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『のぎ夏暮らし』#3
前回の最後、あの後俺たち3人は喫茶店に戻り写真集の事や茉央の夢の話を聞いた。
「そいえば○○くん映画好きって言ってたやんな?」
「うん、暇な時は基本みてるよ」
「映画館とか行った事あるん⁈」
キラキラした目で質問して来る茉央。
でも映画好きなら映画館くらい行くよな?と思いつつも答えた。
「映画館?うん、自宅療養してる間は出掛けると言ったら映画館しかなかったからね……」
「毎日行ってたん⁈羨ましい〜」
茉央の反応が不思議で奈央の方を見ると彼女は優しく答えてくれた。
「乃木坂村には映画館ないんだ」
「そっか、確かに見てないや」
言われてみればこの村に大型の施設のようなものは見当たらない。
あったのはこの喫茶店と小さな商店。
スーパーに行くのでさえ本数の少ないバスに乗らなければいけない。
映画館は恐らくもっと遠くでアクセスの悪い所にあるのだろう。
「いつか行ってみたいんだ〜映画館」
また純粋に目を輝かせる茉央。
確かに奈央の言っていた守りたいという気持ちが大いに分かる。
するとカウンター内の設楽おじさんが言った。
「そいえば○○。お前の荷物見た時にさ、プロジェクターとスクリーンあったんだけど部屋に置いたの?」
そうだ、荷物として持って来たものがあった。
前の家で自室をホームシアターのようにしていたのだ。
「え!もしかしてホームシアター⁈」
また目を輝かせる茉央。
もしやこれは部屋にまで来るパターンか?
「う、うん……あるよ」
「わぁ!なぁ行ってもええ⁈」
こんな純粋にお願いをされたら断れるはずもない。
しかしこんな美少女を自室に上げるなんて理性が保つのだろうか。
「もちろん……っ」
思わず唾を呑んでしまう。
前のめりになった茉央の服の胸元が緩い。
こんな危機感のない年頃の女子を男子の部屋に2人きりにしてしまえば何が起こるだろう。
「はいはーい!私も行きまーす!」
すると奈央が手を挙げた。
良かった、彼女がいればまだ大丈夫そうだ。
「じゃあ行こうか……」
しかしそんな事は無かった。
年頃の美少女が2人に増えたのだ。
という事は、、
☆
「(やばい、部屋に良い匂いが……)」
初めての男子部屋、そしてホームシアターのある部屋に興奮したのか美少女2人は喜んで部屋の中を歩き回っている。
「わー凄いパソコンだ!」
「これパラパラってしたらスクリーンなるん⁈」
彼女らが歩き回る度にシャンプーのような香りが漂う。
夏で暑いというのに汗臭くならないのは女の子特有なのだろうか、致死量の女の子の香りでのぼせてしまいそう。
「えっと、これを開けば……」
何とか理性を保ち茉央にスクリーンとプロジェクターの説明をしようとすると奈央が驚いた声を上げる。
「わっ、なんかパソコンついた!」
「あ、スリープにしてたんだ……」
先ほど脚本を途中まで書いていたため点け放しにしていたPCがスリープモードになっていたらしい。
画面が点り書きかけの脚本が露わになる。
「え、何これ○○君が書いてるの?」
「あっ、えっと脚本を少々……」
今まで誰にも脚本は見せた事はない。
なのでアイデンティティと言えど自信は無いし恥ずかしさもある。
なので慌てて画面を消そうとPCを操作しようとした時、、
「え、脚本かいてるん⁈」
茉央が勢いよく詰めてきた。
そのためマウスに伸ばした手は逸らされオマケに茉央と奈央の2人に思い切り挟まれてしまう。
「ぅぐっ……」
体が柔らかくて良い匂いの物体2つに挟まれ苦しい。
それでも2人は勝手にPCを弄りこれまで書き溜めた脚本のデータを漁っていく。
「え、こんなに書いてるの……?」
「どんだけ時間かかったん……?」
あまりのデータ量に少し引き気味の2人だが関心はそれより大きい。
脚本のタイトルを次々と読み上げていく。
「My Angel、支柱、僕だけの…、ラストシネマ」
「あ、こっちはファイルになっとる!」
恥ずかしいが良い匂いと柔らかさにやられて反応できない。
それを良い事に茉央はファイルを開いた。
「POU…?シリーズになっとんや」
"POUシリーズ"と書かれたファイルをクリックし開いた茉央。
そこには様々なデータがあった。
多くのシリーズ作品のプロット、そして書きかけの脚本や出来上がった脚本などが纏められている。
「お、これ"完成"って書いてあるで!読んでええ?」
一応確認をしてくる茉央。
しかし俺はもう限界だった。
「あ、あぁ……」
遂に俺はのぼせるのとパニック発作が同時に発動してしまいその場に尻餅をついて倒れてしまった。
「え、大丈夫⁈」
「どしたん、熱でもあったん⁈」
そう言って顔を近づけおでこ同士をくっ付けて来る茉央。
更に動悸が速くなりパニックによる悪寒と緊張による火照りが同時に訪れ違和感だった。
「おじさーん!○○君が!!」
すぐに設楽おじさんがやって来て頓服薬を取って来てくれた。
☆
その後なんとかホームシアターを設置できた俺たちは座椅子を持って来て横に並び座った。
何故か俺は真ん中で両隣に美少女がいる状況は変わらない。
「おじさんがポップコーン作ってくれたよ!」
「おー!ジュースもあるやん!」
女の子特有の香りがする事は変わらないが叔父さんはそれを察知してくれたのか部屋の換気をよくしてくれた。
そのお陰で何とか正気は保てている。
「そいえば○○君、脚本書いてたって事はそういう仕事したいん?」
そんな中で茉央が問いかけて来た。
「うん、それしか取り柄ないから……」
すると茉央がある提案をして来る。
「なぁ、それなら皆んなで映画つくらへん?ウチ女優やりたいし奈央はカメラ好きやし、○○君の脚本もあれば!」
なんとまぁ映画を作るだと。
そんな技術……確かに揃ってしまってはいるが。
「写真集の次は映画か〜、アリだね!」
まさかの奈央も賛同してしまった。
これはもう断りづらい。
奈央とも茉央の純粋さを守るという話をしてしまった。
「うん、やってみるのも良いと思う……」
正直実際に映画を作る事になるなんてまだまだ先の事だと思っていた。
しかし今の時代それは簡単になっているようだ、やってみる価値はあるだろう。
「やった!じゃあ一緒にプラン考えよ!」
しかし今はホームシアターと用意してもらったお菓子とジュースがある。
「でもまず何か見ようよ、そしたらもっとモチベ上がるかもよ?」
「あ、そうやった笑 じゃあ何みる?オススメとかある?」
見る映画の主導権は俺にあるようだ。
プロジェクターに搭載されたサブスクを開きこの場に相応しい映画を探す。
ジャンルから探してみよう。
恋愛はこの場ではクサいし、アクションやホラーも違うだろう。
今は夢が動き出したような場面だ、ならばそのようなヒューマンドラマこそ相応しいような気がした。
「映画がテーマの映画ってどう?」
「この場にピッタリやんな!」
こうして選んだ映画を観た俺たち。
誰かと一緒に映画を観たのは初めてだった。
何度見ても面白く感動的な映画なのだがそれ以上に新鮮味があった。
何より隣で目を輝かせる茉央の姿に俺は少し心惹かれていた。
これから映画作成が動き出すだろう。
きっと俺の鬱も良くなるかな?
ここに来た意味も見出せるかも知れない、俺の人生の意味も。
つづく