自堕落のススメ
私は、定時の仕事をしていない。
そして、気ままな一人暮らしである。
これを聞いて、自由で羨ましいと思う人もいるかもしれないが、
実はそうではないということを、会社を退職してから知った。
いつ起きて、何を食べて、何をして、いつ寝るのか。
全てを委ねられるということは、実はとても残酷なのである。
セミリタイアして早々にこのことに気づいた私は、
敢えて自分に厳しめの規律を設けることにした。
まるでお寺のような生活である。
これはこれで自己肯定感を保ちながら、日々穏やかに過ごすことができる。
けれども、この自分で決めた規律が時に息苦しく、
抗ってみたくなる瞬間がふと訪れることがある。
根が怠惰な私は、毎日休むことなく永遠に継続することはできないのだ。
この「自堕落になりたい」という欲求は、
数ヶ月に一度ほどのペースでやってくる。
そしてそれがやってきた時は、素直に受け入れることにしている。
チャンス(?)は訪れた。
春の長雨の時期に入り、朝の散歩ができない日が続いている。
これはチャンス!とばかりに、私はいそいそと自堕落生活の計画を立て始めた。
ここで重要なのが、始まりと終わりを予めしっかりと決めておくことだ。
今回は、土曜日の朝から月曜日の就寝時までと決めた。
この間は、敢えてだらしない生活を送る。
布団の中でダラダラと動画を見続け、好きな時間に食べたいものを食べる。
料理をするのが面倒ならデリバリーなんかも利用する。
お菓子やジャンクフードも気にしない。
汚れた食器や洗濯物は溜まり放題、
ベッドの周りも脱ぎ散らかした服が散乱している。
お風呂も入らなくても、まぁいいか……。
朝から晩までソファーでゴロゴロして、気がつけば眠っていたりして。
この背徳感がたまらない。
昔学生の頃、親の目を盗んでちょっと悪いことをしたあの感覚。
(自転車の二人乗りをしたり、夜こっそり友達の家に遊びに行ったりの程度だが)
でも、だんだん疲れてきた。
寝過ぎによって頭痛はひどくなり、運動不足で手足もむくみ始めた。
ソファーでずっと横になっていたためか腰も痛い。
丸三日自堕落生活を決め込むぞ!と息巻いていたのであるが、
リミット前に体が悲鳴をあげたため、早めに切り上げることにした。
情けない話である。
昨日の夕方、まずシンクに溜まった食器を全てきれいに洗って片付けた。
ちょうどゴミの日だったので、家中のゴミを集めて捨てた。
ベッドの周りに散らかった服をたたんで収納し、
洗濯物をまとめて洗濯機にかける。
お風呂に入って肩まで湯船に浸かり、体をほぐす。
いつもより丁寧に念入りに体を洗い、シャンプーをする。
ベッドに入る前に軽くストレッチをしたら、
頭痛と腰痛が少し改善していた。
あぁ、スッキリした!
明日からは、またちゃんと生きていこう!
その時、ふと思った。
私は、怠惰を楽しみたかったんじゃなくて、
このリセット感を味わいたかったんじゃないか。
いわゆる、メリハリというやつを。
いいことも悪いことも、毎日繰り返しているとマンネリ化してくる。
マンネリというものは、
時に好奇心とか感謝といったプラスの感情を削いでいく。
この薄らいでしまった良い感情を
自堕落な生活によって思い出したくなるのかもしれない。
そう考えると、自堕落な生活もたまになら悪くない。
ややもすると日常に埋もれてしまいがちな大切なものを、
「自堕落」は思い出させてくれるのである。