秋の関東!一都五県ぶらつき旅【埼玉編】
二日目(9月17日)
関東のぶらつき旅二日目は埼玉県和光市からスタートだ。
和光市ご在住の方には申し訳ないが、非関東人にとってはその場所すらすぐに見当がつかない地方都市だろう。
特に観光名所等があるわけでもなく、東京都板橋区と隣接する東京のベッドタウンという印象だ。
地図を見ると意外と畑などの農地が多いのが特徴だろうか。
和光市に宿泊した理由は二日目の目的地が近いためだ。
目的地は和光市と朝霞市の市境に位置しているため、距離的には和光市の中心街の方が近い。
そんな二日目の最初の目的地は、陸上自衛隊朝霞駐屯地だ。
りっくんらんど(陸上自衛隊広報センター)
朝霞駐屯地内にある陸上自衛隊の広報施設で、「りっくんらんど」というのは愛称だ。
ここには陸上自衛隊の各種装備品が大量に展示されている。
本州では目にすることが出来ない兵器や用途廃止となった旧式兵器も多数展示されているので、自衛隊マニアは必見だろう。
壁にはマスコットキャラクターのヒヨコ隊員が描かれている。
かわいい。
AH-1S
展示エリアに入ると真っ先に目に入るのが、館内中央に展示されている攻撃ヘリコプターAH-1Sコブラと空挺団が使用する落下傘(パラシュート)だ。
簡単に説明すると、攻撃ヘリコプターというのは対戦車戦闘をするための武装ヘリコプターのことだ。
機関砲やロケット砲のほか、対戦車ミサイルなどを装備している。
戦闘防弾チョッキ
これは自衛隊用の防弾チョッキだ。
名称は戦闘防弾チョッキ1型といい、現行装備は防弾チョッキ3型なので2代前の装備品ということになる。
着用体験ができるのでやってみたが、約4キロという重量は想像以上に重かった。
これにセラミックプレートを入れると小銃弾に対する防弾性能も獲得出来るそうだが、かなりの重量になるので倒れると自力で起き上がることも大変らしい。
小銃等
これは自衛隊の20式5.56mm小銃といい、令和2年に正式採用されたばかりの新型小銃だ。
まだ配備数も少ないので、私も現物を見るのはこれが初めてだった。
標準で伸縮可能なストックやマウントレールが目を引く現代のアサルトライフルといった意匠をしており、FN社のSCARとM4カービンを合わせたような外観をしている。
89式の方が見慣れているからか、個人的な外観だけで言えば89式の方が好みだ。
これは携行型の地対空ミサイルで91式携帯地対空誘導弾といい、地上から航空機に対して攻撃を行うための装備だ。
16式機動戦闘車
さて、いよいよ最大のお目当てが現れた。
展示室の一角で強い存在感を放つ装甲車両こそ、今回私が最も見てみたかった装備の一つである16式機動戦闘車だ。
いわゆる装輪戦車と呼ばれるもので、その特徴は何と言っても戦車であるにもかかわらずキャタピラではなくタイヤで自走する点にある。
一言で言えば、その名の通り高い機動力を有しているのだ。
最大の強みは長距離を高速で自走することが出来る点だろう。
機動戦闘車は舗装された道路であれば最高時速100キロで自走することが可能であり、この点において既存の戦車を大きく上回る。
そもそもキャタピラを装備した普通の戦車を長距離移動させる場合、自走により移動させることはない。
その理由は色々あるが、主な理由は次の2つだ。
まず1つ目の理由は、キャタピラで走行することにより道路の舗装を破壊する恐れがあること。
そして2つ目の理由は、戦車の駆動系などに高い負荷を与え戦車そのものを故障させる恐れがあることだ。
この他にも戦車は極めて燃費が悪いため、戦車を自走させることは経済性や燃料補給の面においてもデメリットにしかならない。
このような事情から、普通の戦車を長距離を移動させる場合は戦車運搬車(戦車トランスポーター)と呼ばれる大型トレーラーの荷台に戦車を搭載して移動させることになるのだ。
