
公務員のフレックスタイム制導入議論
変化する公務員職場
働き方改革。
ワークライフバランス。
そして、フレックスタイム。
こういう言葉が公務員職場でよく耳にするようになりました。公務員職場は今、劇的に変わろうとしています。
深刻化する少子化に伴って労働力の確保が難しくなった為、一定の水準を保ちながら安定的な労働力の確保をすることを目的に従来の働き方では職員の確保が難しくなるという危機感に端を発した取り組みとなっています。
簡単に言うと、公務員が自分の都合に合わせて労働時間や労働環境を選択できるように見直しましょう。そうすることで育児や介護などの個人の都合に合わせた働き方を進めることができ、能力の高い若き優秀な人材を確保できる職場環境につながると言うことのようです。
さて、労働時間の見直しについては、フレックスタイムの導入が挙げられており、総務省からも地方自治体に対して積極的に推進するよう通知がされているところです。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000939781.pdf
ただし、『各地方公共団体の実情に即し、適切にご判断いただくようお願いいたします。』とあり、この内容は国家公務員の主なフレックスタイム制の見直し内容が書かれています。これは地方公務員は国家公務員と業務内容や対象が全く異なることからフレックスタイムの導入は地方自治体には向かない事もあるということではないでしょうか。
変化しない業務内容と対象者
霞ヶ関にいる国家公務員とは違い、基本的に地方公務員は常に住民と向き合っています。
窓口部門はもちろんですが、福祉や医療介護などの相談部門、道路や上下水道の維持管理を行う現業部門など、いつもパソコンやZOOMに向かえば完結できる業務だけとは限らないのが地方公務員の職場です。
この業務内容と対象者は、働き方改革という旗を掲げても変わりません。
また、民間企業でもやはり「取引先の営業時間は確実に対応できるように」という方針から、フレックスタイムの導入にはそぐわないという企業もあるようです。
今回の件は「国が始めたからすぐに地方自治体でも導入を!」というのは早計過ぎると思います。とはいえ、総務、財政、企画部門等はフレックスタイムが可能だと思いますし、不定期な就労時間となりがちな広報部門や企業誘致部門などはフレックス制に恩恵を感じるかもしれません。
しかし、同じ職場の中でフレックスができる部署とできない部署ができてしまうことは部門間の分断をさらに深化させ、ただでさえ縦割りと言われるお役所構造にますます拍車をかけてしまうだけのように感じていますし、同じ職場に働く職員にもいらぬ不公平感を感じさせるだけだと思います。
誰のためのフレックスタイム制なのかということ
まず誤解の無いように表明しますが、私は地方公務員のフレックスタイムに全否定というスタンスではありません。職員や住民がきちんと理解して両者が納得した形で進められるのであれば、今の世の中ではむしろ積極的に推進すべきだと思います。
そこで真っ先に思うのが、フレックスタイムは果たして誰のために行う制度なのかということです。地方公務員はその自治体の発展やそこに暮らす住民の福祉の向上、市町村の住民自治の為に働いています。それは民間企業が顧客第一主義であるように、地方公務員は住民第一主義であるということが議論の出発点でなければならないのではないかと思っています。
しかし、現実に議論されているのは
「どうやったらこの職場でもフレックスタイムを導入できるのか」
「実際にフレックスタイムを導入したらどんな問題が起こるのか」
という、どうも身近に感じる周囲の議論は「フレックスタイム導入ありき」という前提で始まっていて「現在、我々の仕事(職場)にフレックスタイムは本当に必要なのか」というスタート地点が完全に抜けています。
行っている議論はフレックスタイムを導入することが目的になっており、その手段について一生懸命議論していることに毎日とても違和感を覚えます。
国の通知はフレックスタイムを制度化したというものではなく、あくまでも地方自治体が実情に即して適切に判断することを求めているに過ぎません。別に導入しない選択肢を取ってもペナルティはないのです。
なのに毎日フレックスタイム導入ありきの議論の数々。
それより前に議論しなきゃならないことがあるんじゃないの?と感じるばかりです。
特に気になるのが、フレックスタイムを導入したときに窓口時間の短縮という結論を同時に導き出す考えがあります。
埼玉県志木市の例
コアタイムの設定をすると、どうしても現状の体制では窓口業務に支障をきたすという理由から開庁時間とコアタイムの連動が必要という理屈です。これは住民の理解を得られなければ開庁時間の短縮という住民サービスの低下にしか映りません。普段から住民に「公務員は楽をして俺たちの税金から給料をもらっている」と批判されているのに、住民理解を得ることをしないでそんなことをしてしまったら説明する前から「なんだ、公務員はまだ休むつもりなのか」という批判を頭から受けることは確実だと思います。
しかし、残念ながら住民理解を得るという視点が全くな無いままに庁内議論だけがどんどん制度開始に向かって進んでいます。完全に自分達の都合だけで住民合意も得ずに勝手にです。
時期尚早という感覚
過去に週休2日制が導入され、日本全体の会社や学校が一斉に土日を休日にした変化を私は経験しています。あの時は社会の情勢を見据えながら、しっかりと週休2日の考えが住民にも浸透して初めて公務員職場にも導入されました。
そのことを考えると、国内でそういう意識統一がされるようになればフレックスタイム導入も十分可能だと思いますが、国は制度化せずに各自治体判断に任せるという方法をとっており、住民から苦情が来てもそれはその判断をした自治体の責任ということになります。
また、都市部と地方部では生活事情も異なります。通勤時間や保育環境、高齢化率などの要素は同条件では計れない要素も多々あります。
確かに少子化からくる職員の確保という問題は大きなことです。しかし、現状を見ても公務員という職業を選んでくる人は、やりがいとか成果主義、俸給の額ではなく、地元への愛着や生活の安定という要素が大きいと感じています。早くからフレックスタイム制を導入したからといって劇的に求人倍率が上昇するとはどうしても思えないし、逆に職場内の連携を阻害する弊害の方が大きいと思うのです。
将来的な制度の導入は十分ありだと思うのですが、地方公務員のフレックスタイム制導入は、住民の制度に関する理解と意識醸成を待ってから取り組むべきなのではないかと私は思います。