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『のぎ夏暮らし』#2
茉央と奈央の2人と出会った俺。
この日も叔父さんの喫茶店で飯をご馳走になっていた。
すると叔父さんが話し掛けて来る。
「あの子らと仲良くやれそうか?」
叔父さんの言いたい事は何となく分かる。
彼女らは明るく爽やかだ、だから鬱の俺とウマが合うかどうか。
「……正直、気ぃ遣わせちゃいそうで心配です」
鬱になったばかりの頃、両親や周囲の人々は俺に気を遣って優しく接して来た。
それが逆に辛かったんだ、気を遣って優しくされる事ほど申し訳ない事はない。
「だから鬱の事はあんま知られたくないかな……」
そんな事を話しながらアイスコーヒーをストローで啜っていると入り口の扉が開く。
噂をすれば美少女2人組がやって来た。
「こんにちはー!おじさん、完成しましたよ!」
奈央は元気に、茉央は少し照れ臭そうに店に入って来た。
彼女らの様子と手に持ったものを見た叔父さんは喜びの顔を見せた。
「マジ⁈遂に出来たのか!」
勢いよくカウンターから出て来た叔父さんは奈央から何やら冊子を受け取る。
俺もチラッとその表紙に目を向けた。
そしたら驚き、茉央の綺麗な写真が表紙になっていたのだ。
「○○君、よければ見てみて?」
すると件の茉央が余計に照れ臭そうにして俺にも冊子を渡して来た。
受け取ると表紙には美しいフォントで"五百城茉央1st写真集"と書かれていた。
「これ君の写真集……⁈すげぇ……」
思わず関心してしまいパラパラとめくっていく。
「奈央がカメラ好きだから作ってくれてん」
その奈央は叔父さんに写真集を見せている。
なので自分は今、主役の茉央本人の前で2人きりで見ているんだ。
「凄い、映画のワンシーンみたいだ……」
ふと口から出たその言葉。
本当に何も考えず言ってしまったんだ。
その言葉を聞いた茉央は驚いた顔をしていた。
「本当……?本当にそう思ってくれるん⁈」
突然前のめりになる茉央。
顔が近くて驚いてしまう。
写真集の中の美少女が目の前にいて良い匂いがする。
「え、うん……映画好きだから、こんな感じのシーン見た気がして……」
そう言うと茉央は顔を更に赤くして笑顔を見せた。
非常に喜んでいる事が分かる。
「茉央〜顔真っ赤だよ〜?」
それに気付いた奈央が2人を茶化すように言う。
「○○君が映画のワンシーンみたいって言ってくれた……///」
「よかったじゃん!夢に近付いたね!」
夢という話を聞いて俺は反応してしまった。
すると奈央が説明してくれる。
「茉央ね、都会に出て女優になるのが夢なんだ!だから私が今からプロデュースしようと思って色々やってるの!」
「うん、いつかレッドカーペット歩くの夢なんや……」
「そっか……」
しかし俺はあんまり応援できなかった。
女優に関しては良いが"都会"という言葉を聞いて嫌な思い出が少し蘇ってしまった。
「なぁ、○○君って都会から来たやんな?」
「え、そうだけど……」
「どんな所やったん?都会の話聞きたいなぁ」
瞳を憧れの光で輝かせながら前のめりになる。
しかし俺はどうしても嫌な思い出に心をやられてしまう。
「はぁ、はぁ……」
動悸が強くにり呼吸も荒くなってしまう。
「どしたん……?」
流石に茉央も様子に気付いたのか目を丸くして更に顔を近付けて来た。
ダメだ、その純粋な表情が俺の傷を抉るんだ。
「……ごめん、ちょっと外の空気吸ってくる」
あぁ最悪だ、これで印象は最悪。
店から出て行く俺の背中、弱っちいんだろうなぁ……
☆
パニック発作が出た状態で夏の田舎町を歩く。
気温は高いはずなのに体感温度は低い。
冷や汗が滝のように流れる。
「あ……」
気がつくと海の前まで来ていた。
浜辺に座り込んで頭に浮かぶモヤモヤを必死に整理しようと脳をフル回転させる。
「(あぁダメだ、考えるほど止まらなくなってく……)」
両手で頭を掻きむしってしまう。
さざなみの音さえイライラを募らせる。
すると頭を掻きむしる手を誰かに掴まれた。
「あんま良くないよそれ」
顔を上げるとそこには奈央がいた。
心配そうな顔をして俺を見下ろしている。
「何でここが分かったの……」
「私も最初ここに来たの、導かれるみたいにね」
そう言って俺の隣に座る奈央。
言葉の意味は分からない。
「○○君の気持ち、分かるよ……」
「多分わからないよ……」
「ううん分かるの。私も鬱になってここに越して来たんだ」
「え……」
思わず顔を上げて隣の奈央を見てしまう。
どこか儚げな表情をして水平線の先を見ていた。
「ってか鬱の事……!」
「ごめん、おじさんに聞いちゃった……」
設楽おじさん、あの後2人に伝えたのか。
余計な事してくれて。
「中学の時にね、友達と喧嘩しちゃってそこから少しイジメみたいになっちゃったんだ……それで苦しくなって病院の先生に勧められてここに来たの」
「そう、だったんだ……」
自分より前に鬱を発症していた事を聞き少し彼女に親近感を抱いてしまう。
「でもね、ここに来て茉央と出会ったの。あの子の純粋な顔を見てるとね、段々と前を向けるようになって来たんだ」
「うん、確かに純粋な感じだ……」
先ほど見せてもらった写真集の中にいた彼女も純粋に夢を追いかけているような感じだった。
「私たちはもう苦しい経験をしちゃった、でも茉央はまだ純粋に煌めく世界に憧れてる。だから眩しいんだ、ずっとそのままでいて欲しい」
するとこちらに向かって走って来る音が聞こえる。
「おーい」とこちらを呼ぶ声も。
「あ、茉央!」
そこに走って来た茉央の姿は奈央が今話していたように純粋そのものだった。
可憐な姿に少し心を奪われそうになる。
「あの純粋さ、守りたいんだ」
奈央の発言に共感してしまった俺。
その直後、奈央は俺の事も言った。
「もちろん君も、ここで元気になって欲しいな!」
そのまま茉央と合流。
彼女は俺に謝罪をしてくれた。
「ごめんね、私何も知らなくて……奈央の事もあったのに、、」
「良いんだ、優しいのはよく分かってる」
そう返し暫く3人で海を眺めてから俺たちは喫茶店に戻り写真集や夢の話をしたのだった。
つづく