しかし、当然のことだが30トン以上もある戦車を搭載した状態で時速100キロで走行することは不可能だ。
また、戦車をトレーラーへ乗り降りさせる作業も時間がかかる。
ところが機動戦闘車ではこうした作業が不要なので、到着後の展開も迅速に行うことが出来るというわけだ。
機動戦闘車は迅速に展開できる機動力の高さがウリだが、その利点は陸上を自走する時だけにとどまらない。
なんと機動戦闘車は航空機で輸送することが可能なのだ。
航空自衛隊が運用する国産輸送機C-2の積載能力は約32トンだが、機動戦闘車の重量は約26トンとこれに収まる重量に抑えられている。
間違いなく空輸を意図した設計だろう。
重量について比較をしてみると、陸自が運用する主力戦車の10式戦車は約40トンもあるため自衛隊の保有する輸送機では空輸することは出来ないし、通常の戦車を空輸する運用も想定していないのだろう。
搭載する砲は105mmライフル砲だ。
10式が搭載する120mm滑腔砲よりも威力は低いが、戦車以外の装甲車両なら容易に撃破可能な威力を持っている。
10式戦車
タイヤがついた16式とは異なり、キャタピラを装備した王道の戦車が10式戦車だ。
この戦車は本州では静岡にある富士教導団等を除き北海道と九州にしか配備されていないため、滅多に目にすることが出来ない貴重な装備品の一つでもある。
アニメ「ガールズ&パンツァー」の劇中ではC-2輸送機から空中投下されていたが、もちろん現実ではそんな事は出来ない。※
※C-2の積載能力は最大36トンであり、重量40トンの本車両を積載することは不可能。一応、劇中の機体はC-2改という架空の機体らしい。
90式戦車
陸上自衛隊で最も重い戦車であり、その重さは実に50トンにもなる。
これは当初から北海道における運用を想定して開発されたためで、配備先は静岡にある一部の部隊を除きすべて北海道となっている。
そのため、私は90式も初見だった。
74式戦車
突然だが、数ある戦車の中で私が一番好きな戦車は74式戦車だ。
全体的に丸みを帯びたやや古めの形状が、いかにも戦車といった感じがしてお気に入りなのだ。
通称ナナヨンと呼ばれるこの戦車は、61式戦車に次いで戦後二代目の国産戦車だ。
後継の90式戦車は北海道のみに配備されたため、北海道を除く地域では半世紀に渡り現役として運用されていた。
そんな74式も旧式化や陸自の改編に伴い数を減らし、令和6年3月31日をもって全車退役してしまった。
89式装甲戦闘車
この外観ではミリタリーに興味のない人は戦車だと思ってしまうかもしれないが、これは戦車ではない。
装甲戦闘車という名前が付いているが、分類としては歩兵戦闘車にあたる。
これも軍隊的な用語を言い換えた自衛隊用語の一つで、軍隊ではないという建前の自衛隊では「歩兵」という言葉を使うことが出来ないのだ。
例をあげると、歩兵科は普通科、軍艦は護衛艦、攻撃機は支援戦闘機といった具合だ。
もっとも、こんな言葉の言い換えは日本国内でしか通用しない。
数年前に韓国軍の軍艦から海上自衛隊の航空機がレーダー照射を受けた際の映像が公開されていたが、あの時も平然と「THIS IS JAPAN NAVY」(こちら日本海軍)と名乗っていた。
少なくとも外国人相手にJMSDF(Japan Maritime Self-Defense Force/日本国海上自衛隊の英名)などと名乗ったところで通じないのだろう。
日本人でもピンとこないぞ。
やや話が脱線してしまったので、歩兵戦闘車の話に戻そう。
歩兵戦闘車とは、装甲により兵員を防御し、搭載する機関砲による火力、そしてその機動力によって歩兵の作戦を支援する役割を担う戦闘車両だ。
搭載する武装は35mmの機関砲と対戦車ミサイルだが、あくまで自衛用なので戦車とガチンコ勝負するための車両ではない。
ガンタンク
V作戦により開発された地球連邦軍のモビルスーツ…ではない。
