#12 あめじ
干上がりかけた小川に沿って規則正しく並んだベンチ。その南方から3つ目がわたしの指定席。
材質は木製で、背もたれの左側一部が破損していて、虫食いやささくれがある。
このベンチはわたしの知る限り、もう一人指定席にされている方がいらっしゃって・・勝手ながらその方を”あめじ”と呼ばせていただいています。
あめじは、片方の手のひらに収まるほどの巾着袋を下げ、その中に入っているあめちゃんを、出会った子どもに配っているおじいさん。
活動中、決してにこやかとは言えない微妙な表情が、若干怪しげではありますが、子どもを前に腰をかがめる姿は、疑いのようのない善人で、人との触れ合いに生きがいを感じているようにも見受けられます。
ベンチを共有する我々は、会う度に、明らかに子ども枠をはみ出している女が、あめちゃんを頂戴している訳ですが。
3度お会いして、きちんと会話をしたことは一度もありません。
こちらが挨拶やお礼を述べると、決まって、重くねっとりした濁音が返ってくるだけ。
そして、あめじのくれる塩飴。
これが非常に不味い。
わたしはどうしても好きに慣れない。好みの問題なのでしょうが。。
口に入れてもペッとすぐに吐き出しポケットティッシュに丸め込む。
では、なぜ口に入れる?
例えるならば、くっさい爪垢を嗅いでみようと思う心理。
これと似ているような気がします。
わかっちゃいるけど、それを確かめたいのです。
・・これが一年前の話。
今年の夏は暑すぎたために、小川に行くことはありませんでした。
もう少し涼しくなったら行ってみようかな。
行ったら必ず会えるってわけじゃないけれど、会えたらほっとするかも。
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