古びた家
「大きな土鍋、薬品棚。これだけでも魔法の研究ができる。それにしてもかび臭い」
土鍋は底が見えないほど埃がたまり、薬品棚にはカビの生えた液体がこべりついていた。アカツキは唇を親指でさすり、考える仕草をした。
「アブラカダブラ、この家をきれいにしておくんなさい」
癖のある唱え方で呪文を口にすれば、古代から伝わるアブラカダブラが功をなす。
アブラカダブラは便利な魔法の呪文で有名なのである。
大きな土鍋は、サツマイモの皮の色になり、綺麗になった。
薬品棚のかびた液体は、跡形もなく消え失せた。代わりに金木犀の香りが辺りに広がった。
「ああ、窓からは三日月。三日月は満ち欠けの兆しでもあり、幸福の兆しでもあるはずよ」
アカツキは唇をきゅっとしめて、これから来る日々を迎える支度をした。