この車両は87式自走高射機関砲といい、要するに地上から航空機やミサイルを攻撃するための機関砲だ。
35mm機関砲を二門装備した特徴的な外見から、機動戦士ガンダムに登場するモビルスーツ「ガンタンク」の異名を持つ。
民間人どころか陸自内でもガンタンクと呼ばれているらしい。
自衛官はオタクが多いらしいので、この話はきっと事実なのだろう。
94式水際地雷敷設装置
戦車などが並ぶ中、これまた珍しい車両が展示されていた。
この水陸両用車は94式水際地雷敷設装置という水際地雷を敷設するための車両だ。
水際地雷というとピンとこないが、要するに機雷の事を指している。
機雷とは海中もしくは海底に設置する爆弾で、これを海岸線に敷設することにより地上部隊の上陸を阻止するのが目的だ。
島国だからこその兵器と言えるだろう。
特殊な兵器故に配備先も少なく、私の住む愛知の近隣では和歌山の部隊に配備されているらしい。
UH-1
狙って訪れたわけではないのだが、この日はなんと陸上自衛隊の多目的ヘリコプターUH-1の搭乗体験が出来る日だった。
事前抽選なので乗ることは出来ないが、ヘリコプターの発着陸を見学することは出来たので間近で見てきた。
なお、この離発着の見学も順番待ちが必要だった。
ヘリコプターが発生させる風は凄まじかった。
軽い手荷物だと吹き飛ばされてしまうほどの強風なのだ。
さすがにヘリコプターに乗ったことはないので、いつか一度は乗ってみたいと思っている。
中距離多目的誘導弾
多目的誘導弾という名前からは何を攻撃するのかわかりにくいが、この装備が対象とする攻撃目標は戦車と上陸用舟艇だ。
79式対舟艇対戦車誘導弾というミサイルの後継品で、高機動車に車載されているため機動性が高い。
遠隔操縦観測システム
今や無人航空機といえばコンパクトなドローンが主流だが、今を遡ること20年以上前に開発された自衛隊の無人航空機がこの遠隔操縦観測システムだ。
要するに大型の無線ラジコン式ヘリコプターで、ドローンが一般化した現代ではかなり時代遅れな感は否めないだろう。
調べてみると運用にあたり隊員30人、車両6台も必要とする大掛かりな装備らしく、素人目には容易にドローンに取って代わられてしまいそうな気もする。
74式自走105mmりゅう弾砲
正式化した時点で性能不足のためいきなり陳腐化し、たった20両あまりが生産されただけという激レア装備だ。
すでに全車退役しており、そのうちの一両がこうして展示されている。
75式自走155mmりゅう弾砲
74式の隣に展示されているのは75式自走155mmりゅう弾砲で、こちらは砲も車体も巨大化している。
比較写真を撮っていればわかりやすかったが、あいにく両者が並んではっきり映る写真はない。
不覚だった。
74式と75式と名前が似ていてややこしいが、性能不足の74式に代わる主力の自走式火砲として採用されたのが75式ということになる。
要は74式よりも搭載する火砲の威力が大きく、射程も長いのだ。
96式装輪装甲車
自衛隊が使用している装輪式の装甲兵員輸送車だ。
ブルドーザーやショベルカーなどの工業用重機で有名な小松製作所が生産していた。
ここには12.7mm重機関銃M2か、96式40mm自動てき弾銃(グレネードランチャー)のいずれかを装備出来る。
館内に貼ってあったポスターなのだが、面白すぎて撮影してしまった。
普通科とは陸上自衛隊の兵科の一つで、一般的な軍隊でいう歩兵科の言い換えだ。
なお、ここを訪れたのは令和5年9月17日だ。
ポスターに印字されている年月日は令和4年10月7日なので、なんと一年前のポスターが貼りっぱなしにされていた。
面白かったから、あえてそのままにしているのかもしれない。
これは英断だと思う。
二日目の午前中は完全にミリオタ趣味で潰れてしまった。
りっくんらんどで写真を撮りすぎて記事が埋まってしまったので、この後の行き先は次の記事で書くことにしよう。