五本指の靴下

知ってます？
指の部分が分かれてる靴下。

親指と他四本てのもありますし、五本分、分かれてるものもあります。

皆様はお持ちでしょうか？こんな靴下。

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新宿二丁目仲通り。知る人ぞ知る聖地の動脈線とも言える、まぁ距離は短いけど、二丁目の賑やかエリアのど真ん中を貫く一方通行。

365日ハロウィーンとカーニバルのごった煮風なハイテンションエリアで、夜中ともなると徐行運転のタクシーで埋まる道。

数台前のタクシーを止めて、助手席側からドライバーに話しかけている若い男性が居た。

乗車せずにタクシーはそのまま発進。
次のタクシーがまた止められ、助手席側からまた何かを話している。

料金の交渉だろうか？

また乗車せずに前のタクシーが発進する。

あっ、ちなみに恐らく新宿２丁目限定でしょうけどドライバーの顔を見て
乗車するかしないか判断するお客さんが居る。

私も数回、
「ダメね、行って」
と顔を覗き込まれて断られたことがある（笑）
案外凹む。

後ろの小太りのおっさんドライバーに嬉々として乗り込んだのを見ちゃうとなお凹む（笑）
そっちが好みかい！！と。

数台のタクシーと会話をしてスルーした男性客。私の番が来た。

「運転手さん、五本指の靴下履いてる？」

たまたまその日、私はしっかりと五本指靴下着用。
長時間運転する身には、指が蒸れにくいし、しっかりと「親指でブレーキ」を意識しやすいから何足か持っていたのだ。

「親指でブレーキ」は、停車時にガクンとならないようにするのに意識してたこと。
親指でソーッと力を加えていくと、スーッと停車できるのである。

「履いてますけど･･････｡」
「乗せて～♪」
「う・・・うす」

と、お客さんが乗車してきた。

えーっと･･････｡
ドライバーが五本指の靴下を履いているかどうかを聞いていたってこと？
で、前の数台のドライバーは履いていなかったと。

変わった趣向もあるもんだ、とその時は大して気にせずに、ラッキーくらいに思っていた。

それほど遠距離ではなく、ほどなくして目的地に到着した。
道中は普通の会話だったと思う。

料金を告げると、

「ちょっと靴下見せて♪」

と後部座席から声をかけてきた。

純な私は何も疑うこともなく

「いいっすよ」

と右足の革靴を脱いで、胡坐のように右足を折り曲げ、
左腿の上に、右足の五本指靴下を履いた足の先を見せた。

「へぇ～、黒なんだ～♪」
「そうっすね」

「ちょっと臭い嗅がせてもらってもいい～？」

まさかの展開だ。
めっちゃ臭いってわけではないだろうけど、出庫してから９時間近く革靴を履いて運転をしてきた我が足が、人様に嗅がせる香りを放っているとは思えない。

「まじっすか？」
「まじよ♪」

２丁目のお客様はこうして降り際に何かしら注文を頂くことがちょいちょいある。

「ちょっとだけ助手席に移動してもいい？」とか、
「ねぇ、キスしてくれなきゃ降りない～」とか、
「〇〇〇触らせてくれないとお金払わないわよ」とか。

助手席移動くらいならまだしも、キスもお触りも当たり前だが無しである。
あからさまに拒否るとゴネ出して時間ばっかり食ったり、変にトラブルになるのが面倒なので、

「すいません、うちはそういうシステムじゃなくって」とか、
「オプション料金が発生しますけど」

なんてうまく返すと笑いながら諦めてくれたりする。

「足の臭いを嗅がせて欲しい」

このパターンは初めてだった。
見た目は柔らかいオネエの方だ。

少し顔を近づけて嗅いでもらうくらいならいいか・・・と、今考えると
なかなか血迷った考えで

「臭いかもですよ、いいんすか？」

と返事をしてしまった。

途端、両手で右足をガッツリ掴まれて引き寄せられ、鼻を靴下に思いっきり
くっつけて物凄い肺活量で「グォー」っと嗅がれた。
で、一言。

「なによ、臭くないじゃない！！」

とご立腹してお金を払い降りていかれました･･････｡

あまりの狼藉（笑）と、急に漢おとこにひょう変したお客さんと、
「臭くない！」というなんだかわからない理不尽な怒り。

自分の足を他人に思いっきり嗅がれるというその行為。

大腸検査でカメラを突っ込まれた時以来の

「あたしも一線超えちゃった･･････」感。

お客さんが降りたあとの、まるでバージンを失ったような喪失感と空虚な気持ちにうっすらと涙を浮かべた夜の街の哀しい思い出よ。

その方、私の営業所だけでも「被害」ドライバーが数名居たので、なかなか有名？なお客さんらしいす。
さすがに今も居るかどうかはわからないけど、現役タクシードライバーの皆様、新宿２丁目仲通りに突っ込む際にはご注意を。