『のぎ夏暮らし』プロローグ
俺は都会が嫌いだ。
でも大好きな映画を仕事にするためには都会で暮らすしかない。
何か一つ好きな事を見つけてもそれにまつわる他が嫌いだったら好きを全う出来ない、そんな世の中も嫌いだ。
映画を見るにも作るにも人混みの中に行かなきゃならない、作るならもっとその中で戦わなきゃいけない。
一年の時の学祭で自主制作映画を作ったけど評価は貰えなかった。
数々の展示に埋もれて誰も見に来てすらくれなかったんだ。
それが引き金になったのかな、鬱を患っちまった。
これ以上都会にはいられない、ってかもう人が嫌いになった。
そんな俺を見た家族は心配してか次の夏休み、親戚の家がある田舎町に俺を預けると言う。
療養のための生活だ、鬱が良くなるまで預かってもらう。
転校の手続きも済ませたらしいが正直乗り気じゃない。
俺はもう人とは関わりたくないんだ。
映画の中の美しい人々なんてこの世には居ないんだよ。
そんな俺は今車に乗せられ田舎町に到着した。
確かに景色は素晴らしい、でも少なからず人はいるんだよな……
そんな事を思ってると早速車が住人とすれ違った。
同い年くらいの女の子二人だ。
一瞬だから顔はよく見えなかったけど関わる事になるのかな……?
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「ねぇ奈央、今通ったのって多分……」
「うん、設楽さんの親戚が来るって言ってたよね」
「確か同い年だって」
「どんな子だろう?茉央の憧れの都会から来たんでしょ?」
この田舎町での出会いが心に大きく影響するなどこの時はまだ知らない。
『のぎ夏暮らし』始まります。