過した日以降とする必要があります。

  • これにより、納税者が担保を準備するための最低限の猶予が確保されます。

例外

  • 納税者について「繰上請求」に該当する事実がある場合には、期限を7日より短く繰り上げることが可能です。

    • 繰上請求の例: 財産が急激に減少したり、事業が停止した場合など、特に緊急性があるケース。


簡単にまとめると

  1. 命令書の内容

    • 何の税金をどれだけ担保するか。

    • どんな担保を提供するか。

    • いつまでに提供すべきか。

  2. 期限の設定

    • 基本は「命令書発行日+7日以降」。

    • 緊急の場合は、もっと早めることができる。


保全担保の提供命令は、納税者に準備の猶予を与えつつ、必要に応じて迅速に対応できるよう設計されています!


4. 抵当権の設定について

保全担保の提供命令に従わない場合、税務署長は抵当権を設定することで国税債権の確保を図ります。この仕組みは、納税者の財産を強制的に担保として押さえるための手段です。


(1) 抵当権の設定(法第158条第3項)

内容

  • 税務署長が保全担保の提供を命じたが、納税者が指定期限までに提供しなかった場合に適用されます。

  • 税務署長は、納税者の財産(抵当権の目的となるもの)に対して、指定金額を限度として抵当権を設定することができます。

  • 手続き

    • 抵当権を設定した場合、その旨を書面で納税者に通知しなければなりません。

ポイント

  • 対象国税は「酒税を除く」とされ、消費税など他の国税が対象となります。

  • 納税者が自発的に担保を提供しない場合に、国が直接財産を担保化する手段です。


(2) 抵当権のみなし設定(法第158条第4項)

内容

  • 税務署長から「抵当権を設定した」との通知が納税者に届いた時点で、納税者が抵当権を設定したとみなされます

  • この「みなし規定」により、納税者が特に同意しなくても、抵当権が法的に成立します。

ポイント

  • 国税債権の保全を確実にするための強力な仕組みで、納税者の意向にかかわらず効力を発生させることが可能です。


(3) 抵当権設定登記の嘱託(法第158条第4~6項)

内容

  • 税務署長は、抵当権設定の通知が納税者に到達した場合、関係機関に抵当権設定の登記を嘱託しなければなりません。

  • この嘱託には、以下の書類が必要です:

    • 抵当権設定の通知が納税者に到達したことを証する書面。

    • 登記義務者(納税者)の承諾書は不要。

ポイント

  • 通常の抵当権設定と異なり、納税者の「承諾書」が不要となっています。これにより、税務署長の判断だけで迅速に登記が進められます。


簡単にまとめると

  1. 抵当権の設定: 担保提供命令に従わない場合、税務署長が納税者の財産に抵当権を設定できます。

  2. みなし設定: 納税者が通知を受け取った時点で、自動的に抵当権が成立します。

  3. 登記嘱託: 税務署長が直接登記を進めることができ、納税者の承諾は不要です。


なぜこの仕組みがあるのか?

  • 迅速な債権保全
    納税者が任意で担保を提供しない場合でも、強制的に財産を担保化できるようにするため。

  • 税務署長の権限強化
    国税の徴収を確実に行い、財政の安定を守るための仕組みとして重要です。

ちなみに、、、

  • 酒税が抵当権設定の対象外とされるのは、免許取消しという強力な間接強制手段が存在するためです。

  • これにより、国税債権の保全を図りつつ、事業者の財産管理への過度な介入を回避しています。

この制度設計は、酒税の特殊性と免許制度の運用を合理的に組み合わせたものといえます

5. 担保の解除について

保全担保や抵当権の設定は、国税債権を保全するために行われますが、一定の条件が満たされた場合には、税務署長がその担保を解除することが義務付けられたり、任意で解除することが認められます。


(1) 担保の解除をすべき場合(国税徴収法第158条第7項)

条件

  • 滞納がない期間が3か月間継続した場合
    → 担保の提供命令に係る国税について、納税者が滞納することなく納税し続けた場合、税務署長は担保を解除しなければならない(法定解除)。

理由

  • 納税者が継続的に納税義務を果たしている場合、担保を保持し続ける必要性がなくなるため。


(2) 担保の解除ができる場合(国税徴収法第158条第8項)

条件

  • 納税者の資力やその他の事情が変化し、担保提供の必要がなくなったと税務署長が認めた場合。

判断基準の例

  • 資産状況が改善し、滞納リスクが解消された場合。

  • 経営が安定し、納税が確実と認められる場合。

特徴

  • この場合、税務署長は直ちに担保を解除することができる(裁量解除)。


担保の解除に関する違い

条件 解除の必要性 解除のタイミング 滞納が3か月間ない場合 必ず解除(義務解除) 条件が満たされ次第 資力や状況が改善した場合 任意で解除(任意解除) 税務署長の判断で直ちに


まとめ

  • 必ず解除する場合: 滞納がなく3か月以上経過したとき。

  • 任意で解除できる場合: 納税者の状況が改善し、担保の必要がなくなったと判断されるとき。


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