電車でドタバタ帰省の旅~後編
「東田子の浦」
田子の浦という地名は聞いたことがあるんじゃないでしょうか?
ここで詠まれている「田子の浦」は、私が降り立った「東田子の浦」よりもずっと先の蒲原~由比辺りを指していると解釈されているようだ。
また「東田子の浦」の次の停車駅「吉原」と更にその次「富士」まで行けば、海沿いの公園や景勝地があるのは地図を見ればわかる。
但し、駅から海岸までが遠くなり、歩きではなかなかしんどそうな距離だ。
景勝地や有名どころのビュースポットに行きたい気持ちはまったくなかった。
なんせ地元民風の旅だから、なんて強がっているわけではない。
わざわざ人の多そうなところに行こうと言う気が起きなかったのだ。
「東田子の浦」駅は小さな小さな駅だった。
ここで電車から降りたのは私ともう一人だけ。
地図を見て少し歩けばセブンイレブンがあることが確認できたので、
ちょっとだけ遠回りをしてコカ・コーラを買ってから海へと向かった。
そうして到着したのがこの投稿の時だ。
砂浜ではなかった。石がゴロゴロと転がり、工事中のロープが張られていて、正統派な海ではなかった。
けどこれで充分だった。
何より私が気に入ったのは誰一人、この海岸に降りている人が居なかったことだ。
海へと降りる手前の遊歩道をランニングをしていたり、ロードバイクに乗っている人はちらほら見かけた。
ここは立ち入り禁止エリアなのでは?と思ったほどに誰一人居ない。
工事をしている場所の方には「立ち入り禁止」の表示が出ていたのは間違いないが、このエリア一帯を立ち入り禁止とする看板などは出ていなかった。
もしかしたら見咎められるかもしれない。
でもせっかくここまで、途中下車までして来たんだ。
迷うことなく海岸へと降りて行った。
砂浜ではないので靴の中に砂が入り込むことはない。
日陰はもちろんまったくなかったけど、海風が吹いていて体感はそれほど暑くなかった。
相棒?発見
波打ち際まで来ると流木やちょっとした生活ごみが流れ着いていた。
そんな中、ふと足元を見ると流木の脇にこんなモノが流れ着いているのを見つけた。
拾い上げて見ると、白い犬の小さなヌイグルミだった。
その時の投稿がこちら
この写真に写っている、私が「相棒」と呼んだこの犬だ。
この時、なぜ「相棒」なんて表現したのか。
強がって一人で海に来て見たものの、誰一人居ない海岸で寄り添ってくれるモノを欲していたのかもしれない。
コカ・コーラはすぐに温くなり、それでも久しぶりに来た夏の海から離れられず、寄り添ってくれる相棒も見つかったこともあって、私は丸石の上に寝転んで20分間ほど眠った。
目を覚まして時計を見ると電車の時間が迫っていた。
「相棒」をこのままこのさみしい海岸に置いていくのも忍びない。
かといって、こういうモノには「念」が宿っているようでおいそれと持ち帰るのも良くない。
悩んだあげく、少し波から離れた場所の段差になったところに、落ちていた大きな石で祠を作ってその中に納めた。
これなら雨風は少しは防げるだろう。
無事に予定通り、「浜松」行の電車に乗車できた。
鈍行なので地元の真っ黒に日焼けしたやんちゃそうな、精一杯背伸びしてる兄ちゃんらが多くて微笑ましい。
次の目的地は「掛川」だ。
掛川城を見た後に、お城のすぐ近くにあるカレー屋さんで遅めのランチを取るつもりだった。
約1時間後「掛川」駅に到着。
汗だくだったので掛川駅のトイレに入り、着替えをした。
トイレの個室でリュックからTシャツを取り出して着替えをしていると、
なんだかアウトローになった気持ちになって一人でニヤニヤしていた。
問題勃発
改札を抜け西口に出て振り返るとなかなか風情のある駅舎が目に飛び込んできた。
写真でも撮っておくか。
とリュックに手を入れてみる。
入れてみる、奥まで引っかきまわしてみる。
が・・・・カメラが無い!
私が長年愛用しているソニーのミラーレスが無いのだ。
いやいや、そんなはずはない。
慌てず騒がず、ロータリーのベンチにリュックを置いて荷物を広げてみた。
な・・・ない。
時間軸の記憶を辿る。
まずはさっき入ったトイレだ。あの時カメラはあったっけ?
覚えてない。
念のため、また改札から入ってトイレに行ってみた。
ちょうど個室が使われている。
暫く待っていると男性が出て来た。
手にカメラ無し。念のため入ってみたがもちろん無し。
む・・・。
そうなると、確か海辺の遊歩道を撮影して、駅までの経路を撮影して・・・。
いや、待て。
スマホで撮ったんだっけ?
そう思い、スマホの中のギャラリーを見るとやっぱり思った景色はスマホで撮影している。
と言うことはだ。海だ。あの東田子の浦の海岸にカメラを忘れてきたのだ。
うっへぇぇぇぇぇ!!
