黙食
僕は無言で食事をしたい。
所謂『黙食』を続けたい。
食事中に会話をしていると、その間、口に物を運べなくなるので、食事が進まなくなる。
そうしているうちに、満腹感を覚え、普段食べられる量が完食できなくなってしまう。
「もうお腹いっぱいなの?」
「全然食べてないじゃん!」
よく言われる言葉だ。
「おまえが話しかけてくるからだろ!」
「逆におまえよくそんなに喋りながら食えるな!」
と言い返したくなるが、会話をしながら食事を楽しむのが一般的であり、僕のようなタイプは少数派、つまり、そんなことを言ったら非常識な人間だと思われてしまうため
「少食なんだよね」
と適当に返しておく。
『黙食』とは言っても
「美味しいね」
「そうだね」
くらいのラリーはしても良い。
一番最悪なのは、食事中にエピソードトークをしてくるやつだ。今この場の主役は生姜焼き定食なのだ。おまえのエピソードなどどうでも良し、そんな長い話をされたら、生姜焼き定食を美味しく食べられなくなってしまうだろうが。俺の750円返せ。
家族と食事をしているときに、進路の話やお金の話など、深刻な話をされるのも苦痛だった。「何故今その話をするの!?食欲がなくなるじゃないか!」案の定、半分も食べることができず
「どうしたの?体調悪いの?」
と心配された。
いや、原因わかるだろ!!
そもそも食べながら会話をすることには、労力が要るし、デメリットも大きい。
口の中に食べ物が入っているときには話すことができない。口の中の咀嚼物が見えてしまい、非常に汚いからだ。話すために口の中を完全に空にしなければならないので、自然と食事が忙しくなる。その結果、目の前の料理を100%楽しむことができなくなる。
そうなってしまうのであれば、食べるときは食べる!話すときは話す!ときちんと分け、それぞれを最大限に楽しんだ方が良いのではないだろうか。
⚫︎補足
食事中にエピソードトークをしてくるやつらは大抵、口の中に咀嚼物が残っている。汚い。話も大抵おもしろくない。
⚫︎例外
例えば『飲み会』は例外の一つだ。飲み会は食事に重きを置いていない。お酒を飲み、酔っ払い、しょーもない話で盛り上がることを目的としている。
同様にして、歓迎会や送別会なども例外だ。それらに共通しているのは、『会』という文字、また、食事が主役ではないという点である。
僕は中学生のとき、陸上部に所属していた。
中学二年生のとき、陸上部の『三年生を送る会』に参加した。
午前中にボーリングをした後、お昼に焼き肉屋に行った。
コミュ症だった僕は、一言も発さず、焼き肉を食べることに集中していた。かと言って、がっついていたわけではない。それを見ていたS先輩が僕に言った。
「普段喋らないやつが肉バクバク食ってんじゃねえよ!」
僕は傷付いた。普段大人しいやつにバクバク食べる権利はないのか。
だが、S先輩のその一言によって周囲の人たちが笑い、僕は会話の輪に入ることができた。
S先輩の発言に同調し
「そうっすよね!笑」
と言っていた同期には少しイラついた。
でもそれは仕方がない。悪いのは僕だ。「普段喋らないやつ」は余計だったが、S先輩の指摘は間違えていなかった。『三年生を送る会』において、主役は焼き肉ではない。三年生を気持ち良く送り出すことこそが主役なのだから。