fourth/forth/force
1.fourth
社会人4年目としての最後の日曜日。
明日、スーツ姿の新入社員をおそらく見かけることになる。
自分も社会人5年目の姿で初の出社をすることになるが、特に感慨は無い。
出向が決まった同期たちは、明日から新しいオフィスへお世話になる。
今日の夜は、同期たちとマーダーミステリーに参加する。
架空の世界で人が死に、謎を解き、4年目の姿に戻り、眠った後、5年目の朝が始まる。
2.forth
ページを読み飛ばしたかのような、気温の上がり方。
今年初めて引っ張り出した半袖シャツに袖を通し、docomoのチャリを借りて、上野公園へ向かう。
「花見のために集まり、花が咲いてない中、何も気落ちせずパーティーを楽しんでいる人たち」を見るために向かう。
不忍池のあたりから、明らかに人の数が増える。
アヒルのボート、フォークソングのライブ会場、やたら集金に拘りを見せる猿回し芸人、骨董市、掻き入れ時であろうピザーラのキッチンカーを通り抜け、花見客の多そうなエリアに着く。
SNSで見た「花見客、花咲いてない中、下を見ながら飯食ってて草」みたいな投稿は、マジだった。まあ元々彼らも、人を見るために来ているはずだと思う。
下を向きながらでも、おそらく前向きな話をしているのだろうと想像する。
疎に咲いている桜を撮影する人も、安いブルーシートの上で騒いだ後ゴミを持って帰らない人も、学生として迎える最後の一日を惜しんでいるであろう人も、等しく時間は一つの方向に流れ、新しい季節を迎える。
3.force
最近、暖房を使わなくなった。もはや必要が無くなったからだ。
ある学生は、もはや学生では居られなくなった。明日から新社会人だからだ。
1人の人間が住む部屋の温度なんてまるで関係無しに日本の気温は上がったりするし、1人の学生があとどれくらいモラトリアムを享受したいとしても、親の、会社の、社会の要請が、身体をオフィスに向かわせる。
この世に存在する力の構造は、無数の入れ子として連なり、知覚することの出来ない早さで、大きさで、変形する。
オッペンハイマーが去った後の世界で、僕はAIR FORCE 1を履き、社会人5年目としての自覚に震え、それでも前を向きながら、嘘の無い4月1日へと、歩みを進めていく。