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友と呼ばれた冬~第6話
玄関を出ると雪は変わらず降り続いていて、外廊下の手すりに3cmほど積もっていた。パーカーの上に黒色の薄手のダウンジャケットを羽織った千尋が先に降りていく。からだの大きさには不釣り合いなリュックが不格好に左右に揺れ、リュックに縫い付けられているペンギンのマークが踊っているように見える。俺は後につきながら気になる路地の方を見たがここからでは何も見えなかった。
「税務署通りのコンビニでなにか温かい飲物を買って店の中で待っていてくれ」
俺はそう言うと千尋に千円札を渡した。
「真山さんは?」
「郵便物を確認してからすぐに行く」
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千尋がうなずいて税務署通りへ向かうのを確認し集合ポストを眺めた。201号室の、錠もついてないポストの蓋は中からチラシに押されているのか完全に閉じていなかった。最初に見た時の違和感の正体がわかった。
他の全ての部屋のポストは宅配寿司のチラシとピザ屋のチラシが同じように突き出ていたのに対して、201号室だけはタウン誌が半分折りで突き出ている。
仕事で使う白手袋をはめて201号室のポストの蓋を開けてみた。乱雑に詰め込まれたチラシの山の下の方に他のポストに見えている寿司とピザのチラシが入っていた。チラシ以外に郵便物はなにもない。203号室のポストにも錠がなかったので開けてみると、チラシの山の下の方にタウン誌が入っていた。
何者かが201号室のチラシの山を取り出して再び詰め込んだように見えた。目的は郵便物の確認と回収以外に考えられない。探偵時代に幾度となく俺もやったことだ。がさつではあったが、チラシの山を元に戻したのはポストを調べた行為を隠すためだと考えられる。
俺はタバコの灯りの見えた路地裏へ近づいていった。人の気配はなく俺の取り越し苦労であることを期待したが、ポストのことを考えると嫌な予感は拭いきれなかった。スマホを取り出してライトで地面を照らすと足下に複数の同じ銘柄の吸い殻が捨てられていた。
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俺の悪い予感は当たってしまったようだ。
そこは思った通り、大野のアパートを監視するにはいい場所だった。アパートの敷地に出入りする者は全て監視できる。各部屋の玄関は見えなかったが、角部屋の大野の部屋は室内に灯りがつけば確認できた。
あのとき窓に近づいたことで、大野の部屋に俺が居たことはここから容易に見えたはずだ。逆光で顔が見えにくかっただろうことは期待できたが、タクシー運転手の制服を着た俺は間抜けなほどに目立っていたに違いない。
いずれにしても何者かがこの場所に、このタバコの量を消費するだけ居続けたことは間違いなかったが、吸い殻を持ち帰って証拠を残さないほどには頭が回らないようだ。それはポストのチラシについても言える素人臭さだった。はっきり大野の失踪との関連があるわけではないが、二つの不可解な事象は警告を鳴らし、俺は千尋のことが心配になった。
タバコを咥えて火をつけると左手でノートパソコンを持ち、ゆっくりとコンビニへと向かった。誰かが俺を見ているとして慌てふためく弱さを見せたくなかったが、この状況で利き手を塞いで歩くほど自信家ではなかった。
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