「卒業の」 #シロクマ文芸部
「卒業の日に結ばれるなんて皮肉かしら」
細いタバコを咥えたまま女が微笑んでみせた。
安ホテルの窓から差し込む弱々しい陽光に埃が舞い、紫煙と複雑に絡み合っていた。
ついさきほどまで情事を重ねていた俺達の欲望の残滓のように。
それはあまり見ていて気持ちの良いものではなかったが、追い払うほど不快ではなかった。
「”結ばれる”なんて古風な言葉を使うんだな」
「私こう見えても意外と古風なのよ。男の趣味は悪いけど」
「そーかよ。俺は女の趣味には自信があるんだけどな」
女が照れたように顔をそらして、小さなテレビから流れてくる有名大学の卒業式の中継に目を向けた。
「全員同じ顔に見えるわね」
「眼鏡、いるか?」
「バカ、そうじゃなくて」
「わかってる。俺もこいつらの区別がまったくつかない」
精一杯着飾った学生たち。
その着る物も表情も多様性を叫ぶ世の中を皮肉るような画一的な眺めだ。
「ねぇ、マルハラって知ってる?」
「なんだ?それ」
「LINEとかで文章の最後に”。”をつけるのが威圧的に感じるんだって。マルハラスメント。略してマルハラ」
「”。”をつけるのが威圧的だ?それがハラスメントだって?」
「そうみたい。でもね、若者たちの中でも賛否両論分かれているみたいなの」
「賛否両論もなにも・・・・・・。そもそも問題視することなのかよ」
「威圧的だって感じる人が居るからじゃない?」
「なんでもありかよ。くだらな過ぎて笑えもしない。だいたい、”マル”じゃないだろ、句点だ」
「やだやだ、屁理屈オヤジ(笑)若者とコミュニケーションを取りたいなら不快に思わせてしまうことはやめましょうってことなんでしょ」
「そんなめんどくせぇことまでしてコミュニケーション取りたくねーな」
「そもそも相手してくれる若者が居ないもんね、あなたには」
「あぁ、要らねぇそんな相手。お前が居れば充分だ」
女の背中を優しく撫でる。
「あっ、ねぇ・・・・・・」
ようやく落ち着いてきた埃の渦が再び濁流へと動き出した。
画面の中の学生たちに向けてなのか、恍惚の表情を浮かべる女に向けてなのか。
声を挙げろよ。
と、俺の心が呟いた。
シロクマ文芸部っていうなんだか可愛らしい名前のわりに、頭を使う楽しい催しに参加してみました。
こんなエロっぽいのでいいんだろか。