なんて素っ頓狂な叫びはあげなかった。
ロータリーに喫煙所があったのを思い出して、もう一度改札を抜けようとしたら自動改札を通ることができない。
仕組みはわからなかったが、駅員さんに事情を説明すると「もう一度入る時は切符を見せてくださいね」と注意されながら外に出ることができた。
喫煙場所に行き、ゆっくりとタバコを吸う。
戻るか?諦めるか?
戻ったところでもう1時間半ほど経っている。さらに電車を待って1時間かけて戻って、果たしてまだそこにカメラはあるだろうか?
しかも割と波打ち際で海を眺めていたから、満ち潮になったりしたら水没していることも考えられる。
さぁ、どうする。
その時、ふと思いだした。
そうだ、俺は相棒を祠に納めてきたじゃないか。
そうだそうだ。
間違いない。カメラはある。無事だ。
あの相棒が見守ってくれるはずだ。
そう確信した後の私の行動は速かった。
駅員さんに切符を見せながら、東田子の浦の海に忘れ物をしたから戻りたいと話してみた。
どうやら途中下車の旅は後戻りにはその乗車券を使うことができないことがわかった。
仕方がない。ノロノロしているとカメラが水没するかもしれない。
PASMOにチャージをして改めて改札を抜ける。
「あっ・・・。」
と何か言いたそうな若い女性駅員さん。
私の想像だが、もしかしたらこの哀れなオヤジに裏技でも伝授しようとしてくれたのかもしれない。
けど、ここで前途洋々のこの若者駅員さんに要らぬ汚点を負わせるわけにはいかない。
「いってきます」
みなまで言うな、気持ちだけ受け取ろう。
私は軽く頭を下げるとホームへと向かった。
ぶっちゃけ気が気じゃなかった。
空振りに終わる可能性も充分にある。
何度も停車駅と路線図を確認しながら乗車していた。
東田子の浦に再び到着。何の因果かまた降車したのは二人だけ。20代後半くらいの撮り鉄風な兄ちゃんは、駅を出ると駅舎を撮影したり、目の前にある神社を撮影したりしていた。
はやる気持ちを落ち着かせて急いで海へと向かった。場所は覚えている。だって祠まで作ってきたんだから。
まさかこんな短時間でまたここを訪れるとは。相変わらず海岸に降りている人は誰も居なかった。祠も相棒も無事だ。
頼むぜ、相棒。
一礼しておそるおそる海辺へと近づいた。
あった!
画像でも分る通り、もう割と近くまで波が押し寄せてきていた。
あ・・・あぶねぇ。
際どいところまで波が来ているのに、一応証拠写真を撮る冷静さ。渋いぜ、俺。
いや、そもそもカメラ忘れるか!って話。
ありがとう。この恩は一生忘れないぞ、相棒!
カメラを回収して駅へとすぐに戻る途中で、一緒に電車を降りた兄ちゃんがなんと海岸に降りて来た。
ども、こんにちは。
あっ・・・こんにちは。
いやぁ、カメラ、あっ、これね、忘れちゃって、掛川まで行って気がついて戻ってきて、もう大変よ
あっ、そうだったんですか。あって良かったですね。
なんなん?このオヤジと思ったことでしょう(笑)
すまんな、あの時の兄ちゃん。
ちょっと嬉しくてテンション上がってたのよ。
そう言えば兄ちゃん、祠は見つけただろうか?
こうして私の旅は終わったのでした。
夕方までに到着しなければいけなかったのに、結局、最寄り駅まで妹に迎えに来てもらって実家に着いたのは18時過ぎ。
家を出てから13時間後に無事に到着したのでした。もちろん掛川城もカレーもすっ飛ばすしかなかった。結局、ぶらり途中下車なんて言ってたけど、海しか行けなかった(笑)
これもいい思い出よ(強がり)
母と甥っ子の合同誕生日をお祝いした後に、このカメラと相棒の話をしていたら、
「お父さんとおんなじようなことを言ってるわ」
と呆れられた。
祠作ってぬいぐるみを納めてきたんだから、絶対にカメラはあると信じて戻ったのよ
と言う私の考え方は父譲りだそうだ。
その祠、誰かが見つけて海に流れ着いた思い出の品ぽいのをどんどん納めていって東田子の浦の名所になるかもしれないね~
こんな発想をする妹もやっぱりネリケシ家の人間だと思った兄でした。
ちなみに帰りはあれだけ嫌がっていた高速バスで帰ってきた。
快適過ぎて泣けてくるほどだった(笑)
けど、やっぱりバスは東名町田横浜辺りで渋滞に巻き込まれる。
予定を40分以上オーバーしての東京着だった。
寝てたけどね😁
ちょっと電車旅に慣れちゃった気になったので、また休みが取れたら電車旅行に出掛けてみたいと思ってます。
忘れ物はしないよーに。