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桜色 #シロクマ文芸部

「桜色の……。」
「あっ!ちょっと待った!」

「なんだよ」
「絶対いやらしいこと言うでしょ?」

「い、言わないし」
「あっ、動揺」

「してないし。桜色の…桜餅?」
「なぁに、それ笑、桜餅に桜色以外あるの?笑」

「ないか笑ほらっ」
「えっ?わぁ~桜餅!食べたかったんだ!ありがとぉ」

 ガサガサと音を立てて透明なパックを開いた。

「「いい香り……」」

 嬉しそうに鼻を膨らませる二人の間をクルクルと桜の花びらが舞う。

「相変わらずキレイだね」
「やめてよ、恥ずかしい」

「桜がね」
「バカっ!」

 振り上げた彼女の手のひらを花びらが一枚、二枚とすり抜けていく。

「もう、時間だね……」


 儚げに微笑む顔が、昔と変わらないその姿が、ゆっくりと桜色に透けていく。

「また来年、必ず来るよ」

 こくりと彼女が頷いたように見えた。

 それが合図だったかのように、春風が散った花びらを舞い上げた。

 風がおさまると、あとにはただ、春霞に霞む山間の老齢な枝垂れ桜の枝が揺れるばかり。

 10年前と少しも変わらない、妻と毎春見に来た色褪せない景色。

「少し老いたんじゃないか?」

 見上げると怒ったように花びらを降らせてきた。


 小さな墓標に桜餅を供えた。

「また来年ね」


今回のお題は「桜色」。
都内は来週末辺りに咲くみたいですね。

お花見も、人だらけの桜並木も、
まったく興味がないのですが、

山間にポツリと見える山桜には
何故だかとても惹かれます。


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